すとぷり、VTuberにプロゲーマー。ネット発タレントの炎上騒動が増えている理由
この1ヶ月、プロゲーマーやVTuberなど、ネット発のタレントの炎上騒動が急に増えている印象があります。
ヨーロッパで本当の戦争が繰り広げられていることを考えると、正直こういうネットの炎上騒動が注目される日本は平和だと感じる面もあるのですが、日本のインターネットの炎上のフェーズが変わったと感じられる面もありますので、ポイントをご紹介したいと思います。
1ヶ月の間に5件の炎上騒動
最近話題になった炎上騒動をリストアップすると、大きいものだけでも下記のような騒動が話題になりました。
□2月16日 プロゲーマー・たぬかな氏の不適切発言について所属チームが謝罪文を掲載―スポンサーのレッドブル公式サイトは選手のページを削除
□2月18日 CYCLOPS athlete gaming、たぬかな選手に続いて「Kbaton」選手との契約解除を発表 過去の“差別用語スラング”発言で物議
□2月24日 2021年スパチャ額世界1位のVTuber「潤羽るしあ」が契約解除 理由は「機密情報の漏えい」
□3月3日 VTuber桃鈴ねねのトレース疑惑をホロライブ運営が認める 厳重注意のうえ関係者に謝罪
□3月11日 6人組ユニット「すとぷり」運営会社が謝罪声明 内縁の妻がリーダー「ななもり」の不貞行為を告発
それぞれ、炎上や騒動になった原因は異なっており、騒動の拡大や収束の形も違うのですが、ポイントとなるのはeスポーツのプロゲーマーに、VTuberにYouTube発のアーティストと、インターネット生まれのタレントであるという点。
特にYouTubeチャンネルやライブ配信を中心に活動しているのが共通点です。
おそらく10年前であれば、彼らの炎上がYahoo!トピックスなどの大手媒体で報じられることは無かったと思いますし、そもそも炎上自体しなかったかもしれないと考えると、明らかにネット炎上の状況が変わっているように感じます。
今回のようなネット発のタレントの炎上騒動が増えた背景には、3つのポイントがあると考えられます。
■ファンの増加や業界拡大による社会的地位向上
■告発系ユーチューバーの影響力向上
■失言や不適切な行為に対する社会的制裁の変化
一つ一つ詳細にご説明します。
■ファンの増加や業界拡大による社会的地位向上
まず、ネット発のタレントの認知度や社会的地位向上が、不適切な行為や発言が炎上の要因になる背景になっています。
私自身、正直な話としては、炎上した方々の詳細については詳しくありませんし、読者の方も全員を良く知っているという人は少ないかもしれません。
ただ、騒動になった方々はそれぞれの業界やコミュニティでは、非常に有名だったり注目されている方のようです。
例えばVTuberの潤羽るしあさんは、2021年にYouTubeのスーパーチャットで最も多くの投げ銭を集めたYouTuberで、なんとその総額は約1億9400万円に及ぶと言われています。
YouTubeチャンネルの登録者数も160万人を超えており、その人気のほどがうかがえます。
また、不貞行為が問題となった「ななもり。」さんがリーダーを務めるすとぷりは、ドームツアーを実施するなど多くのファンがいるので有名なエンタメユニット。
YouTubeチャンネルの登録者数も169万人を超えており、再生数が2000万以上の動画が複数ある人気グループです。
炎上したプロゲーマーの2人はYouTubeの登録者数等はそれほど多くはなかったようですが、eスポーツがテレビ番組でも取り上げられるようになり、eスポーツチームのCYCLOPSにも複数の企業スポンサーもつくようになるなど、業界全体の地位があがっているタイミングなのがポイントだったように思います。
知名度や社会的地位が向上すれば、無名のYouTuberやタレントに比べて、不適切な発言や行為が問題になりやすくなるのは当然とは言えるでしょう。
■告発系ユーチューバーの影響力向上
さらに、大きいのは、告発系ユーチューバーの影響力向上でしょう。特に、ネットの文春砲と呼ばれるコレコレチャンネルの存在は大きいと言えます。
参考:不登校の少年が「ネットの文春砲」になるまで 暴露系YouTuberコレコレの原点
