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「南北首脳会談サイト」を韓国政府がオープン、日本語でのサービスも…狙いは「平和イメージ構築」にあり

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
「2018南北首脳会談オンラインプラットフォーム」メイン画面。キャプチャは筆者。

南北首脳会談を10日後に控えた17日正午、韓国政府が南北首脳会談の詳細を伝える特設サイトをオープンした。今後は日本語でも多くの情報が提供される見通しだ。サイトを覗いてみた。

「2018南北首脳会談オンラインプラットフォーム」

この日公開されたサイトの正式名は、「2018南北首脳会談オンラインプラットフォーム」。「2018南北首脳会談準備委員会(以下、準備委員会)」が管理する。

00年、07年に続き3度目となる南北首脳会談は今月27日に、南北軍事境界線がある板門店の南側施設「平和の家」で行われる。

韓国政府による正式名称は「2018南北首脳会談」となる。なお、北朝鮮側では「北南首脳相逢および会談」(10日、朝鮮中央通信)と表現している。

3月5日から6日にかけて韓国の特使団が訪朝し、金正恩委員長と会談を行う中で「2018南北首脳会談」が決定した。特設サイト内にある特使団の旅程を伝える動画からキャプチャ。
3月5日から6日にかけて韓国の特使団が訪朝し、金正恩委員長と会談を行う中で「2018南北首脳会談」が決定した。特設サイト内にある特使団の旅程を伝える動画からキャプチャ。

準備委員会が15日に配布した資料によると、サイト開設の目的は2つ。「00年、07年の南北首脳会談の歴史と意義を振り返り、今回の2018南北首脳会談の進行状況と結果を透明に公開」する一方、「朝鮮半島の平和についての国民の熱望も共に表現する予定」とのことだ。

また、政府傘下の「海外文化広報院」と協力し、英語、中国語、アラビア語、スペイン語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、日本語、ベトナム語の9か国語で情報を提供するという。

日本語サイトは「海外文化広報院」に設置されている。アドレスは http://japanese.korea.net/ 同サイトよりキャプチャ。
日本語サイトは「海外文化広報院」に設置されている。アドレスは http://japanese.korea.net/ 同サイトよりキャプチャ。

つまり、南北首脳会談の内容を最大限にオープンし、これを支持する声を韓国および世界に伝えるという、文字通りの「国策サイト」となる。会談を「朝鮮半島の恒久平和」の第一歩と位置づける、韓国政府の意気込みのほどが分かる。

なお、準備委員会によると、こうしたサイトを作るのは初めてとのこと。07年の南北首脳会談時には、メディアへの情報提供を目的とした特集ページが作られただけだった。

サイトのメニューは大きく5つ

今日オープンしたばかりのサイトに早速入ってみた。メニューは5つに分かれている。それぞれの概要を紹介する。

(1)ニュースルーム:準備委員会によると、27日の南北首脳会談当日に配布される、あらゆる写真とブリーフィング(会見)、オンライン生中継などをリアルタイムで公開するとのことだ。現在では議題の詳細な説明に加え、15余りの関連記事や写真などが整理されている。

韓国政府は従来、南北の大きな会談の際には、メディア向けに紙の資料を配布するのが恒例だったが、今回は市民との間に「情報格差」を無くす狙いがあるようだ。

「ニュースルーム」メニューには写真特集も。政府広報サイトの趣が強い。サイトよりキャプチャ。
「ニュースルーム」メニューには写真特集も。政府広報サイトの趣が強い。サイトよりキャプチャ。

(2)文在寅の朝鮮半島政策:こちらは、昨年11月に発表された、文在寅大統領の朝鮮半島政策ビジョン「平和共存、共同繁栄」を説明したものだ。図などを利用し、分かりやすく整理されている。なお、この内容については筆者の以下の記事に詳しい。

韓国政府が朝鮮半島政策を発表…北との「平和共存、共同繁栄」を前面に

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20171125-00078550/ 

この項ではさらに、昨年7月にドイツ・ベルリンで文在寅大統領が南北関係改善と平和の基調を呼びかけた演説「新ベルリン宣言」を紹介している。演説の全文は筆者が運営する「コリアン・ポリティクス」で読める。

[全訳] 文在寅大統領ケルバー財団招待演説(新ベルリン宣言) [2017年7月6日]

https://thekoreanpolitics.com/archives/346 

(3)2000・2007首脳会談:過去に行われた首脳会談の内容とその前後の動きについて整理されている。また、1970年代からの南北関係が写真と動画で詳細にまとめられている。

首脳会談では何らかの宣言が発表されるため、来たる3度目の首脳会談での内容に注目が集まっている。過去2度の宣言については、やはり「コリアン・ポリティクス」の以下の記事を参照されたい。

