Yahoo!ニュース

<ガンバ大阪・定期便107>『負けていない』を力に、しぶとく戦い続ける先に。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
J1リーグで9ゴール5アシスト。圧巻の存在感を示す宇佐美。写真提供/ガンバ大阪

■敵地でのヴィッセル神戸戦。選手たちは2度追いついて掴んだ『勝ち点1』をどう感じたか。

 気温28.9度、湿度61%という茹だるような暑さの中で行われたJ1リーグ第27節・ヴィッセル神戸戦。アウェイの地で2度のリードを許しながら、しぶとく追いつき、2-2で戦いを終えたあと、チームのセンターラインを預かったリーダーたちは『勝ち点1』について、思い思いの見解を口にした。

 上位争いを続ける上では、この直接対決で是が非でも『勝ち点3』を掴みたかったということを前提に、だ。

「思ったようには試合は進められなかったですけど、上位対決で思い通りに試合を進められるようなチームなら今頃、ダントツでトップを走っているはずなので。まだまだ自分たちの力が足りていないし、成長過程にあるということだと思います。ここまで上位争いをしている状況はあるとはいえ、去年、ギリギリでJ1に残留したことを考えれば、そんなに甘くはないな、と。ただ、そう感じると同時に、すごく成長を感じた勝ち点1だったというか。負けないチーム、逆境に強いチームになってきたなとは思います。もちろん、勝たないといけない試合だったのは間違いないですけど、僕自身は今日に関しては特に自信になるというか、昨年のチャンピオンである神戸相手にこのスタジアムで最後、追いつけた、負けなかったことをポジティブに受け止めています (宇佐美貴史)」

「ここ3試合、勝ち点3が取れていなかっただけに、必ず勝ち点3をという意気込みで入りましたけど、前半からなかなかうまくいかず、かろうじて勝ち点1を取れたという試合になりました。勝ち点3を取れなかったのは悔しいですが、今日の試合内容なら最低限というか、いい勝ち点1じゃないかと思うし、上位対決で相手に勝ち点3を与えなかったのも大きいと思います。前半の最後の時間帯で失点して、ハーフタイムは正直、ちょっとガクッときましたけど、そこから盛り返し、エースがしっかり決めてくれて…もっと強いチームになるにはあそこで畳み掛けられないといけないし、その後の失点を含めて隙は見せちゃいけなかったという反省はあります。でも、これまでビハインドを負った展開の試合であまり勝ち点を取れていなかったことからも、試合の終盤に追いつけたのは悪くない。次節・アビスパ福岡戦でしっかり勝ち点3を取れれば、より今日の引き分けがいい勝ち点1だったと言えるのかなと思います(中谷進之介)」

「今日は、久々に前半から失点してしまって、ハーフタイムもはっきり言って雰囲気も良くなくて。神戸が相手だったこともあり、ダメージが大きかったというか、ヤバいなっていう空気が漂っていました。ただ、その中でも貴史(宇佐美)がもう一回、やろうと声をかけてくれて、『こういった展開、しかも昨年のチャンピオンを相手に、取り返せたらチームの力になる。絶対にものにしよう』というふうに気持ちを持ち直して後半に入れた。その上での貴史のゴールはすごく大きかったし、欲を言えば、あの流れから10分以内くらいにもっと押し込んで逆転まで持っていきたかったとは思います。特に、2失点目はチーム戦術が徹底できなかったことで生まれた失点だったと考えても、反省しなければいけないですが、最後の最後で追いつけたのは、難しいアウェイ戦だと考えても悪くない勝ち点1だと受け止めています(一森純)」

■一森のビッグセーブ。宇佐美の反撃の狼煙。中谷の執念。センターラインを預かるリーダーたちが見せた覚悟。

 少し試合の流れを追いかけてみる。

 前半は、互いに相手の良さを消すことに重きを置いた展開に。ガンバも、神戸もなかなか相手のゴール前まで入り込めない時間が続く。

 43分にはこの日初めて、神戸にビッグチャンス。左からのクロスボールに合わせて右ポスト前に走り込んだ広瀬陸斗にフリーでシュートを打たれたが、そこは一森がビッグセーブ。ここ数試合、繰り返しチームのピンチを救ってきた男が再び、気迫のセービングで味方を鼓舞する。

