今夏、倖田來未のツアーがすごかった10の理由 〜プロフェッショナルなステージがRPGのように物語展開
●音楽ファン、いやすべてのエンタメ・ファンが観ておくべきコンサート。
いまどき音楽情報は、SNSなどで知り合いづてにリアルタイムに感想がシェアされていく時代。しかし、不肖“音楽コンシェルジュ”な筆者を含め、音楽評論家や音楽ライターによるライブレポは難しい。ロングなツアー中に詳細な内容をオフィシャルに書くことは難しいのだ。なぜならツアー中の詳細な分析はネタバレになってしまうからだ。もちろん過度なネタバレはファンの楽しみを奪ってしまうことにもなる。
それでも、どうしても速攻でこのツアーのことを語りたい……。全音楽ファン、いや全てのエンタメ・ファンが観ておくべきコンサートだ、と確信したのが、2月にリリースされた最新アルバム『Bon Voyage』を引っさげ、今年3月よりスタートした倖田來未『KODA KUMI LIVE TOUR 2014~Bon Voyage~』だった。
まずは先入観なく、新作アルバム『Bon Voyage』収録の、ライブで盛り上がったこのダンサブルなナンバー「Dreaming Now!」のMVをチェックしてみて欲しい。EDMセンスに彩られたポップチューンに心を奪われたのだ。
●実はこれまで、倖田來未の認識はほとんどなかった。
コンサートに足を運んだきっかけは、信頼する知り合いに誘われて訪れた6月のNHKホール公演だった。
倖田來未のファンは、彼女のスタイルやファッション、考え方に影響を受けている“熱狂的なチーム感あるコミュニティ”として知られている(←歴代衣装風なコスプレ率も高い)。そんな彼女のライブが、アリーナクラスではなく中規模のホールで観られるということは、より濃い環境で倖田來未やファンの本質を楽しめるかもしれない。そんな好奇心があったことをここに告白しよう。
実は、これまで倖田來未の認識は、大ヒット・ゲーム『FINAL FANTASY X-2』の主題歌「real Emotion/1000の言葉」(←名曲)や、COMPLEX「BE MY BABY」(←名曲)をカバーをされていたぐらいしかなかった。もちろんコンサートへ足を運んだことも、イベントで観たこともなかった。しかし、歌のうまさ、表現力の高さは、信頼する友人の意見や、たまに観かけるテレビ番組などで感じていたことは確かだ。
●開演前から楽しめるテーマパーク感あふれるワクワクする試み。
そんな、中途半端な予備知識のまま、会場に足を踏み入れると、受付スタッフがお揃いのセーラールックで統一されていた。「なるほど、海での旅をテーマにしたコンサートなのだな」と理解した。ツアーグッズも海や旅と連動したものや、会場限定で、彼女の地元である京都の人気スイーツ店『NIJU-MARU KYOTO』のデコバウムが販売されているなど、開演前から楽しめるテーマパーク感あふれるワクワクする試みは、コアファンだけでなく、幅広いファンを楽しませるおもてなし感を感じた。
前置きが長くなりすぎた。WEB時代の伝わりやすいレポを意識して、箇条書きで感想を記してみよう。
<倖田來未のツアーがすごかった10の理由>
<1>コンサート・ショーなのに、ドラマティックなRPGゲームのようにストーリー展開がすすんでいく。
<2>人生とは何なのか? 楽しむために必要な“ココロ”とは何なのか? 誰もがいつか壁に打ち当たる哲学的な問いを、映画のような映像を駆使してポップに伝えていく。
<3>演奏スタイル七変化っぷりがヤバい。演奏力の高いジャジーな生バンド展開、ワイヤーを活用したアイドル的なバラード展開、海外アーティストとも戦える音圧ヤバすぎるアグレッシヴなベースミュージック、EDM展開などなど。
<4>声量ある歌声、パワフルなダンス、計算され尽くしたパフォーマンス、時折クスッと笑わせてくれるユーモアセンス、完璧にオーディエンスの心をつかむMC力の高さ。いわゆる人間力の素晴らしさを、これでもかと味わうことが出来る。
