「弾道ミサイルが重すぎて橋を渡れず」北朝鮮軍が危機感
北朝鮮国防省が、戦略的に重要とされる地域に架けられた橋梁の全面的な点検に乗り出しているという。有事に際し、弾道ミサイルなどの移動に支障が出かねないとの危機感からだ。
デイリーNKの北朝鮮内部情報筋によれば、「国防省は全国の主要な戦略地域にある老朽化した橋や、耐荷重の基準を満たしていない橋に対する安全点検を今月いっぱい実施し、2月中旬からは大々的な補修作業と再建築に入る予定」だという。
北朝鮮の交通インフラは劣悪だ。首都・平壌市内と高速道路の一部区間を除けば、道路は穴ぼこだらけであり、地方では未舗装が当たり前である。
また、政治的な成果を誇るため、安全性を無視して完工までの速さのみを優先する「速度戦」という悪弊に加え、資材の横流しなどによる手抜き工事が横行。工事中の橋が突如崩壊し、数百人の犠牲者を出したこともあった。
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そのような橋の上を、ミサイル搭載時に数十トンから100トンにもなるとされるTEL(移動式発射台)が、安心して渡れるはずもない。
実際、昨年9月から今年初めまでの一連のミサイル発射においても、橋梁の安全性のためにTELの移動経路が制限され、これが戦争準備において最大の弱点として評価されるに至ったという。
国防省は、補修で間に合わない部分については既存の橋の隣に軍事用の橋を架けることも視野に入れているというが、そうなれば経済制裁とコロナ鎖国で痛み切った北朝鮮経済は、さらなる重荷を抱えることになる。
また、仮に北朝鮮軍が橋の補修をやり切ったとしても、それだけでTELの行動範囲が大幅に増すということもなかろう。現状、中距離弾道ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)を積んだ超大型のTELが走り回れるのは、飛行場などきわめて限られたエリア内だとされる。
それでも、北朝鮮が自らの弱点を正面から見据え、改善に乗り出したのだとしたら、それは良くないニュースだ。北朝鮮は今後おそらく、軍事的な交通インフラの改善とともに、ミサイルとTELの小型化に務めるだろう。
北朝鮮の核兵器開発が徐々に明らかになった1980~90年代、同国が多種多様な核ミサイルを完成させ、潜水艦発射弾道ミサイルや極超音速ミサイル、多弾頭化されたICBMの配備までを視野に入れるようになるとは、ほとんど誰も予想していなかった。
現在のような朝鮮半島情勢の膠着があと20年も続けば、状況は確実に悪化するだろう。