カリブの小国・ドミニカ共和国でU-17女子W杯が開幕。世界一を目指すリトルなでしこの強み
【21名の精鋭を発表】
10月16日から11月3日まで、ドミニカ共和国でFIFA U-17女子ワールドカップが開催される。
大会に臨むリトルなでしこ(U-17女子日本代表)のメンバー21名が、9月30日に発表された。
FIFA U-17女子ワールドカップ ドミニカ共和国 2024メンバー
U-17ワールドカップは、U-20代表、なでしこジャパンへの登竜門とも言える17歳以下の世界大会だ。前回2022年の同大会はインドで行われ、日本はスペインに敗れてベスト8だった。当時のチームからは、谷川萌々子(バイエルンからFCローゼンゴードに期限付き移籍中)と古賀塔子(フェイエノールト)の2人が、飛び級でなでしこジャパンに選出され、今夏のパリ五輪に出場している。
今大会のリトルなでしこを率いるのは、JFAのトレセンコーチなどを歴任してきた白井貞義監督。5月にバリで行われたAFC U17女子アジアカップでは、日本は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に敗れて4連覇こそならなかったものの、2位で今大会への出場権を獲得している。
今年8月から9月にかけてコロンビアで行われた年上世代のU-20女子ワールドカップでは、ヤングなでしこ(U-20女子日本代表)が準優勝の結果を残した。U20女子アジアカップ決勝で日本が敗れた北朝鮮が、世界一の座に輝いている。
このように、日本は育成年代ではアジアでもワールドカップでもコンスタントに結果を残しており、今大会も優勝候補の一角だ。ただし、スペイン、北朝鮮など、同じく育成年代でトップレベルの結果を残している国々は今大会もライバルとして立ちはだかるだろう。U-20ワールドカップでMVPを獲得した北朝鮮のチェ・イルソンは17歳で、今大会にも出場資格があり、日本の脅威となりそうだ。
また、女子サッカーの環境整備が進んでいるヨーロッパ勢が台頭してくる可能性もある。
今回リトルなでしこに選出された21名は、プロのWEリーグのユースから13名、なでしこリーグから4名、高校3名、U-18地域リーグから1名。5月のアジアカップを戦った選手が19名を占める。アジアカップ後、8月に国内トレーニングキャンプを一度行い、今大会に臨む。
【U-17年代で身につけたい「ゲームを運ぶ力」】
5月のアジアカップでは、司令塔の眞城美春を中心に小気味良いパスワークと縦に速い攻撃を使い分けてゴールを重ね、決勝まで勝ち上がった。決勝は北朝鮮に強度や決定力で及ばず0-1で敗れたものの、個々の機動力や技術は例年の代に劣らず、粒ぞろいの印象を受ける。
白井監督がこの年代で目指すのは、「自分たち主導でゲームを運べる力をつけること」だ。A代表で求められる戦術理解力や修正力をこの年代から段階で身につけておけば、上の世代でさらにハイレベルなチャレンジができるからだ。そして、10代の選手たちが個を磨く環境は、プロのWEリーグがメインステージとなっている。
WEリーグ第2節広島戦で、仙台の津田愛乃音がWEリーグ最年少ゴール記録(16歳10カ月13日)を更新。さらに、第3節では東京NBの青木夕菜が記録をさらに更新(16歳2カ月22日)した。強度の高いプロの試合で結果を残すことは、伸びしろの大きい10代にとって重要な成功体験となる。
「WEリーグでプレーすると、スピード感とかフィジカルは(下部組織で戦っていた)これまでとは全然違うなと感じてて、奪われた後の切り替えは、世界でも通用するんじゃないかなと思います」(青木)
今大会、日本はグループステージ初戦でポーランド、第2戦でブラジル、第3戦でザンビアと対戦する。「3カ国とも、フィジカル能力が高い印象です。アバウトにボールを蹴ってくるところや、個人で打開することに長けた国々だと思います」と白井監督。
目標は、その国々を圧倒し、U-20代表が成し遂げられなかった世界一に辿り着くことだ。
「ボールを保持して相手のゴールに迫るシーンを何度も出したいと思っています。現代サッカーはサイドからの攻撃で多くの得点が生まれていますが、私たちは中央突破から、サイドの攻撃につなげていく部分をぜひ、見ていただけたらと思います」(白井監督)
攻守を牽引するのは、東京NBでポスト・長谷川唯として期待されるボランチの眞城だろう。王者に敗れた前回大会の悔しさを、同じワールドカップの舞台で晴らしてほしい。
また、長身選手が揃う最終ラインからのダイナミックな展開も、このチームの大きな魅力。前線はアジアカップで25m弾を決めたボランチの平川陽菜(浦和)や、WEリーグで成長著しいSBの青木(東京NB)、アジアカップ後にメンバー入りした172cmのMF佐野杏花(JFAアカデミー福島)、スピードに乗ったドリブルが魅力のMF菊地花奈(仙台)、ゴールへの嗅覚と華やかなパフォーマンスで魅せる佐藤ももサロワンウエキ(大商学園高)など、魅力的なタレントが揃っている。
U17女子アジアカップで2ゴールを決めた津田は、世界への挑戦を心待ちにしている。
「体格を生かして、相手を置き去りにするターンや、スピードとかを生かした突破は自分の武器です。アジアの相手としか対戦したことがないので、ヨーロッパや、また違うサッカーをしてくる選手たちに対して、自分の武器がどれだけ通用するかはとても楽しみです」
【指揮官が重視する“ボールを受けることを恐れない”メンタリティ】
個々の戦術理解度や技術の高さは、各クラブでの指導や経験の賜物だが、白井監督のチーム作りにおけるアプローチで強調されてきた大きなポイントが「チャレンジする姿勢」だ。
「指導している中で、ミスを恐れて挑戦しない選手がすごく目に留まるので、『ミスをしてもいいんだよ』と。周りの選手たちもそれ(ミス)を想定して、ボールを失った時にはすぐに攻撃から守備への切り替えをできるようなメンタリティで臨んでほしいです」
そのように強調するのは、ミスを恐れないメンタリティこそが、上の世代で「世界との差」につながると考えているからだ。
「選手たちには、『ボールを欲しがってほしい』と要求しています。(世界で戦うために)ボールを持って『何かができる』選手が増えてほしいと思っているからです」
今大会が行われるドミニカ共和国は、中南米のカリブ海に浮かぶイスパニョーラ島東部の小さな国だ。国土の面積は、九州と高知県を合わせたぐらいしかない。
年間平均気温は約25度で、亜熱帯性気候なので年間を通して蒸し暑いという。10月の日本とは7〜10度の気温差があり、時差は13時間。チームは暑熱対策のため、10月5日に首都サントドミンゴに入り、17日の初戦・ポーランド戦に備える。
谷川や古賀のように、今大会を機に飛び級でなでしこジャパン入りし、世界へと羽ばたく選手は出てくるだろうか。
大会はU-20女子ワールドカップと同じく「FIFA+」(無料)でライブ中継(配信)される予定だ。
*写真はすべて筆者撮影