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ペーパーワークを撲滅せよ! ~脱・仕事ごっこ~【沢渡あまね×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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コロナウィルス感染拡大を防止のためテレワークが拡大する中、GMOインターネットが熊谷正寿社長は、4月15日、Twitterで印鑑の完全廃止を宣言。「電子契約のみとする」という旨を公表しました。押印のためだけの出社が問題視されたことが背景にあります。こうした動きはIT企業を中心に広がっており、フリマアプリのメルカリは権限者の署名や電子署名などに切り替える方針を発表しました。これから働き方はどう変わっていくのでしょうか?

<ポイント>

・これまでの働き方改革がうまくいかなかった理由

・テレワークではなく「デジタルワーク」が最終ゴール

・暇なおじさんの消化試合に巻き込まれて仕事の無駄が増える

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■コラボレーションできないことにより生まれるリスク

沢渡:この時代において、仕事ごっこにまみれていると、他者と早くつながれません。あなたは何ができる人か、私たちは何ができる人かが分からない状態というのは、組織とそこで働く人の成長を阻害していると考えないといけないのです。

もう1つが、コラボレーションができないことによるリスクです。

これはまさに今起こっている状況そのもの。自宅にいながら、上司と部下がつながって仕事をし、成果を出す。あるいは別々の会社の人たちが取引をしていく。そういうふうにコラボレーションできない組織や人は社会的リスクにさらされます。あるいは相手をリスクにさらしてしまうという話です。

倉重:完全に置いていかれていますからね。

個別に情報を伝達するコストも発生しますし。

沢渡:コラボレーションができないことは社会的リスク、あるいは社会的な道義に反する行為にすらつながりかねません。この認識をしていかなければならないと思います。

倉重:休業や在宅勤務をしているのに、ハンコを押すために出社するところは多いのです。

大手企業も含めて、数多くの企業がそういう悩みを抱えています。テレワークしているのに、テレワーク助成金の書類にハンコを押すために出社するというのもよく聞く話です。

「何の冗談ですか」という状態ですよね。

沢渡:テレワークをうたいながら、ハンコのために出社する。

落語で言うところの「お後がよろしいようで」というような状況になっているわけです。

倉重:紙とハンコを撲滅していくのに、今は一番ちょうどいい時期ですね。

まず「国から早くなくしてくれ」と思います。

沢渡:私がなぜこの『仕事ごっこ』という本を出したのか、なぜ童話スタイルにしたかというと、1つの立場では仕事ごっこを減らせないからです。

人事部だけが頑張ったところで、変えられるのはせいぜい人事制度や、慣習の部分です。

しかしながら、ハンコと紙の仕事には、経理や、監査部門や監査法人が関わっています。

税務署や官公庁、霞が関に関わる部分もありますね。

一個人の努力で仕事ごっこをなくせる部分もあれば、それぞれの部門がやらなければいけない部分もあります。官公庁や自治体、経営者、管理職、現場の人たち。それぞれの層が変わらなければなりません。仕事ごっこが温存されているのは、誰のせいでもあって誰のせいでもないのです。

倉重:「いっせーの」で始めなければいけないのですね。

沢渡:あるいは、それぞれの立場の人が「これはおかしい」「やめてくれ」とどんどん声を上げていかないと。悪気なくそのままにしていたり、お互いのせいにしたりしているだけでは何も変わらないのです。

倉重:「ハンコを押すような会社とは取引をしない」とGMOの社長が言っていましたね。ああいう企業がどんどん増えてくると非常にいいです。

沢渡:それぞれの立場で「仕事ごっこをなくしていきましょう」「コラボレーションを邪魔するものをなくしていきましょう」という声を上げていき、そこからムーブメントにつなげていく。

書籍『仕事ごっこ』をあえて童話スタイルにしたのは、堅苦しい本はなかなか読まれないからです。プレーンで誰にでも分かりやすい読み物にすることで、あらゆる立場や層の人に読んでもらいたい。そこから世論形成、ムーブメントにつなげられないかなと思ったのです。