<5>船と、船内の往来、そして深海をも再現する大規模な可動式セット、LEDディスプレイに映し出されるVJ映像によるトリップ感がすごい。
<6>羅針盤や望遠鏡といったコンサート中に登場する重要アイテムの存在。人生の楽しみ方を教えてくれるメンターというべき、謎めいたお婆さんの登場。
<7>自分の心に素直になれない倖田來未に対する、ブラック倖田來未キャラクターの登場。いわゆる心理学でいうところのシャドウの存在。中盤クライマックスとなる海賊船での戦いシーンのカタルシス。
<8>ステージセットの扱い方が絶妙。宙を舞い、船が割れ、樽から飛び出し、シャンパンがバズーカになるなど様々な驚きの仕掛けが満載。
<9>ダンサーのレベルが高い。アナログな手持ちライトや、iPadを活用したデジタライズされたパフォーマンスはもちろん、オールジャンルなサウンドに対応するパフォーマンス能力のヤバさ。
<10>ラストシーンを向かえた時、誰しもの心に「人が生きるって素晴らしいことだ!」という感銘を味わえるエンディングのすがすがしさ。コンサート後、ついつい友人と語りたくなる共感キーワードの多さ。
●プロフェッショナルさが伝わってくる白熱のステージ。
なにより、2年ぶりのオリジナル・アルバム『Bon Voyage』のツアーでありながら、初見のオーディエンスを含め、全員を楽しませようというプロフェッショナルさが伝わってくる白熱のステージが素晴らしい。数秒単位でのこだわりを感じさせる演出は、ちょっとした乱れが命取りになりそうなほど、綿密に考え込まれたパフォーマンスに引き込まれる。
それを、ヒット曲だけに頼ることなく、楽曲を知らない初見のオーディエンスをもいっさい退屈にさせない、総合エンタテインメントとして完成度の高いステージングで魅せるのだからすごい。良い意味で一寸先を予見させない、これでもかと胸熱な展開が繰り広げられたのだった。もちろんバンドの演奏力もレベルが高くて驚かされた。
筆者は、週3,4で多種多様なアーティストのコンサートへ、ライブハウスからホール、ドームクラスまで通う音楽中毒者なのだが、思うに、一般的なライブの5,6倍のアイディアを駆使した展開が『KODA KUMI LIVE TOUR 2014~Bon Voyage~』には込められていたように思う。
そんなツアーの最終日は8月16日、海外である台湾公演が千秋楽となった。残念ながら毎年通い続けている『サマーソニック』とかぶり観ることは出来なかったが、日本と同様の大規模なセットが持ち込まれ、大熱狂のもと海外公演を成功させたという。
●来年、倖田來未はデビュー15周年をむかえる。
まだ発表されてないが、リリースされるであろう今回のツアーの映像化が楽しみだ。ライブ現場で感じたクオリティの高さはもちろん、倖田來未やスタッフの意気込みが本気モードであることは間違いないはず。ぜひ、映像ならではのディティールを味わえる体験をと願う。いまからリリースが待ち遠しくてたまらない。
来年、倖田來未はデビュー15周年をむかえる。あまりに、今回のツアーがパーフェクトすぎたのでハードルがあがってしまうが、ストイックな完璧主義者、いや努力の人である彼女は、そのハードルを乗り越えていくことだろう。期待したい。テーマパーク的なエンタテインメントである点は、コンサート制作費に5億円かけたことでも話題となったSEKAI NO OWARIなどとも実は共通するポイントを感じている。
YouTubeやSNSの広がりで、どんな分野においても、知った気分に浸りやすい世の中ではあるが、やはりライブは生で体験しないとアーティストの本質はわからないものだ。もし、このレポートが、倖田來未のライブ・エンターテイナーとしての魅力をあらためて伝える“きっかけ”になってくれたら、こんなに嬉しいことはない。