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AV出演強要・リベンジポルノ等と関わり、女性を苦しめる無修正アダルトサイト。摘発を機に全容解明を 

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

■ 無修正アダルト・サイトの摘発

多くの女性の方々がスルーしたに違いないと思いますが、1月11日に、このようなニュースが流れました。

実は女性の深刻な性的被害に関連するので、注目に値するものと思います。

今週日本で撮影したわいせつな動画を台湾とアメリカを経由して配信していたとして、都内の映像制作会社の社長らが警視庁に逮捕されました。調べに対し社長は容疑を否認しているということです。

逮捕されたのは東京・練馬区の映像制作会社「ピエロ」の社長で、台湾出身の陳美娟容疑者(67)ら6人で、警視庁によりますと去年8月、わいせつな動画をネット上で配信し、頒布した疑いがもたれています。

警視庁は日本国内で撮影された無修正のわいせつな動画が台湾の会社を通じてアメリカの会社に販売され「カリビアンコム」というサイトで配信されていたとみています。

NHK首都圏ニュース

すこし詳しいところでは、以下のような情報もあります。

捜査本部は国際刑事警察機構(ICPO)を通じて米国と台湾に捜査協力を要請している。

カリビアンコムは4000タイトル以上を配信し、「無修正アダルト動画最大手」を掲げている。米国にサーバーコンピューターを設置しているが、日本人が出演する動画が多く、捜査本部はほかにもカリビアンコムに提供している国内の会社があるとみている。

産経新聞(Yahooニュース)

日本では「わいせつ」と判断され、モザイク等で隠す扱いがされている性行為の動画などが、海外からの配信であれば、全くモザイクもなく、そのまま配信されてしまう、出演者は日本人で言語も日本語、明らかに日本向けの配信、そうした無修正アダルトサイトの大手がカリビアンコムです。日本の刑法を脱法するために、あえて海外から配信する、という方法を取っているわけです。

ほかにも、こうした海外発の無修正アダルト・サイトがいくつもあり、実は被害(後述)にあって泣き寝入りしている女性たちがたくさんいます。

■ カリビアンコムとAV出演強要被害

私のもとには、AV出演強要をはじめ、AV関連のトラブルに関するご相談が多数寄せられていますが、そのうち少なくないご相談が無修正アダルトサイトに関するご相談です。

今年早々、AV出演強要について、 「AV出演強要「騙された私のギャラは1.5万円でした」」というタイトルで、私もまったく知らない事例についての記事が出されていました。

ママ・タレントにならないかと甘い言葉で勧誘され、「宣材(宣伝写真)撮影」と言われて連れて行かれた先は、AVの撮影。当然のことながら絶対に嫌なので拒絶しようとすると、違約金がかかるとすごまれ、長時間説得された挙句、出演を強要されたという被害が克明に紹介されていました。

結局、数時間に及ぶ恫喝と甘言の波状攻撃に、マリカはついにAV出演を受諾してしまった。3人の男性と計4時間にわたる性交を終え、手渡された封筒の中に入っていたのは、現金1万5千円。

悲劇はこれで終わりではなかった。マリカが出演したAVは海外発信の日本向けアダルトサイトから無修正で有料配信され、4時間の撮影分は2本のタイトルに分けられていた。Xに問いただしても「何も知らない、俺も騙された」の一点張り。(週刊ポストセブン)

実に許しがたい事案であり、被害者の方のことを考えると胸がつぶれそうな事案ですが、実はこれが全く典型的な事例なのです。

このようにして、AV出演強要の結果、海外無修正サイトから有料配信されている、という被害は後をたたないのです。

ヒューマンライツ・ナウが昨年3月に公表したAV出演に関する調査報告書のなかでも、以下のように指摘し、25ページの脚注でカリビアンコムについても名指しをして問題提起しています。

AV の無修正配信を行う多くウェブサイトが、無法状態のまま放置されている。

無修正動画 の販売停止を求めたい場合、メーカ又はサイト相手に交渉開始することになるが、無修正配信を行うメーカーは弱小であることが多いため大手のメーカーよりも特定が難航する。また、販売サイトは海外の運営会社しか公表していないことが多い。 

