宮城県の「晴れ」を「外れ」に変える“地形性巻雲”
初回の寄稿から天気予報が外れた話なのは悔しいのですが、きょう1月12日の宮城県の天気予報は外れました。
画像1は、11日(金)時点での12日の天気分布予想です。宮城県は、雲が多いながら晴れ間も出る予想で、気象庁も11日17時発表の予報では、宮城県東部・西部ともに「晴れときどき曇り」としていました。
ところが、きょうの宮城県はほぼ一日どんよりとした雲に覆われ、雨や雪こそ降らなかったものの、仙台の日照時間は僅か0.7時間にとどまりました。
画像5はきょう日中の衛星赤外画像です。東日本には気圧の谷による雲がかかっていますが、それとは別に宮城県周辺にだけ雲がかかっています。しかもよく見ると、山形県との県境で直線状に雲が途切れています。
これは「地形性巻雲」というもので、正しく表現するならば「県境で途切れている」のではなく「県境から発生している」ものになります。
地形性巻雲の発生条件は
1、上空で山脈に直交する風が吹いていること
2、上空の大気がある程度湿っていること
3、山脈風下の上空に大気の安定した層があること
の3つです。
発生条件が分かっているのに、現在の予報技術では正確に予報されません。なぜでしょうか?条件を一つずつ検証していきます。
1、山脈に直交する風
日本の上空は常に偏西風という西風が吹いていて、さらに東北地方には南北に奥羽山脈が走っているため、東北地方にとってはこの条件はほぼ常に当てはまっていることになります。これだけでは雲ができるかどうかの根拠にはなりません。
2、上空の大気がある程度湿っていること
雲が発生するためには空気が湿っている必要があります。実際コンピューターの予想でも、きのうの時点で仙台の上空約5500mの湿度は約70%ある予想でした。上空が湿っていることは十分に予想されていたわけです。
ではなぜ「曇り」ではなく「晴れ」という予報が発表されたのでしょうか?それは次の条件がカギになります。
3、上空に大気の安定した層があること
天気予報で「大気の状態が不安定」という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、これはその逆の状態です。これが厄介なのです。
大気の状態が不安定というのは、上昇流が発生しやすく雲が発達しやすいことを意味しますが、大気の状態が安定というのはその反対ですので、雲が発達しにくくむしろ晴れる予報の根拠になるものです。
実際きょう北日本付近には大陸から高気圧が張り出していて、それを元に気象庁も「晴れ」予報を発表していました。
ところが地形性巻雲は、この安定層の中を広がるように発生するものなのです。
イメージとしては、スキージャンプの選手がジャンプ台から飛び立つように、西風が奥羽山脈というジャンプ台を超え、その先にある安定且つ湿った層の中をスーッと進んでいくことで雲が広がっていくようなものです。
幸いこの地形性巻雲は空高い所にできる雲なので雨や雪を降らせることはありませんが、洗濯物が乾くかどうか・太陽光発電で発電できるかどうかには大きく影響します。
残念ながら今の予報技術では、この地形性巻雲が正確に予想されないため予報は「晴れ」として出ることが多いですが、私たち気象キャスターは「晴れ間もあるけど雲が出やすい」などと微妙なニュアンスをお伝えしようとしていますので、天気予報のそうした細かい所にも耳を傾けてもらえると幸いです。