「左からボールを出された瞬間に、フリーになっていた広瀬選手は目に入っていて、シュートを打たれる瞬間に止まって対応することも考えました。ただ、瞬間的に判断を変えて、距離をつめることを選択したのが結果的に良かったのかなと思っています。去年もそうでしたが、ずっと試合に出させてもらっている分、最近はより自分の中で『流れ』が研ぎ澄まされていくのを感じているし、そこは試合に出続けているからこそのメリットだと思っています(一森)」

ガンバに復帰した今シーズンは全試合にフル出場している一森。安定感のあるセービングでゴールマウスに立ちはだかっている。写真提供/ガンバ大阪
ガンバに復帰した今シーズンは全試合にフル出場している一森。安定感のあるセービングでゴールマウスに立ちはだかっている。写真提供/ガンバ大阪

 ところが、0-0で折り返すかと思われた前半アディショナルタイムに、失点。右サイドからのクロスボールに反応した相手選手の2度のシュートは一森や中谷が粘り強く弾き出したものの、最後は大迫勇也にゴールを割られてしまう。

「1失点目は緩さが出たというか。これまでチームが大事にしてきた、全員がちゃんと走って、戦って、やり続けるというところが疎かになってしまった。それでも最後、カバーできれば良かったですが、それができなかったことを含めて力不足。ここ最近、守備での寄せ方とか、少し練習でも緩くなっちゃっているというか。単に寄せている、とか、寄せているフリになっているところが出てきちゃっているのでそこはもう一度、チームとして見直さなければいけないと思っています(中谷)」

 嫌な時間帯での失点に、重くなりかけた空気を払拭したのは後半、56分という早い時間帯にゴールネットを揺らしたエース、宇佐美の一振りだ。ハーフタイムに仲間を鼓舞した上でピッチに戻ったキャプテンは、プレーでもチームの士気を高めるべく、カットインから豪快に右足を振り抜いた。

「前半から打てるシーンは何回かあって。(21分に)陸くん(松田)に出したシーンも、自分で足を振っても良かったかなと思っていたので、今回は自分で振りました。ハーフウェイラインくらいから選択肢を探しながらドリブルをしていましたけど、全部をキャンセルして、さぁ、次はどうしようかと思っていたら、選択肢を消していく過程で相手が自分へのプレッシャーを怠ってくれた。あとは足を振るだけ、という状況になったので振ったら相手に当たって決まりました(宇佐美)」

 この一撃で再び息を吹き返したガンバは、一気に攻勢に。66分に坂本一彩、77分に岸本武流、山下諒也、80分にネタ・ラヴィ、倉田秋を投入しながら、追加点を目指す。だが、84分に再び失点。アウェイ戦、終盤の時間帯、再逆転という状況や、この時間帯までは徹底されてきた神戸のエース、大迫のポストプレーへの戦術的対応策が疎かになってしまった上での失点に、ダメージが重くのしかかる。

 それでも、ここでずるずると引きずらなかったのは、冒頭で選手それぞれが口にしたチームの『成長』にもつながる部分だろう。足を止めることなく、相手ゴールに攻撃の矢印を向け続ける中で、チャンスが訪れたのは90+5分だ。

 ペナルティエリア内でボールを受けた坂本が、相手DFに対応されながらも粘り強く右足を振り抜くと、そのボールが中谷の右太ももを経由してゴールネットに突き刺さる。試合終盤、再三に渡り、ペナルティエリア内に顔を出していた中谷の執念が実った、土壇場での同点ゴールだった。

「当てにいったというより、当たったというゴール。でも、ゴール前に人がいないとああいうことは起きないので。貴史くんがフリーマン的に色んなところに動いていた分、前線に人をかけられていなかったし、3つ前の湘南ベルマーレ戦もそうでしたけど、ボランチも疲れていただろうし、センターバックの僕が力が有り余っているなら、前線にパワープレー気味に出ていって、何かが起きるのを待とうという狙いでした。そんな理論的なゴールではないですけど、執念で押し込みました(中谷)」

 結果、2-2で試合終了。ガンバはアウェイでの上位対決で貴重な勝ち点1を積み上げた。

フィールド選手では唯一のフルタイム出場。守備の要として抜群の存在感を示し、リーグ最少失点タイの『堅守』を支えている中谷。写真提供/ガンバ大阪
フィールド選手では唯一のフルタイム出場。守備の要として抜群の存在感を示し、リーグ最少失点タイの『堅守』を支えている中谷。写真提供/ガンバ大阪

