祝 東京地下駅開業50周年 これがきっかけで進化した鉄道車両設備とは
東京駅の総武線地下ホームが開業して7月15日で50周年を迎えました。
今から50年前の1972年(昭和47年)7月15日に東京駅の地下に東京地下駅として巨大な空間が誕生し、大きな話題となりました。
というのも、当時の日本では地下鉄はありましたが今の東京メトロの銀座線に代表されるように、建設を容易にするため、できるだけ浅い部分に必要最小限の地下空間を確保する工事が一般的で、地下駅というものは狭くて薄暗い印象があったのですが、この東京駅の総武線地下ホームは地下4階という深い場所に長さ300メートルのホームが2本4線設置され、当時の日本としては最新技術の粋を集めた画期的なものだったのです。
現在では同じ東京駅のさらに深いところに京葉線ホームがありますし、上野駅の新幹線ホームも長くて広い空間が確保されていますが、50年前の東京地下駅として開通した総武快速線ホームは、その先駆けとなったのです。
今ではどこでも見られる2~3フロアーをぶち抜いたエスカレーターですが、エスカレーターが4基も並ぶ光景は見たことがありませんでしたので、当時都内の小学校6年生だった筆者は、さっそく探検に出かけたものです。
地下ホームに対応する鉄道車両
それまでの国鉄は長大トンネルはありましたが地下鉄区間というのはありませんでした。両国駅の脇から進入し東京駅まで新しく開通した区間は途中の馬喰町、新日本橋の2駅も合わせて地下鉄という位置づけで、それまでの国鉄とは違った安全基準に適合する車両が求められました。
そして登場した2つの電車が快速電車用の113系1000番代車と、特急車両の183系でした。
快速電車の113系は当時すでに東海道線や横須賀線の電車に活躍していましたが、1000番代という特別の区分を設け、従来車に比べて不燃化、難燃化を図った車両で、この区間を走る快速電車の車両は1000番代に限定されました。
183系特急列車はまったく新しく設計された車両で、地下区間を走るために不燃化、難燃化構造になっているのはもちろんですが、地下鉄区間を走るということで、駅間で異常事態が発生した際に、車両側面の乗降ドアから脱出することができないという想定から、車両正面に非常用扉を設置することが義務付けられました。
それまでの国鉄の特急列車というと、「こだま形」と呼ばれたボンネットスタイルが一般的でしたが、この区間を走るために設計された183系電車は、以前の車両とは打って変わってストンとした前面で登場し、「ちょっと特急列車としての風格に欠けるなぁ。」などと当時の鉄道ファンは思ったものでした。
以前の常識を覆すようなデザインで登場した183系電車でしたが、東京地下駅を発着するにあたり、もう一つ大きく改良された点がありました。それは列車のトイレです。
それまでの列車のトイレは垂れ流し式だったという事実
この183系電車が登場するまでは、在来線の列車のトイレは基本的に垂れ流しスタイルでした。昭和39年に登場した東海道新幹線ではさすがに垂れ流し式ということはありませんでしたが、在来線の列車は特急、急行、普通列車も合わせて、ほとんどすべての列車のトイレが垂れ流し式で、走行中の列車から粉砕された状態で線路に落ちた汚物が、自然に風化するのを期待するような処理の仕方が一般的でした。
ところが、東京地下駅に発着する列車ですから、地下鉄区間を走ります。
地下鉄区間はトンネル区間と違って駅のホームなども存在することから、落下した汚物が自然に風化することを待つようなことはできません。そこで登場したのが循環式汚物処理装置のタンクを備えた車両で、この183系特急電車はもちろんのこと、前述の快速電車用の113系1000番代にも同様の循環式汚物処理装置が設置されました。
写真は東京駅地下ホームに発着する総武線快速電車。
矢印の所が汚物処理装置です。
以前の車両のトイレには「停車中は使用しないでください。」と書かれていましたが、そんなことはお構いなしにトイレを使用する乗客が多く、列車が発車した後、駅の線路にはよくお土産が残されているのを目にしたものです。しかし、さすがに地下ホームとなるとそうはいかなかったのでしょう。今では当たり前のタンク式の列車のトイレも、きっかけは50年前の東京地下駅開業だったのです。
もうひとつ、悪評高かった特急座席
183系電車でもう一つ画期的な設計がありました。
それは座席のリクライニングです。
それまでの特急列車の普通席は背もたれが固定されていてリクライニングしませんでしたが、国鉄のサービス向上の一環として、この183系特急列車からグリーン車以外の普通車の座席もリクライニングするようになりました。
ところがこのリクライニングが実はとんだ曲者で、悪評が高かったんです。
どういうことかというと、普通車両の座席に設置されたのは「簡易リクライニング式」と呼ばれるもので、何が簡易なのかと言うと、ひじ掛けのボタンを押して背もたれが倒れるのは良いのですが、その倒れた位置で背もたれが固定されません。
乗客が上体を起こすと背もたれがバタン!と音を立てて戻ってしまうのです。
ちょっと姿勢を変えたり、体重をずらしたりすると背もたれが戻ってしまう。
車内のあちらこちらからバタン! バタン!と音がして、不便極まりない。
車内改札に回ってくる車掌さんに「これ、故障しているのか?」と尋ねる乗客が続出します。すると車掌さんは「お客さん、固定してしまったらグリーン車と差がなくなってしまうじゃないですか。倒れるだけでありがたいと思ってください。」との返答。
「何だそれ?」ですよね。
グリーン車と差をつけるためにあえて背もたれが戻ってしまう簡易リクライニングシート。何度か乗って別々の車掌さんが同じ受け答えをしていたのを記憶していますので、おそらく上からそう答えるようにとの伝達事項だったのでしょう。
この一件からも当時の国鉄の「乗せてやってるんだ。」という上から目線のサービスポリシーを感じますね。
とは言え、50年前の東京地下駅の開業をきっかけとして、国鉄の車両が大きく変わっていったことは事実でありまして、今では当たり前となっている数々の車両設備も、実はこの地下駅乗り入れを契機として、半世紀にわたって進化しているのであります。
東京地下駅が開業した1972年は鉄道百年の年でした。
そして今年は鉄道開通150周年。
日本の鉄道がお客様から愛され、さらに発展していくことを願ってやみません。
※本文中使用した写真は特にお断りしているものを除き、筆者撮影です。