金正恩「不味いお菓子」で権威失墜が深刻
毎年4月15日の太陽節(故金日成主席の生誕記念日)、光明星節(故金正日総書記の生誕記念日)、金正恩総書記の誕生日には、北朝鮮の子どもたちにお菓子セットが配られる。
このお菓子セット、金日成氏の生誕65周年の1977年から始まり、かつては最高指導者のありがたみを子どもたちに感じさせる最高のプレゼントだったのだが、最近ではあまり評判が良くない。今年の太陽節記念として、全国の子どもたちに配られたお菓子セットも同様だった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、太陽節を2日前に控えた今月13日、安州(アンジュ)市内に住む子どもたちにお菓子セットが配られた。当局は「子どもを王様として抱き、愛した首領様(金日成氏)の遺志を継ぎ、元帥様(金正恩氏)が子どもにお菓子セットを配られた」と宣伝した。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
しかし、当の子どもたちの評判は今ひとつだ。太陽節には親や祖父母が子どもや孫にプレゼントを買い与えるという習慣があるのだが、「市場でおばあちゃんが買ってくれた可愛い服の方が、お菓子セットよりいい」と言われる始末だ。
また大人たちは、お菓子セットの原材料を購入するとの名目で、金品の負担を命じられた。親の懐から出たカネを、当局のプロパガンダに使われたことは、子どもですら知っている。これでは「元帥様、ありがとうございます」と涙を流すわけがないのだ。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、金正恩氏のお菓子セットより、祖母が孫に与えるプレゼントのほうが心がこもっていると指摘する。
「孫が可愛くてしょうがないおばあさんたちは、数カ月前から1ウォン、2ウォンと貯めた貯金で、市場でお菓子やキャンディを買って袋いっぱいにつめて、4月15日の太陽節に孫にプレゼントする」
上からの命令で、住民から資金や原材料をかき集め、地元の食品工場で大慌てで作ったお菓子セットより、市場で売られている中国製や国内製のお菓子のほうが美味しく、子どもたちにも人気だ。もはやお菓子で子どもを釣る手法が通じない時代になったのだ。
こうしたお菓子の「地位の低下」は、こんなところにも現れている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、太陽節の前日午前9時から開かれた記念行事で、13歳以下の子どもたちや、出産を控えた女性にキャンディとスナック菓子500グラムずつが配られた。
今年の金正恩氏の誕生日、光明星節に配られたものと質は似たりよったり。朝鮮労働党は「お菓子セットの品質を高めよ」と言っているが、足りない原材料をなんとかやりくりして、地元の食品工場で製造したものなので、あまり美味しいとは言えず、キャンディも最初から割れている。
それでも子どもは喜ぶが、食糧難が深刻な今、親は市場でさっさと売り払ってしまう。1袋は2万北朝鮮ウォン(約320円)。コメなら3.4キロ、トウモロコシなら6.6キロ買える値段だ。家族全員が数日間食いつなぐことができる。
もちろん最高指導者の名前で下賜されるお菓子セットをあからさまに売買することはできない。公開批判で済むならまだしも、最悪の場合、政治犯に問われかねないからだ。そこで、売買は密かになされる。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
一方で、経済的に余裕のあるトンジュ(金主、ニューリッチ)の場合、お菓子セットは食べずに取っておいて、冠婚葬祭や先祖のための儀式のお供え物として使うのだという。
食糧事情がかなり改善していたコロナ前には、お菓子セットの味がよくなり、非常に評判がよかった。だが、食糧事情の悪化に伴い、味も低下したお菓子セットは、食うや食わずの暮らしを強いられている現在の北朝鮮国民にとっても、あまり手が伸びるものではないようだ。