[全訳] 6.15南北共同宣言(2000年6月15日)

https://thekoreanpolitics.com/archives/206 

[全訳] 10.4南北首脳宣言(2007年10月4日)

https://thekoreanpolitics.com/archives/216 

(4)交流と協力の朝鮮半島: 2008年から2017年まで続いた保守政権下での南北対立の印象に隠れがちだが、2000年の南北首脳会談以降、離散家族再会行事や、開城工業団地、金剛山観光事業などを通じ、200万人以上の韓国の市民が北朝鮮に足を運んだ。ここでは、過去の南北交流と、経済協力について22の映像と写真119枚を用い整理している。

「国民と共に」のコーナーでは、人気TVプログラムの各国出演者たちが動画でコメントを寄せている。先の平昌オリンピック、パラリンピックで広報大使を務めた日本の藤本紗織さんも。サイトよりキャプチャ。
「国民と共に」のコーナーでは、人気TVプログラムの各国出演者たちが動画でコメントを寄せている。先の平昌オリンピック、パラリンピックで広報大使を務めた日本の藤本紗織さんも。サイトよりキャプチャ。

(5)国民と共に:韓国市民が南北首脳会談に寄せる「声」を紹介している。芸能人や著名人なども声を寄せている。

オープン直後、サイトを一通り見てみたが、過去の南北対談の歴史や、南北交流を網羅しており、非常に力の入った作りだ。「やっつけ仕事」ではないことがすぐに分かる。

南北首脳会談は「悲壮な覚悟」で臨む「一大イベント」

準備委員会で「2018南北首脳会談オンラインプラットフォーム」の運営を担当する尹永燦(ユン・ヨンチャン)青瓦台(大統領府)国民疎通首席秘書官は15日、同サイトを「過去の首脳会談と今回の首脳会談をつなぐ貴重な歴史的な記録となるもの」と位置付けた。

こうした見方には、08年から17年4月にかけての保守政権下で、南北関係がいつになく冷え込み「断絶」したこととも関連している。サイトからは、この雰囲気を変えたい文政権の狙いが透けて見える。

メニューのうち「交流と協力の朝鮮半島」では「南北の交易総額248億ドル」など様々なデータが並ぶ。サイトよりキャプチャ。
メニューのうち「交流と協力の朝鮮半島」では「南北の交易総額248億ドル」など様々なデータが並ぶ。サイトよりキャプチャ。

つまり、中年以上の世代には「良かったころ」の南北関係の記憶を呼び起こし、それを知らず、南北関係改善に消極的とされる2,30代に対しては、「南北対話、南北交流は『当然のこと』」とアピールすることで、今後の南北関係運営をスムーズにしていきたい構えだ。

言い換えれば、このサイトの展示内容に朝鮮半島、南北関係の今後がある。

南北会談の後には米朝会談という「峠」が待ち構えているが、韓国政府はこれまで通り、「対話(のための制裁)」「過去の南北合意の継承」「平和」の原則の下、南北関係改善を朝鮮半島情勢の「テコ」として強く推し進めていくということだ。

「平和、新しい始まり」。韓国政府が決めた「2018南北首脳会談」のスローガンだ(北朝鮮側は無関係)。何のための会談かがよく分かる。イメージは青瓦台提供。
「平和、新しい始まり」。韓国政府が決めた「2018南北首脳会談」のスローガンだ(北朝鮮側は無関係)。何のための会談かがよく分かる。イメージは青瓦台提供。

文大統領は今月11日、政権幹部が居並ぶ準備委員会の場で、「朝鮮半島の完全な非核化と恒久的な平和、南北関係の持続可能な発展」という今回の南北会談の議題を「世界史の大転換」と表現した。

そして「皆が夢見てきたが、まだ誰も成し遂げることのできなかった目標だ」と語った上で、「私たちが分裂と対立を超え、平和の新しい歴史を描くという悲壮な覚悟と自信が必要だ」と訴えかけた。

このように、韓国政府は今回の南北会談について、歴史的に非常な重要な意味を持たせている。一方で、サイトを通じできるだけ多くの世界市民を参加させ、「南北関係の不可逆性」を担保する一大イベントに仕立てあげるつもりだ。

特設サイトは17日正午の公開直後、アクセスが殺到しサーバーがダウンする人気だった。

韓国のイメージ戦略は各国メディアで伝えられ、少なくない効果を挙げるだろう。残念ながら北朝鮮人権問題への言及は一文字も無いままだ。南北首脳会談は10日後に迫っている。

「2018南北首脳会談オンラインプラットフォーム」

http://www.koreasummit.kr

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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