[高校野球]2024年のデキゴト④上毛三山クリーンアップで健大高崎がセンバツ初優勝
第96回選抜高校野球大会を制したのは、健大高崎だった。春夏通じて初優勝、群馬県勢の決勝進出は1955年の桐生以来で、県勢としても春は初めての頂点だった。決勝で敗れた報徳学園(兵庫)は、2年続けての準優勝。これは32〜33年の明石中以来2度目で、いずれも兵庫県勢というのはなにか因縁めいている。
健大高崎は左腕・佐藤龍月が22回を無失点、150キロ超を連発した石垣元気が23回を7失点と、2年生の両輪が安定。打っては高山裕次郎、箱山遥人、森山竜之輔がクリーンアップ。名字にちなみ、赤城・妙義・榛名山の「上毛三山」になぞらえられていたものの、森山は決勝前まで14打数1安打と不振をきわめた。
「新チームになってから4タコ(4打数無安打)なんて初めてのことで、星稜(石川)との準決勝からバットを短く持ってみたら感触がよかったんです」
という森山。「楽しもうと吹っ切れていた」という決勝では、2点を先制された初回に同点2点打でようやくチームに貢献した。
「いつもよりホームベースから半足分離れて立ち、踏み込んで打つのが今朝丸(裕喜)君の速い球対策。初回は、絶対に初球から打つと決めていたんです。狙い通り、内にまっすぐがきてラッキーでした」
実は表の一塁守備で、「捕れる打球を捕れずに二塁打にしてしまい、ライトからの返球のカットに入るのを忘れるくらい頭が真っ白だったんです」。そのチョンボを帳消しにする適時打というわけだ。上毛三山クリーンアップは、高山が大会通じて18打数6安打3打点、箱山18打数8安打6打点、森山17打数2安打3打点。チーム20打点の5分の3を稼いだことになる。
ことに箱山は、腰の痛みがひどかった1、2回戦を除けば「体が徐々に動くようになってきた」(箱山)準々決勝以降は11打数7安打で、山梨学院との準々決勝は、3打数3安打3打点と止まらなかった。
昨秋の公式戦チーム打率では、出場校中トップの健大高崎。持ち前の走塁技術だけではなく、テーマとする「攻撃的機動破壊」の主軸が箱山だ。昨センバツでも2年生ながら四番・捕手として3打数2安打。守りもいい。二塁までの送球タイムは最速1秒80で、やはり走力を自慢とする山梨学院戦では、盗塁を許さなかった。健大高崎の捕手には長坂拳弥(阪神)、柘植世那(西武)、そして2学年上の清水叶人(広島)と、プロ野球に進んだOBが多いが、青栁博文監督は「箱山が歴代No.1捕手」と太鼓判を押す。
バット同様、話も止まらない。とにかく熱いのだ。
頭も技術もしっかりすれば、残るは心
「読書が好きです。たとえば頭も技術もしっかりと準備しているのになぜ勝てないかと考えたら、残るは心。だから人間学を学ぶために、修行僧の本を読みました。それによると人間は、追い込まれたときほど力を発揮する。野球でいえば、負けることは"死"じゃないですか。死にたくないと思えば、人間は力を発揮できると思うんです」
あるいは、昨秋の関東大会で敗れている山梨学院との準々決勝前夜。
「関東大会で負けたあと、全員が泣いている動画がユーチューブにアップされているんですが、グループLINEでそれをみんなに送りました。悔しさを忘れるな、と」
優勝に大貢献した石垣などは、こういうキャプテンシーを「ふだんはおもしろい先輩。でも、野球になったら人が変わります」と歓迎するが、その"熱さ"は最初から受け入れられたわけじゃない。箱山はいう。
「自分がキャプテンになってなにを変えたというわけではないですが、ミーティングのやり方だけはガラッと変えました。それまでは、たとえば私語を交わす人間がいたりしたのを、自分が話している間は自分の目を見てくれ、と強くいいました。目標を共通認識するには、それが当然でしょう」
その熱さとの温度差が、ときにギクシャク感を招いたこともあったのだろう。優勝後のお立ち台で箱山は、「もうキャプテンをやりたくない、野球もおもしろくない」と思ったこともあったと吐露した。だが、しかし。勝ち進むごとにチームは徐々に結束し、星稜との準決勝は、箱山の前を打つ髙山が逆転打、報徳学園との決勝は後ろを打つ森山が同点打。「上毛三山」は、最後にそろい踏みを果たした。
「このチームで日本一になれなければいつなるんだ、と全員が目標にしてきました」と話していた箱山。プロ志望届を提出しながら、10月のドラフトでは指名がなかったが、トヨタ自動車への入社が内定している。トヨタといえば、社会人野球の日本選手権で今年、最多タイに並ぶ7度目の優勝を果たした強豪。もう一度、日本一を獲りにいく。