今回のすとぷりの騒動も、「ななもり。」さんの「内縁の妻」を名乗る人物がコレコレチャンネルの生配信に電話出演して告発したのが、きっかけです。
また、潤羽るしあさんの騒動も、コレコレチャンネルの配信に登場したことで話題が拡大したと言われているようです。
週刊文春のような既存メディアは、基本的に政治家やテレビに出演するような著名芸能人を主な取材対象としており、あまりネット発のタレントの問題行為を取り上げることはありませんでした。
それがコレコレチャンネルのような告発系ユーチューバーの登場により、ネットの有名人の不適切な行為が、ネット上で告発され、ネット上で事実特定され拡散されるというサイクルが確立されるようになったのです。
「テレビに出ているような芸能人であれば炎上するけど、ネットの有名人なら大丈夫」という時代は、もはや明らかに終わったと言えます。
■失言や不適切な行為に対する社会的制裁の変化
ただ、従来であれば仮にネット上で著名人が炎上したとしても、しばらくすればすぐにネット上の活動には復帰できたのが通常だと思います。
例えば、昨年メンタリストDaiGoさんが、ホームレスに対する発言で批判を集め、短期的に収束せずに大炎上するというケースがありましたが、2ヶ月ほどで復帰されています。
過激な発言を売りにしているYouTuberの場合には、謝罪をせずにスルーするケースも少なくないように思いますし、炎上してテレビに出られなくなった芸能人がYouTubeに活動の場所を移すケースが増えていることを考えると、テレビに比べればネットの制限はゆるいという印象が強かったはずです。
ただ、今回の騒動で流れが明らかに変わったと感じたのは、前述のプロゲーマー2人や、VTuberの「潤羽るしあ」さんの騒動が、契約解除という具体的な懲罰にまで発展している点です。
これまでも、相撲協会がSNSの不適切投稿に対して、力士のSNS活用を禁止するなどの対応をしたことはありましたが、ライブ配信中の失言で契約解除というのは、かなり厳しい対応と言えます。
参考:相撲協会のSNS無期限禁止から考える、個人投稿を禁止する組織の共通点
これには、やはり不適切な行為や発言に対する社会的制裁のレベルが、年々厳しくなっていることが1つ影響していると言えるでしょう。
今回の一連の騒動も、こうした組織側の厳しい対応自体がさらに話題を呼ぶという一連のサイクルにもなっていました。
こうした3つの要素が組み合わさり、ネット発のタレントについても、テレビに出ているような芸能人同様に、不適切な行為や発言が炎上しやすい時代に突入しているのです。
個人よりも適切さが求められる「組織」
こうした社会状況の変化に対して、今後私たちが考えていかなければいけないのは、どのようにこうした騒動を減らしていくべきかという点でしょう。
特に、プロゲーマーの失言騒動が契約解除にまで発展したのは、ネット上でもやりすぎではないかという議論が一部でされていたようです。
ライブ配信中の失言でクビというのは自分事に置き換えてみると、厳しすぎると感じる人は少なくないのではないかと思いますし、他のプロスポーツではあまりない対応のように思います。
過去にも問題発言を繰り返していたという経緯もあるようですし、今回、契約解除になった方々と所属組織との間でどういうやり取りがあったかは分かりません。
ただ、ここでポイントになるのが、個人のYouTuberとは異なり、契約解除になった方々は組織に所属していたという点です。
特にプロゲーマー2人の場合は、所属チームであるCYCLOPSの主な収入源は企業スポンサーだと考えられます。
当然、スポンサーからすると不適切な発言を繰り返すようなアスリートやチームへのスポンサーは自らのブランド毀損のリスクがあり、許容できる行為ではありません。
個人のYouTuberであれば、仮に炎上したとしても、YouTubeのアカウントさえ停止されなければ、ライブ配信を続けることもできますし、広告収入を得ることもできます。
ここが炎上系YouTuberと言われる存在が、炎上しても活動を継続できるポイントです。