倉重:なるほど。まさにコロナの今、ようやく時代が追い付いてきた感じですね。

沢渡:今は世論形成をしやすい時代なのです。ここを逃してはならないなと思っています。仕事ごっこを放置していると国力が下がります。

それぞれの立場でアップデートしていかなければなりません。

倉重:別に「ハンコでなければいけない」という法律はないわけです。

ただ、民事裁判で使える証拠になるかどうかの話なので。

よく「電子契約にはリスクがある」と言う人もいますが、それは契約書がハッキングされて勝手に作られることを想定していると思うのです。

契約とは、契約書単品で見るのではなく、締結の前の交渉も考慮に入れます。

どういうやりとりをしてこの契約書になったのかということさえ立証できれば、偽造されるリスクはほとんどありません。

そういう勘違いが横行しているので、是正する良い機会かなと思っています。

沢渡:メールなど電子でやりとりしていればログも残りますからね。

弁護士の方でもアップデートをしていくモチベーションと行動力がある方は、変革のファンをどんどん見つけていくことが大事なのかなと思います。

倉重:そう思います。やはり変革は独りではできませんからね。

沢渡:士業の中にも、古臭い正義だけを振りかざすじいさんもいます。そういう人が顧問になってしまうと、企業は変われないと思うのです。

倉重:同業者を見ても、まだオンラインで会議や打ち合わせをしている人は少なくて、「すごく進んでいますね」という感じなのです。全然難しいことしているわけではないのに。

お客さんが在宅しているのに、事務所に呼び付けるという話も聞いたことがあります。意味がないでしょう?

沢渡:そうですよね。

■仕事ごっこの次は「働き方改革ごっこ」

倉重:コロナ問題の前に働き方改革関連法が施行されました。一応法律としても国としても企業としても、働き方改革やろうということになっているわけです。

しかしこれも、「働き方改革ごっこ」になっている会社が多いのではないでしょうか。

沢渡:おっしゃるとおりです。

まず1つに、働き方改革という言葉が大き過ぎる気がします。おそらく「改革するのは自分の仕事ではないよね」と皆が思ってしまうはずです。

倉重:自分事として捉えられないということですね。

沢渡:改革について提案しようものなら、周りの人から総攻撃で否定されると、もう二度と手を挙げる人がいなくなってしまうわけです。

実に改革という言葉が重た過ぎて、他人事になっているのが1つ。

「働き方改革は人事の仕事でしょう、よろしく」と、どこか1つの層の丸投げして終わりという空気があったわけですよね。

繰り返しになりますが、人事ができることには限りがあるわけです。

テレワークのような、自由な働き方の仕組みを整えることはできるかもしれませんが、それを使って成果を出すのは現場の人です。

倉重:現場が変わらないと意味がないですね。

沢渡:働き方というのは、いろいろな要素と立場の人が混ざり合って現状が生まれています。

もっと言ってしまえば、官公庁が緩めるところは緩める、あるいは新しい制度を導入しやすいような仕組みをつくることによって、変わる部分があるわけですよね。

極論を言うと、税務などが妥協すれば働き方などは劇的に改善されます。

倉重:マイナンバーで収入を捕捉して、税金も勝手にしてくれよと思ってしまいます。

沢渡:税金を納めるお客さまに、何でわざわざあんな煩雑な事務作業をさせるのか、と言いたくなるわけです。「納税は国民の義務だから」とレガシーな方々にはお叱りを受けます。

でも、ちょっとまってくださいよ。その発想がまず古いのです。ビジネスモデルで考えたら、国だって、企業や国民にきちんと気持ちよくお金を払ってもらったほうがいいわけでしょう。そのプロセスが複雑で、納税の手間を掛けさせています。

そもそもプロが仕事にフルコミットして稼ぐ邪魔をするのは本末転倒です。

狭い正義感の中での、自己満足でしかない。それ自体がもう仕事ごっこですよ。

倉重:無駄な社会コストが発生していますよね。

沢渡:そういったところの意識や仕組みをアップデートしていかないと国力が下がります。それぞれの立場の人が、変わらなければならない。時には妥協もしなければならない。企業の中で言うと、「働き方改革は人事の問題だよね」と丸投げされていました。

さらに国全体で見ると、労務所管組織は恐らく厚労省なのです。 

厚労省だけに長らく日本の人事を丸投げしていた状態でした。

だから物事の本質が解決しません。取りあえず目先の残業時間を減らして、その裏で社員が残業しているような「働き方改革ごっこ」しか行われてこなかったのです。

倉重:官僚自身も長時間労働が非常にありますから。

沢渡:ところがコロナのように、企業の人も生命の危機にさらされている状況になると、本気で自分事として捉えるので、改革が起こるのです。

倉重:やはり黒船が来ないと日本人は変われませんからね。

沢渡:今は法的にもある意味妥協して、タクシーで飲食物を配送したり、レストランがお酒を販売できたりするようになっています。時限的な措置かもしれませんが、官公庁でも緩める部分が出てきました。