■ヴィッセル神戸戦で明らかになった課題。「こういうウィークが出ると感じ取れたことも収穫(一森)」

 この試合を迎えるにあたり、宇佐美は試合のカギを握る要素の1つに「自分たちでボールを奪いにいけるか」を挙げていた。

「ボールを奪いにいく能力は神戸が、ずっと積み上げてきているストロングポイント。自分たちが剥がし切って、繋ぎ切ってボールを保持するのも大事ですけど、その奪うところで勝負していくことも大事だと思っています。また、リズムを作っていくとか、奪って早く(攻める)というこちらのリアクションでの強度も、より大事になってくると思っています(宇佐美)」

 アウェイ戦であることを踏まえても、そこで上回ることができなければ、常に後手を踏む展開を強いられると想像したのだろう。だが、結論から言って、その部分に関しては、神戸戦はチーム全体が臆病になった時間も多かったと言わざるを得ない。一森の言葉がそれを物語る。

「拮抗した展開、神戸のプレッシャーが厳しい中で、後半は特に怖がってボールを受けにこない状況が起きていた。そうなるとやはり僕たちが目指すサッカーはできない。今日は、僕から出すばかりじゃなくて、一旦、シン(中谷)や将太(福岡)につけてから、ボールを出していくというチャレンジをしたんですけど、せっかくボールを持つことができても、出しどころがない、2つ目のボールが繋がらないと、前に進まなくなってしまう。うちには大迫選手のようなタイプの選手がいないからこそ、チームとして動かす、前に進むと決めたのなら、全員がビビらずに、隠れずにボールを受けにくるというチャレンジをしないと。そこは試合中にも伝えていたんですが、正直、相手のプレッシャーもあってなかなかうまくいかなかったな、と。ただ、今日のようなグレードの高い相手にはまだまだこういうウィークが出るよねってことを感じ取れたのは収穫だと思っています(一森)」

 おそらく、後半に入り、宇佐美が降りてボールを受けることが増えたのもその状況を打開するため。今シーズン、こうした状況に陥った試合で宇佐美は、決まって自らボールを受けにいき、停滞したパスワークに再び息を吹き込んでいる。相手DF3人に囲まれようと、その包囲網の中で体や視線を向けるのも、ボールを送り込むのも、ほとんどの場合、後ろではなく前。それによってかつての遠藤保仁が担っていたような攻撃の『スイッチ』の役割を果たすことも多い。もちろん、これは簡単にはボールを失わない圧倒的な足元の技術と戦術眼があってこそでもある。

 ただ、そうなると、先の中谷の言葉にもある通り、必然的に前線に枚数をかけられないという齟齬が生じる。結果的に、神戸戦はリードされた展開や時間帯を踏まえて、中谷がパワープレー的に顔を出したことで前線の枚数が増え、ゴールが生まれたが、90分の戦いを考えれば、チームとしては宇佐美がより高い位置でプレーできるのが理想だろう。彼が相手ゴールに近づくほど、2点目のようなシーンを数多く見出せると想像しても、だ。

 この同点ゴールのシーンでも、左サイドの黒川圭介からパスを受けた宇佐美は、ノールックでのワンタッチパスを右アウトサイドでペナルティエリア内に送り込み、起点になった。

「圭介(黒川)からボールを受けた瞬間に、一彩(坂本)の足元につけるより、スペースに走らせてクロスボールとか、っていう方が何かが起きるかな、と判断して出しました。思っていたところに、思っていた強さでパスを出せたし、一彩の粘りも、シン(中谷)があそこに入ってきているのも良かったと思います。最後パワープレーを狙っていたのもありますけど(宇佐美)」

第26節・柏レイソル戦ではゴールラインを割ったかに見えた際どいシュートも。「自分がはっきりとネットを揺らしていればそんな議論にもならなかった」と気持ちを前に向けていた宇佐美。写真提供️/ガンバ大阪
第26節・柏レイソル戦ではゴールラインを割ったかに見えた際どいシュートも。「自分がはっきりとネットを揺らしていればそんな議論にもならなかった」と気持ちを前に向けていた宇佐美。写真提供️/ガンバ大阪

■勝ちにいった結果としての『負けていない』を含め、全ての経験を糧にしてチーム力を膨らませる。

 ただ、そうした課題は浮き彫りになりながらも、チームが『勝ち点』を積み上げながら試合を重ねられているのはポジティブな要素だと言っていい。冒頭に書いた選手たちの言葉を踏まえても、だ。