悪質な業者が関わっている場合、AV撮影した動画を二次利用、三次利用、転売していくことがあります。

そのため、本人には「ネットでは公開しない」「宿泊施設用」などと説得して無理やり出演させて、しばらくすると全く思いがけず無修正で大々的に配信されている、という被害もあります。

しかし、たいてい、関連する業者はみんな逃げてしまい、だれにも責任追及できない結果になります。

こうして、騙されたり強要された結果、無修正サイトでプライバシーを流され続け、どうやって回収してよいかもわからず苦しみ続けている人は少なくありません。

しかし、海外からの配信であるため、動画削除の交渉も大変難しいのが現状です。

実は私も残念ながら、なすすべなしで、「お力になれません」とお断りしたケースもあるのです。

カリビアンコムはこうした海外配信の無修正アダルトサイトの代表的なものなのです。

■ 盗撮・チャット・リベンジポルノ・・・海外アダルトサイトの被害はAV出演強要だけではない。

海外アダルトサイトは、カリビアンコムだけではありません。

ここで宣伝するつもりは一切ありませんので、具体的な名称は書きませんが、同種の「日本向け海外発」アダルトサイトはいくつも存在します。

日本の法規制を逃れ、「わいせつ」関連の犯罪での追及から逃れると同時に、被害女性たちからの削除要請や責任追及も難しくする点でまさに「やりたい放題」が可能なのがこうしたアダルトサイトの問題点であると思います。

コンプライアンスという意識が極めて希薄である、というのが、これまでに関わってきた経験からの、私の認識です。

例えば、リベンジポルノも、海外アダルトサイトから配信されているという事例が目立ちます。

明らかに素人ものとみられる動画の場合、弁護士をたてて『同意していない』『リベンジポルノである」として削除要請すると、削除される場合もあります(ですので、弁護士に相談するのは一案としてお勧めします)が、多くの人が弁護士をたてられるわけでもありません。

また、リベンジポルノ罪で立件するにあたっての捜査に対しても、海外サイト運営主体が協力的でなく、投稿者の照会にもなかなか回答せず、捜査が難航することがしばしばです。

証拠保全のために動画の削除要請もできないまま、被害者が不本意なまま捜査の推移を待ち続けざるを得ないこともあり、

リベンジポルノ法の迅速な適用・運用・被害救済が進んでいない

という現状があります。

それだけではありません。

たとえば、一回出来心で見知らぬ人とうっかり性行為をした、成り行きで一度だけ「援助交際」した、その内容がすべて盗撮されて、知らない間に海外アダルトサイトで配信される、ということが後を絶たないのです。

また、お小遣い稼ぎのために、ビデオ・チャットという方法で、男性と会話をし、服を脱ぐなどの踏み込んだサービスをした、などという動画も、実はすべてが知らない間に盗撮されて、海外アダルトサイトで配信される可能性があります。

海外無修正サイトに関連するビデオチャットに参加している女性のなかには、18歳未満の少女が(少年も)少なくなく、

事実上児童ポルノの温床になっているとの指摘が、海外メディアから問題視されたことがありますが、残念ながら、この問題をきちんと追いかけている日本のメディアの記事はまだみあたりません(ぜひ、がんばってください)。

そういう点では、どこに被害の落とし穴があるのかわかりません。

女性の方々には、本当に気をつけてほしいと思います。

■ 海外発・無修正サイトの全容解明を。

以上、私自身このような悪質事例の数々を紹介すること自体、とても不本意で不愉快なのですが、これが日本で起きている現実であり、被害は厳然として存在します。あなたの隣にも苦しんでいる人がいるかもしれません。

カリビアンコムと、関連する米国企業グループ、そしてここに配信している国内メーカー、そこに女優を派遣しているプロダクションの全容は未だ謎に包まれています。

もちろん自ら望んで出演している人もいるでしょう。

しかし一番の問題は、自ら望んでいないのに無修正配信をされて苦しんでいる女性たちがいる、ということだと思います。

今後の捜査を通じて実態解明が進み、国内からの配信のルートが透明化され、苦しんでいる女性たちの被害救済につながることを期待したいと思います。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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