ウディ・アレン「あと1本か2本で映画作りをやめるかも」
50年以上にわたる長いキャリアのほとんどで、ウディ・アレンは、毎年1本のペースで映画を作り続けてきている。2017年秋に「#MeToo」運動が巻き起こり、過去の養女虐待疑惑が蒸し返されて映画監督としての未来が突然真っ暗になっても、まだ次を作る意欲は失せなかった。パンデミックが世界を直撃する前も、アレンは新しい映画のための準備をしていたのだ。
だが、その心境は、最近大きく変わった。パンデミックで何もできない状況になり、人生で初めて映画を作らない時間を経験したことで、86歳の彼は、「これもそう悪くない」と気づいたのである。
「私はこれまでに49本映画を作ってきて、今、50本目を作ろうとしている。でも、パンデミックが直撃し、ほかのみんなと同じように恐れながら家に隠れることになり、何ヶ月も外出をしなかった。そのうちに、これは結構好きだと思うようになったんだよ。映画を作らなくていいというのはいいものじゃないかと。冬に寒い思いをしなくてもいいし、夏に暑い思いをしなくてもいい。朝5時に起きて、1日中何かを決め続けなくてもいい。家にいて、ワークアウトをして、クラリネットの練習をして、物を書く。物はたくさん書いたよ。舞台劇を2本書いた。このまま映画を作らないというのはどうだろう?それは良い生き方じゃないか?作るのは、たぶんあと1本か2本だ」。
アレンがこの告白をしたのは、アメリカ時間28日午前にアレック・ボールドウィンが主催したインスタグラムライブでのインタビュー。「ローマでアモーレ」「ブルージャスミン」に出演したボールドウィンは、「#MeToo」で業界がアレンをボイコットするようになってからも、ずっとアレンへの支持を表明してきている。このタイミングでこのインタビューを組んだのも、今月アレンが出版した本「Zero Gravity」を宣伝してあげたかったからのようだ。
テクノロジーに疎く、ガジェットにまるで興味がないことを自伝本でも語っていたアレンは、インスタグラムが何かも知らなかったようで、このインタビューも途中で彼が固まったり、画面から消えたりするなどしている。だが、途中からは安定してきて、次の映画はこの秋にパリで撮影するとも教えてくれた。
「私はニューヨークでたくさんの映画を作ってきた。でも、ロンドンやパリなど外国で撮影してみたら、新鮮で、とても楽しかったんだ。そしてそれを待ち望むようになった。妻もパリやロンドンやバルセロナで3ヶ月か4ヶ月を過ごすことを好むし、それらの国には友達もたくさんいる」。
劇場体験が失われてしまった
映画作りに対するアレンの気持ちの変化には、業界や世の中の構造の変化も関係している。配信が台頭し、映画館で映画を見る文化が薄れてきたせいで、「ときめきがなくなった」と、アレンは語る。
「私が映画作りを始めた時、映画は全国の映画館で上映されるものだった。大勢の人が集まって、ビッグスクリーンで見た。今では4週間か6週間上映されたら配信に移る。今ではテレビ画面も大きくなり、サウンドの質も向上したから、人は家で見るのを好むようだ。でも、私にしたら、それは同じじゃないんだよ。それは楽しくない。映画館に行くというのは、街の真ん中で真っ暗な空間に行くということ。日常の生活から切り離されて、大きなスクリーンでハンフリー・ボガートとか、リタ・ヘイワースとか、フレッド・アステアとかを見るんだ。それは言葉で説明できない。でも今の人は友達と一緒にカウチに座って、ボタンひとつでなんでも見られるほうが良いと思うんだよね。パンデミックの前からその傾向はあったが、パンデミックで決定的になった。だから私は今、映画を作ることに対して自分がどう感じているのかわからないのさ」。
アレン自身は、配信の作品を一切見ない。
「ディナーに行くか、家で食べるかして、テレビで野球を見る。私はヤンキースとニックスの大ファンだ。その後はニュースか(古い映画を放映するチャンネル)ターナー・クラシックス。そこ(配信作品)に入っていくつもりはないよ。そんな時間はない」。
それ受けて、ボールドウィンは、「僕もあまり時間はありませんよ。僕は64歳で、6人も子供がいて、もうひとり増えようとしているんですから」と、妻が7人目を妊娠中であることを明かした。昨年10月、主演映画「Rust」の撮影現場で誤射事件を起こし、苦しい立場に置かれてきたボールドウィンだが、家族の絆は以前と変わらずとても強いようだ。「Rust」の前から決まっていたイタリア人監督の映画を最近イタリアで撮影したし、この後にも現在製作準備中の作品があり、俳優としてもあいかわらず活動を続けている。ハリウッドで微妙な立場に陥ったアレンとボールドウィンが、アレンの最後の1本か2本の映画で再び組むことはあるだろうか。