 もちろん、ガンバが目指すのはどの試合も勝ち点3に他ならないが、『ポヤトス・ガンバ』は正直、まだ確固たるスタイルや強さを手に入れたわけでは決してない。積み上げてきた結果として今の順位や勝ち点があるのは事実だが、発展途上であるのも間違いないだろう。何より、過去の歴史が物語るように、一朝一夕でたどり着けるほど『常勝チーム』への道のりも甘くない。

 だからこそ、先を見ず、目の前の試合に全力を注ぎ、そこから生まれた課題と真摯に向き合いながら、チーム力を膨らませていく。その継続や積み上げの先に、結果があると信じて。

「今の状況を『勝てていない』と見る人もいると思いますけど、黒星を喫した24節・湘南ベルマーレ戦を除いて、今の全員のメンタリティとしては『負けていない』という思いでいるのかなと。そこの考え方1つで、トレーニングへの姿勢、オフの日の過ごし方やそこでの回復力も変わってくるし、いつか必ずまた自分たちに流れが来るとも信じています。それが仮に過信だったとしても、そのくらいポジティブでいられる方がチームとしてはいいと思う。もちろん、勝てていない状況を受けて、選手それぞれにコンディションを上げたり、成長させなきゃいけない部分もありますけど、選手の誰一人として『勝てていない』とは思っていないんじゃないかと思います。ましてや、それが全員で示し合わせたわけでもなく、自然発生的に…たまに僕が働きかけることもありますけど…自然とチームがそういうマインドになっているのもポジティブなこと。そもそも、こうしてヒリヒリした上位争いができて、ヒリヒリした試合ができている時点で、チームとしてはすごく幸せなことですしね。それに、そもそも僕たちはまだぜんぜん、強くないので。そのこともしっかり自覚していますし、まだまだ強くなっていかなきゃいけない立場にあるからこそ、ネガティブになっている暇はないと思っています(宇佐美)」

 圧倒的に相手ゴールを攻め立てながらスコアレスドローに終わった25節・FC東京戦後に鈴木徳真が話していた言葉も、この宇佐美の言葉にリンクするものだろう。

「攻撃の回数が、ゴールにつながっていない、結果として勝てていないのは課題だと思います。ただ、そのわかりきったところを外して話をすると、僕はそれこそ東京戦のように、ガンバを『すごく攻撃的で、攻めている時間も長くて、でもしっかり試合もコントロールしながら圧倒する』という試合を、毎試合のようにできるチームにしていきたいと思っているというか。ここまでシーズンが進んできて、みんながチームとしてどうすればそういうチームになれるのか、焦れることなくどういうふうに崩せばどんなシーンが生まれるのかを、掴み始めているからこそ、それを確固たるものにしていきたい。実際、この半年強の時間をかけてベースづくりをしてきた中で、ここ最近は、そのベースのところにいちいちエネルギーを注がなくても各々が自然とやるべきことを感じてやれる状態にはなってきましたから。あとはそこにそれぞれの選手の特徴が乗っかっていけば、よりクオリティは上がっていくし、より洗練されたサッカーになっていくはず。だからこそ、この先も、みんなで時間をかけて形にしてきたサッカーをより強固なものにしていくことを考えたい。それができれば自ずと結果もついてくると思っています(鈴木)」

今シーズンを語る上で欠かせない、もう一人のセンターラインの要、鈴木徳真。今シーズンにおけるチームの『変化』を支える一人だ。写真提供/ガンバ大阪
今シーズンを語る上で欠かせない、もう一人のセンターラインの要、鈴木徳真。今シーズンにおけるチームの『変化』を支える一人だ。写真提供/ガンバ大阪

 繰り返しになるが、どの試合も全力で勝ちに行く、最後まで勝ち点3を追い求めて戦い抜くことは大前提に、だ。少なからず、同点ゴールを決めた後、猛ダッシュでDFラインまで戻り、ゲーム再開を待った中谷の姿を見ていれば、選手たちがどれだけ勝ち点3を求めて戦っていたのかは言わずもがな、だが。

「まだもう1点取れる可能性があるかなと思って、ダッシュしました。今思えば、もうちょっと格好良く喜びたかったなって思いますけど、川崎フロンターレ戦のゴールより今回の方が触ってる感があって嬉しかった!(中谷)」

 まだまだ、もっともっと。ガンバ大阪は、強くなる。

 神戸戦での勝ち点1もいつか必ず、意味を持つ。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事