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JR西日本が「みどりの窓口」を削減 背景には何が?

小林拓矢フリーライター
「みどりの券売機プラス」を増やす方針のJR西日本(写真:アフロ)

 JR西日本の来島達夫社長は19日の記者会見で、人材確保が難しい現状に合わせ、駅の運営体制を改めることを発表した。乗客自身の「セルフ化」、専門性のある業務を駅係員以外が担う「集約化」により、サービスの向上に向けて乗客と向き合う「フロント業務」に注力するという。

 フロント業務は具体的に、忘れ物の受付・捜索、運行不能時の払い戻し、輸送障害時の案内、訪日外国人への応対、きっぷ購入のサポート、不案内な乗客へのサポート、身体の不自由な乗客へのお手伝いなどが挙げられる。

 それに合わせて、交通系ICカードの利用促進や、新幹線・特急のネット予約の普及促進なども行う。

みどりの窓口削減とその対応策

 その中で注目すべきところは、京阪神エリアで2030年度ころまでにみどりの窓口を削減し、「みどりの券売機プラス」に、ほぼすべての有人駅にICカードの購入やクレジットカードでの定期券の購入が可能な「高機能券売機」に設置するというものだ。

 また、改札口付近できっぷに関する問い合わせに対応するための「改札口コールシステム」も導入する。

 現在、京阪神エリアで180の駅にあったみどりの窓口が拠点駅・新幹線駅を中心とした30駅に、一方で「みどりの券売機プラス」は50駅のところ、100駅程度に2030年度ころには設置される。

「みどりの券売機プラス」とは、これまでの「みどりの窓口」と同じようにきっぷの購入・変更・払い戻しができる券売機であり、「ジパング倶楽部」や学割などの割引も可能、必要に応じてオペレーターと電話でやりとりできるというものである。

 この券売機は、JRシステムが開発した顧客操作型端末「MV-50」とコールセンターへの接続機能を組み合わせた遠隔支援システムの「アシストマルス」を採用したものであり、「みどりの窓口」の営業が行われていない時間でも券売機で購入できる、「みどりの窓口」がない駅でも新幹線や特急の指定席を購入できるというメリットがある。

 しかしこのスタイルの券売機、どこかで聞いたことはないだろうか。

JR東日本も試みた遠隔対応券売機

 JR東日本では、すでに似たようなことをやっていた。「もしもし券売機Kaeruくん」だ。JR東日本のいくつかの支社では、券売機とカメラ、通話装置を組み合わせ、ほぼ同等の機能を持つシステムを、2005年から使用開始していた。

 だがこのシステムは、全社に広まることはなく、2012年には廃止された。その後は、指定席券売機を置くようになっている。

 このシステムが廃止された理由として、オペレーターにつながるまで時間がかかる、あるいは利用者の画面上での動きが見えない(「アシストマルス」では見える)、そもそも指定席券売機の操作が難しいため説明してもわかりにくいという問題がある。

 指定席券売機が備えられた駅は駅員のいる駅であり、わからない場合は駅員がアドバイスするということになったのだろう。そのかわり、学割などは大きな駅でないと対応できなくなっている。

 また、年度初めの通学定期券の購入は「もしもし券売機Kaeruくん」で対応できたが、多くの人が並んで購入に時間がかかったという。一般の通勤定期券はとくに証明書は必要ないが、通学定期券は学生証などの証明書が必要である。

「みどりの券売機プラス」では「もしもし券売機Kaeruくん」よりも改善されているものの、同様の事態は起こりうる。

 背景には、窓口に人を置かせることのできない人手不足の状況がある。これにはどのようにJRは取り組んでいたのか?

複雑な「みどりの窓口」は非正規雇用で対応できるのか

 JR東日本では、駅係員の人件費削減を目的に、正社員だけではなく「グリーンスタッフ」という契約社員もみどりの窓口の業務を行っていた。しかし現在では「グリーンスタッフ」の採用は行われておらず、かつては正社員登用の制度があったものの、なかなか正社員にはなれなかったという話がある。

 JR西日本でも契約社員採用を行い、みどりの窓口の業務などを行わせている。

 しかし駅係員、それも「みどりの窓口」の仕事は、それなりに習熟が必要な仕事である。「旅客営業規則」などのきっぷのルールを的確に理解し、それに合わせてきっぷの発券を行わなくてはならない。きっぷのルールは大変細かい。回数券やフリーきっぷなどの各種の割引きっぷについても、理解していなくてはならず、続々と登場する新しい割引きっぷについての商品知識も必要だ。ただカウンターに座って端末を操作しているだけではないのである。「みどりの窓口」の人も、ときどき間違えることがあるほどだ。そしてそういう間違いを指摘するタイプの利用者は、えてして鉄道に詳しかったりする。

 旅行業務取扱管理者の試験では、JRの運賃・料金計算が問題として出題され、それは受験生にとっては複雑だといわれている。この資格については、鉄道会社で働く人を養成することを主目的としている岩倉高校や昭和鉄道高校でも取得に力を入れている。資格にもなるほどのものである。

 契約社員で数年間働いてもらってやめてもらう、というには、奥が深い仕事なのだ。

「みどりの窓口」では普通に特急券と乗車券を購入する人は多いものの、ときどき複雑な経路の連続乗車券や片道の一筆書き乗車券、「サンライズ瀬戸・出雲」などの寝台券などを購入する人も現れる。大きな駅のカウンターのある「みどりの窓口」では対応できるものの、小さな駅の、他の仕事の合間に「みどりの窓口」の業務を行っている駅で、しかも入社してすぐという状態だと、対応は困難であろう。

「みどりの窓口」が削減され指定席券売機や「みどりの券売機プラス」などの遠隔支援システムが増えていくのは、人手不足が背景にあるのと、あわせて複雑なきっぷを発券する際の要員を多くの駅に置くことが実質困難であること、そしてそのきっぷのルールの細かさと奥深さを理解するのは習熟していないと難しいというのが背景にあるとはいえるだろう。その状況の中で、何を人にやらせるか、といったことを考えた結果が、JR西日本の方針である。ただし、この施策でうまくいくかどうかは、なんともいえないものがある。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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