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台風7号が紀伊半島上陸ヘ 高潮は上陸した場所によって様相が異なるが、風や雨は中心付近はどこでも危険

饒村曜気象予報士
日本の南海上を北上中の台風7号の雲(8月13日14時00分)

台風7号が紀伊半島上陸へ

 強い台風7号が八丈島の南海上にあって自転車並みの速度で北西に進んでいます。

 大きかった台風の予報円は、次第に小さくなっており、台風進路が定まってきました。

 台風が発達する目安となる海面水温が27度と言われていますが、台風7号は海面水温が28度以上の海域を進む予報となっています。

 このため、台風7号は勢力を維持しながら日本の南を北上して、8月15日(火)は東日本や西日本にかなり接近し、紀伊半島付近に上陸するおそれがあります(図1)。

図1 台風7号の進路予報と海面水温(8月14日0時)
図1 台風7号の進路予報と海面水温(8月14日0時)

 台風の進路予報は、最新のものをお使いください

 台風は本州を縦断した後、8月16日(水)は日本海を北へ進む見込みです。

 東日本や西日本では、暴風、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に厳重に警戒し、高波に警戒してください。

台風の最接近

 気象庁では、5日先まで、台風の暴風域に入る確率を発表していますが、これを見ると、台風が最も接近する時間帯がわかります。

 台風7号による暴風域に入る3時間ごとの確率を見ると、和歌山県の新宮・東牟婁地方(新宮市や紀伊半島南端の串本町など)では一番大きな値が89パーセントですが、この値になるのが、8月15日の明け方です(図2)。

図2 台風7号による暴風域に入る3時間ごとの確率
図2 台風7号による暴風域に入る3時間ごとの確率

 つまり、和歌山県の新宮・東牟婁地方では、8月15日の明け方に台風が接近するということを示す予報です。

 同様に、大阪府の大阪市では、8月15日昼前には44パーセントと一番高くなっていますので、この頃に最接近と考えられます。

 また、徳島市などがある徳島県の徳島・鳴門地方も、8月15日昼前に36パーセントと一番高い値ですので、この頃に最接近と考えられます。

 予報通りなら、大阪港の8月15日の干潮時間が12時43分ですので、大阪市や徳島市などの大阪湾沿岸では、ほぼ干潮時刻に台風が接近すると考えられますが、台風の動きが遅いことから最接近時刻は変わります。

 最新の台風情報の入手に努めてください。

吸い上げ効果と吹き寄せ効果

 海面は、月の引力によって満潮と干潮を交互に起こしています。この潮位の変化を「潮汐」といいます。

 満月と新月のときには、月の引力の影響が大きくなり、太陽との位置関係によっては、大潮になります。

 令和5年(2023年)8月16日が新月ですので、台風7号が接近する8月15日は、ほぼ大潮になります。

 また、台風等の気象条件によって海面が天文潮(通常の干満の潮位)より著しく上昇することを高潮といいます(図3)。

図3 天文潮と高潮の説明図(平成11年(1999年)の台風18号における熊本県八代港の潮位をもとにした説明図)
図3 天文潮と高潮の説明図(平成11年(1999年)の台風18号における熊本県八代港の潮位をもとにした説明図)

 1メートルの高潮は、潮位が天文潮よりも1メートルも高いという意味です。干潮のときに高潮が起きても、潮位は満潮のときより低いことがあります。

 潮位が一番高くなるのは、大潮でかつ満潮のときの高潮です。

 高潮を引き起こす主な原因は2つあります。1つは、低い気圧による海面の吸い上げです。気圧が1ヘクトパスカル低くなると、海面は約1センチ上昇します。例えば、気圧が1, 000ヘクトパスカルのときに比べ、950ヘクトパスカルのときの海面は50センチも上昇します。

 もう1つの原因は風による吹き寄せです。風が海から陸に向かって吹いているときは、吹き寄せによって海面が高くなります。

 風が強くなれば、この吹き寄せ効果は急激に大きくなります。海岸地形が湾であればなおさらです。

 大きな高潮になるかどうかは、湾の奥に向かって風が吹くかどうかで決まり、さらに湾がV字型であれば、その傾向が顕著です。

 太平洋側沿岸の多くの湾のように、南に開いている湾では、図4のように台風が通過すると大きな高潮となります。

図4 高潮が大きくなる台風の進路
図4 高潮が大きくなる台風の進路

 台風の進行方向の右側は、左側に比べて風が強いと言われますので、南に開いている湾のすぐ西側を北上したときは、台風の右側の強い風が湾の奥に向かって吹くことになり、大きな高潮が発生します。

 台風が紀伊半島に上陸した場合は、伊勢湾が東側になって西側の大阪湾より大きい高潮が発生します。

 しかし、大阪湾でも、台風が四国東部に上陸した場合は、台風の東側になり大きな高潮が発生します。

 台風がどこに上陸するかで、高潮が起きるか、起きないかの大きな差がでるのです。

 一方、暴風や大雨は、台風の中心付近の広い範囲が危険であり、台風の上陸地点が多少ずれても大きな差はありません。

 大きな高潮が発生すると、多数の死者がでる可能性があるため、台風上陸情報は大事な情報となっていますが、これによって、暴風や大雨の危険性が変わるわけではありません。

 どこに上陸しようと、暴風や大雨に対する警戒が必要です。

高潮に関する早期注意情報

 気象庁では、早期注意情報(警報級の可能性)として、5日先までに警報級の現象が発生する可能性を「高」「中」の2段階で発表しています。

 当初は、大雨、大雪、暴風(雪)、波浪の4つの警報が対象でしたが、昨年、令和4年(2022年)9月8日から高潮が追加されています。

 これまで、高潮による災害により早い段階で備えられるよう、日本付近に警報級の災害をもたらすおそれがある台風の接近や通過が予想される場合に限って、5日先までの警報級の高潮となる可能性に関する情報を図形式での提供していました。

 しかし、高潮予測技術の改善により、台風に伴う高潮予測の精度が向上したこと及び台風以外の要因による高潮も含め警報級の高潮となる可能性をより具体的に評価することが可能となったことから追加されました。

 ただ、どのくらいの高さの高潮が発生するかといった量的な数字は、まだ予報できる段階には達していませんので発表していません。

 台風7号の接近が予想されている8月13日17時発表の予報では、愛知県西部、大阪府などで、8月15日が「中」となっています(図5)。

図5 早期注意情報(上は愛知県西部、下は大阪府で、いずれも8月15日が「中」)
図5 早期注意情報(上は愛知県西部、下は大阪府で、いずれも8月15日が「中」)

 早期注意情報における高潮に関する警報級の可能性「高」または「中」は、高潮災害への心構えを高める必要があるとされる警戒レベル1に位置付けられています。

 高潮による浸水が想定されている地域では、市区町村での防災対応や住民自らの早めの避難行動の判断材料として活用してください。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2、図5の出典:気象庁ホームページ。

図3、図4の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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