3件だけではない「元徴用工裁判」 最高裁で9件、地裁で20数件が係争中 原告人は約1千人!
元徴用工らが日本企業を訴えた賠償請求訴訟で2018年10月30日に韓国大法院(最高裁)が日本製鉄(旧新日鉄住金)の上告を棄却し、原告への賠償支払いを命じてから丸2年が経った。
徴用工への「賠償」は1965年の日韓協定で解決済との立場に立つ日本企業は韓国の最高裁判決は「日韓条約にも、国際法にも反する」として支払いを拒否。このため韓国の裁判所は日本企業の韓国内資産を差し押さえ、現在現金化への法的手続きを取っているが、現金化されれば、日本の報復、それに対する韓国の対抗措置は必至で、日韓関係は破局を招くことになる。
(参考資料:日本企業資産「現金化」時の日本の報復措置への韓国の対抗措置「プランB」)
最悪の事態を防ぐために外務省の滝崎アジア大洋州局長がソウルに乗り込み、会談パートナーの金丁漢アジア太平洋局長に絶対に現金化しないように強く迫ったようだが、金局長は「大法院の判決を尊重せざるを得ない」との立場を崩さなかったようだ。
日韓局長級協議では日本は韓国に対して日本が納得できる解決策を、韓国は韓国で日本政府と企業が問題解決のために誠意ある態度を求めたとのことだが、日本が納得できる「解決策」と韓国が納得できる「誠意ある態度」の折り合いをつけるのは容易なことではない。
現在、韓国の裁判所から支払いを命じられている日本企業は日本製鉄、三菱重工、富山の機械メーカー不二越の3件である。日本製鉄は元徴用工4人から、三菱重工は元徴用工6人から、そして不二越も元徴用工及び遺族ら23人から訴えられ、一人当たり1億ウォン前後の支払いを命じられている。
日本製鉄は韓国内の合弁法人「PNR」の株を、三菱重工は韓国内の特許権(2件)と商標権(6件)を、不二越も韓国内の関連会社の株を差し押さえられている。差し押さえられた資産金額は3社だけで延べ52億7千万ウォン(約5億7400万円)に上る。
ところが、最高裁で判決が確定したこの3件の他に徴用工問題では現在、9件が最高裁に係争中で、20数件がソウルや光州地裁で係争中にある。3件だけの問題ではないのである。
韓国の国務総理室が把握している訴訟中の原告団だけで約990人に上る。今年5月に政界を引退するまで徴用工問題の解決に奔走していた文喜相前国会議長は「損害賠償支給額は最小でも3千億ウォン(約320億円)が必要」と推定していた。日本が2015年11月の日韓慰安婦合意で韓国の支援財団「和解・癒し財団」に拠出した支援額10億円の32倍にあたる。
仮に全ての裁判で全面勝訴し、日本企業から補償を手にすることができれば、元徴用工予備軍及びその被害者らの訴訟は後を絶たないだろう。実際に韓国のTV「JTBC」は昨年10月に大手建設会社の熊谷組と西松建設に対しても「訴訟の動きが出ている」と伝えていた。
韓国は日韓国交交渉当時、一般請求権小委員会で徴用工66万7684人と見積もり、死亡者に対して一人当たり1650ドル、負傷者に対して一人当たり2000ドル、生存者に対して一人当たり200ドルを要求していた。ちなみに1965年当時の一人当たり国民所得は100ドルだった。
日韓交渉は最終的に3億ドルの無償資金と2億ドルの有償借款、それに民間ベースで3億ドルの商業借款供与で妥結し、韓国政府は日韓協定から6年後の1971年に被害者への補償を行ったが、対象は「1945年8月以前に死亡した者」の遺族に限られていた。
韓国はその後、34年経った2005年に当時の盧武鉉政権が官民共同の対策検討委員会を発足させて日韓基本条約締結までの外交文書を再検討した結果、日韓協定資金に「強制動員の被害者補償問題の解決金などが包括的に勘案される」と結論付け、行政安全部傘下に「日帝強制被害者支援財団」を設立し、日韓請求権で恩恵を受けた企業(ポスコや韓国電力公社、道路公社)などが拠出した基金で7万2631人に対して追加支援を行ったが、当時被害が認定された被害者は21万8639人に達していた。
元徴用工らが裁判を起こす目的が単に金銭補償だけでなく、日本政府の「責任認定」と「誠意ある謝罪」を取り付けることにあるだけにこじれにこじれた現状下では文在寅政権は日本が納得できるような「解決策」を一方的に示すことはおそらくできないであろう。