ただ、これが企業や組織となると、炎上のダメージが個人とは比べられない規模になってしまうリスクがあるため、リスク要因となる個人を許容できなくなるわけです。
過去に飲食店やコンビニのアルバイトが、不適切な写真や動画をSNSにアップして炎上したケースがありますが、彼らもほぼ全員解雇されたり、訴訟をされていることを考えると、CYCLOPS側の対応も同じだったと言うこともできるでしょう。
組織としての教育やトラブル対応の強化が必須に
では、今後も組織が不適切な行為や失言をした人間をクビにするのが普通の社会でよいのかというと、それに合意できない方は少なくないはずです。
特にプロゲーマーの過激な発言は、今に始まったわけではないという指摘もあります。
本来激しいゲームのプレイ中は、どんなスポーツでも相手に暴言を吐いてしまいがちですが、eスポーツの場合はその選手自身が自らライブ中継をして観客を楽しませるという構造にあり、実はそもそもが非常にリスクの高い行為をしているとも言えます。
プレイ中の暴言の問題は、サッカーや野球などのメジャースポーツにも存在していますが、それがライブ配信で世界中に届いてしまうのは、eスポーツならではの課題と言えます。
契約選手にライブ配信を実施させるのであれば、チームや企業側のリテラシー教育が、今後さらに重要になってくるのは間違いないでしょう。
VTuberの桃鈴ねねさんのトレース疑惑の炎上においては、運営会社側のカバー株式会社も、自社の素材チェック体制の不備を認め、今後の強化をしていくと宣言しています。
参考:カバー株式会社【お詫び】
今後は企業側も、こうした支援体制を強化していくことが重要になるでしょう。
特にネット発タレントは若い世代が自然と多くなります。
そうした若い世代を組織化して事業を行おうとするのであれば、当然その事業を行う側の責任というのは大きいものになるはずです。
また、eスポーツにしても、VTuberにしても、ネット発タレントにしても、産業自体の歴史が浅いために、こうしたトラブル対応時のノウハウがまだ積み重なっていないことも今回の騒動が大きくなってしまった要因の1つになっているように思います。
特にすとぷりの「ななもり。」さんの騒動においては、「ななもり。」さん自身がすとぷりのリーダーでもあり、そのすとぷりを運営する株式会社STPRの社長でもあることから、当事者目線での対応が優先され、騒動が大きくなる要因の1つになってしまったようです。
本音での真摯な対応こそが最大の対策
ただ、一方で今回のすとぷりの騒動において非常に印象的だったのは、株式会社STPRが企業としての公式な謝罪リリースを公式サイトに掲載するのとは別に、公式アカウント担当者の方が「弊社ななもり。に関するご報告とお詫び。」という長文の記事を公開された点です。
参考:弊社ななもり。に関するご報告とお詫び。【株式会社STPR】
この記事では、担当者の方の率直な驚きや怒りがつづられており、ファンの方々の共感や応援の声が集まっているのが非常に印象的でした。
当然、社長の不祥事に対して、1社員がこうした意見を公開することに対して議論はあると思います。
ただ、この記事が公開されていなければ株式会社STPRの現状の対応や、関係者の方々の姿勢に対して様々な批判が更に重なるリスクがあったことを考えると、非常に重要な対応であったように感じます。
炎上の渦中にいる方は冷静な判断ができない状態におかれますし、下手な投稿をしてしまって火に油を注ぐよりは、SNSアカウントの更新を停止することでSNSと距離を取るというのも1つの対応の選択肢ではあります。
ただ、その方の人生や組織の活動は炎上の後も続くことになります。
一時的な炎上から逃げるためにSNSアカウントを削除するよりは、株式会社STPRの方々のように不祥事を起こした当事者の方も含めて、問題に正面から向き合うことで、再起への道が開かれるのではないかと思います。
一つ一つの炎上は対岸の火事かもしれませんが、毎週のように炎上が起こっているインターネットという状態は、いつか自分達にもその牙を向けてくることになりかねません。
各業界の方々にも、こうした事例から学んでいただき、是非炎上を起こさない教育や、炎上を悪化させない対応方法のノウハウ共有に力を入れていただきたいと思います。