また、今まで「セキュリティーが・・・・・・」と難色を示していた企業がテレワークを始めています。これだけ大きな問題になったことで、ようやく自分事として捉えるようになったのです。

倉重:本気で動き始めているのですね。

トップと現場、それから人事部門の3つがきちんと連携して一緒に動かないと意味がありませんよね。

沢渡:「改革」とは組織の壁を越えて、クロスファンクションで物事を解決し、新たなものを生んでいく取り組みだと思います。

働き方改革が人事所管部門だけに丸投げされている状況では、うまくいかなくて当然なのです。

倉重:やはり現場が聞かないことをしたって仕方がないですし、経営がうんと言わなかったら大きな改革はできません。

沢渡:経営者も中間管理職も、現場の私たちも変わらなければいけない。もちろん管理部門も官公庁も自治体もそうです。それぞれの人たちが2.0にアップデートしていかないと、誰も幸せになりません。

■テレワーク0.0から2.0へのステップ

倉重:今は多くの会社がテレワークをしていると思います。

テレワークのアップデート、「テレワーク0.0から2.0」までのご説明をお願いします。

沢渡:前提として、テレワークが全てではありません。

テレワークの先にあるデジタルワーク、デジタルの世界でビジネスモデルを変革していくのが最終ゴールです。

アフターコロナないしウィズコロナで、企業や組織が成長していけるのかどうかは「2.0」に行けるかどうかにかかっています。

別にテレワークで実現しなくても良いわけですが、今は引き合いに出したほうが分かりやすいため、テレワークを例に出して、組織の成長ステージの話をします。

私は今世の中の企業、自治体、官公庁を見ていて、テレワークには4つのステージがあると思っています。

まず、テレワーク0.0。

全ての業務をオフィスで行っています。テレワークをしていない状態です。一部の人が、介護や育児をしながら少し使うくらいです。

その次がテレワーク0.5。オフィスの業務を自宅から行います。業務改善やペーパーレス、いわゆるリエンジニアリングはほぼ行われていません。

会社のパソコンなどに自宅からアクセスして、社内のメールやオフィスツール、あるいはスケジューラーなどを使っていく状態です。

ただ依然としてペーパーワークが残るため、ハンコを押しに出社するということが起こります。

倉重:業務プロセス自体は変わっていないということですね。

沢渡:そうですね。ミーティングだけはクラウドサービスを使って、オンラインでやるときがあります。これで仕事が回れば全く問題がないわけです。

多くの会社が今0.5を実践していると思いますが、その中でも2つに分かれていると思っています。事実上の自宅待機にすぎずほとんど業務を回せていない組織と、従来の業務はなんとか回せている組織です。

倉重:家でやることがないというような。

沢渡:やることがない、あるいはデジタルを使いこなすリテラシーがないのです。今までITに投資してこなかったものですから、ネットワークが遅くて全然つながりません。

倉重:会社では一体何をしていたのだという話ですよね。

沢渡:IT投資もリテラシーを上げることも業務改善もしていないものですから、事実上自宅待機で業務が回っていないところもあると思います。

倉重:今まで何となくオフィスに来ていた人って結構いろいろな会社にいて、テレワークだと成果物が出せなくなる現象が発生していますね。

沢渡:そもそもそれって、業務設計や業務デザイン、組織デザインの話なのです。

私も大企業経験が長いですから気付くことはありますけれども、部署によっては、週5日×8時間も人を拘束するほど仕事がなかったりするわけです。

そうすると、だらだらExcelを閉じたり開いたりする人たちが量産されます。私はそれを「消化試合」と呼んでいます。その消化試合のための無駄な仕事を生む人もいます。妙に細かいチェックプロセスを増やしたりして、忙しい人をいらっとさせるのです。

(つづく)

【対談協力:沢渡あまね(さわたり あまね)さん】

1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)、株式会社NOKIOO顧問、株式会社なないろのはな取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。浜松/東京二重生活。

日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報(情報システム部門/ネットワークソリューション事業部門/インターナルコミュニケーション)。

『人事経験ゼロの働き方改革パートナー』を謡い、ITやコミュニケーションの観点から組織改革を進める。300以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。

<著書>

『仕事ごっこ』『仕事は「徒然草」でうまくいく』『業務デザインの発想法』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『働き方の問題地図』『仕事の問題地図』『システムの問題地図』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『働く人改革』(インプレス)、『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』(C&R研究所)など。

『職場の問題地図』は"ITエンジニアに読んでもらいたい技術書/ビジネス書大賞2018"で、ビジネス書部門大賞受賞。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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