「家売るオンナ」:発達障害者?が語る愛と真実と感動
とても好評だった「家売るオンナ」。その魅力に迫ります。変わり者だからこそ、真実が語れる?
■テレビドラマ「家売るオンナ」好評のうちに最終回
最終回が最高視聴率でした。それだけ、視聴者から支持されたドラマでした。最終回放送後のツイッターでは、ドラマへの賛辞や続編を望む声に溢れていました。主演の北川景子さんも、ドラマが終わることが寂しいと語っていました。
上記のニュースも、ヤフートップ記事として紹介されています。
■主人公は変わり者(発達障害?)
北川景子さん演じる主人公三軒家万智(さんげんや・まち)は天才不動産屋。「私に売れない家はない」と、次々と家を売っていくドラマです。主人公は、かなりの変わり者。愛想がなく、ほとんど表情も変わらず、空気を読まず、ビシビシと後輩を鍛えます。そして、家を売るためには、何でもします。
彼女は、一家惨殺事件が起きた「事故物件」の家に一人暮らしです。殺人事件が起きたことなど、まったく気にしていないようです。結婚も望んでいるのですが、婚活パーティーなどに出てもまったくうまくいきません。そして、なぜ上手くいかないのか、自分では理解できません。
自分が変わり者として周囲から距離を置かれる理由が、わからないのです。昔なら「変わり者」ですが、今なら「発達障害」という診断がつくかもしれません。
■主人公は有能で誠実
普通の人なら当然できる人間関係が、彼女にはできません。普通の人なら当然わかる人の心が、彼女にはわかりません。
しかし、主人公三軒家万智は、とても有能で誠実です。家を売るためなら、手間を惜しみません。その家と、その家族を、見事にマッチングさせます。
社会人として、言葉はとても丁寧で、敬語も完璧です。ただし、お世辞はいいません。調子の良いことも言いません。だから、時に人を怒らせ不快にさせますが、最後は信頼を得ます。彼女は嘘をつかないのです。
人生を左右する何千万、何億の買い物をする客にとって、三軒家万智はとても信頼できる不動産屋です。
最初は、仕事はできるものの、ただの無愛想で厳しいだけの人に見えます。しかし、三軒家万智はただ家を売るだけではなく、客の家族を作り直します。人生を輝かせます。
彼女は、ただ「私の仕事は家を売ることです」と淡々というだけなのですが、自分の仕事が客の人生を左右することを自覚しています。最終回では、本社の意向に逆らってまで、客のために奮闘します。
三軒家万智の仕事ぶりは、周囲を感動させ、人々の心を変えていきます。
■主人公の心の傷と愛
実は、主人公はしばらくホームレスのような生活をしていた過去がありました。親を亡くし、助けてくれる人もなく、親の借金を背負い、家を失い公園で野宿生活をしていました。その時、三軒家万智は家の大切さを強く感じたのでしょう。
ドラマでは、全く描かれも語られもしないのですが、どん底生活から立ち直っていく時に、良い出会いはあったのだと思います。彼女は、自分の力で自立していきますが、それでも温かな愛を向けてくれた人はいたように思えます。
だからこそ、彼女は自分が傷ついた分、人の幸福を願っているように感じます。ただし、三軒家万智は優しい笑顔や言葉で人を癒すのではなく、彼女ができる不動産屋としての能力を最大限に生かして、周囲を幸せにしていきます。
偏屈者、変わり者の三軒家万智です。かなり強引なこともします。客も同僚も、最初は訳がわかりません。しかし、結局はみんなが彼女を信頼し、感謝し、愛を向けるのです。
■障害者が語る真実と感動
様々な物語に、障害者や変わり者が登場します。たとえば「裸の大将」(「裸の大将放浪記」)として有名な山下清。彼は、知的障害がある放浪の画家で、ドラマや映画の中では、全国を放浪します。
旅の先々で、様々な人に出会い、最初は馬鹿にもされるのですが、最後は彼の言葉と行動によって問題が解決され、みんなに愛され、有名な画家だともわかって、惜しまれながら去っていく。というパターンです。
落語に登場する「与太郎」も、現代的に見れば障害なのでしょうが、彼らは間抜けなことをするだけでなく、時に真実を見抜きます。
喜劇役者藤山寛美が、大阪新喜劇等で演じた「アホ役」も有名です。彼が演じる役は、知的障害がある丁稚(でっち)などが定番です。周囲は、賢く商売上手な人々で、彼は馬鹿にされます。しかし、みんながその賢さのゆえに、間違い悩み混乱する中で、彼の誠実さと正直さが光ります。
芝居の最後は、彼の想い込めた説教調のセリフで盛り上がります。観客は泣いて笑って感動しました。
私たちは、多くのことを考えます。考えすぎます。時に考慮しすぎ、空気を読みすぎます。そして保身を図ります。
ドラマに登場する変わり者、アホ、障害を持った主人公は、真実を語ります。まっすぐに生きています。
常に配慮が必要で、自粛、自主規制が求められる現代社会で、真実を語るためには、空気を読まない力も必要なのかもしれません。
「家売るオンナ」と同時期に放送されたドラマ「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子 」(主演:波瑠)も、主人公は普通の感情が持てないという発達障害がありました。でも、とても有能で、そして最後の部分では深い愛も持ち、自分の人生を力強く生きていきます。
今シーズンは、2つのドラマで主人公が発達障害的な人でした(ドラマの中で発達障害という言葉は出てきませんが)。
真実を語る、その力のその象徴が、かつては知的障害であり、現代は発達障害なのかもしれません。
「家売るオンナ」とても良いドラマでした。
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■現実は
ドラマや映画の中では、知的障害や発達障害、精神病などが、時に天使のように描かれることがあります。私も、障害者施設などで、そう感じることもあります。ただ、みんな同じではありません。障害者みんなが、清く貧しく美しくでもありません。
物語に登場する障害者は、とても善人で努力家で才能豊かです。でも、実際の障害者全員がそうではありません。
ただ、障害があって人よりできないことがあっても、十分に社会で活躍できるというのは、ドラマでも描かれている通りだと思います。
たとえば、発達障害があっても、努力とチャレンジを続け、周囲への愛を持って、自分が持つ長所を伸ばせば、きっと充実した人生を過ごせるでしょう。
愛と努力とチャレンジが大切なのは、障害者も健常者も同じですけれども。