連休明けに、やる気が出ない人へ【伊藤羊一倉重公太朗】第3回
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ビジネスマンにとって大事なことは、行動することだとよく言われます。しかし、「動くことが大事」と頭でわかっていても、「どう動いていいかわからない」という人も多いのではないでしょうか。直感に従うといっても、「この直感が正しいのか」という迷いが生じて、なかなか動けない人もいるかもしれません。大学で次世代のリーダーを育成している伊藤羊一さんに、「一歩踏み出すために必要なこと」を伺いました。
<ポイント>
・ちょっとした興味関心に従って動いてみる
・アントレプレナーシップを持つにはどうしたらいいのか?
・Connecting the dotsを信じて行動する
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■やってみないと、やりたいことは見えない
倉重:「お金も大事だし」「これは時間を取られるな」といろいろ考えると、直感を邪魔しますよね。
伊藤:迷いが生じるのは分かります。分からないのを避けるためにどうしたらいいのかと言いますと、身もふたもないのですが行動するしかありません。やってみて「これはダメだな」という仕事は辞めるようになってきます。
倉重:と言いますと?
伊藤:いろいろと動いていると、「こういうことはやりたいけれど、こういうことはやりたくないのだ」ということが見えてくるわけです。「やりたいことは、やってみないと分からない」というと禅問答みたいになりますが。
倉重:それはありますね。会社の中で無茶な経験は積みづらい世の中で、若い人はどのように経験をしたらいいでしょうか?
伊藤:いろいろな経験を積むのは大事だと思っています。めちゃくちゃ負担を増やすというよりも、会社の中でもプロボノのプロジェクトはたくさんあると思うのです。例えば朝礼の幹事とか。
倉重:そういうレベルでいいのですね。
伊藤:あとは「NPOに入ってプロボノで何かやりませんか」という機会はあると思います。何かのサポートをしませんかという話はいくらでもありますし、自分が「これはいいかもしれない」というセミナーに行って、さまざまな人と話してみるのもいいでしょう。
自分の殻に閉じこもらずアクティブにいろいろ動いてみると、実はチャンスはたくさんあるのです。わたしの友人でも、仲の良いグループと一緒に動画や写真の撮影を始めたら、コロナで依頼が増えて普通に商売になったと言っていました。
倉重:何がきっかけで儲かるようになるのかは分からないですからね。
伊藤:ちょっとした興味関心に従って動いてみるということですね。
倉重:確かに。きょうのこの対談も、もともとは何かのパーティーに呼ばれて行ったら澤さんがいて名刺交換をして「対談しましょう」とお願しました。その後澤さんと飲んでいるときに伊藤さんを紹介してもらったので、パーティーに行かなかったらきょうはないなと思います。
伊藤:わたしが澤さんと知り合ったのもパーティーで、「ずいぶん派手な人がいるな。これがメディアで見る澤さんだ」と思って声をかけたのです。
倉重:やはり一歩踏み出さないと何も始まらないということですね。
伊藤:ほんの少しのことでいいのでやってみることを習慣にするといいと思います。
倉重:セミナーや交流会に行ってみるということですね。
伊藤:行ってみるのは誰でもできるので、質問もするといいでしょう。質問してその後声を掛けに行く、隣の人としゃべってみることが気軽にできるといいと思います。そうすると相手も「おっ、いいじゃないか」という印象を抱きますから。
倉重:本の中で一番いいなと思ったのは、「あなたがいる場所は血豆をつぶすほど働かなくても生きて行ける甘い世界ではないですか?」という文章です。プロのギタリストは血豆をつぶすほど練習していますよね。
伊藤:わたしはよく言うのですが、ギタリストの運指の練習は血豆もできるし、つまらないのです。ピアノで言えばハノンをやらない人はいません。プロのゴルファーでも毎日練習場でアプローチの練習をしまくっているわけです。そういうことをしないでステージに上がる人はいないと思います。
倉重:「練習は8時間までです」とは誰も言いません。
伊藤:素振りをしないでバッターボックスに立つ人なんて誰もいないわけです。ビジネスの世界だけ「実践で覚えるのだ」と言っていきなり試合に出ますよね。それだと結果は出ませんし、鍛えることがかっこ悪いという感じがなくもありません。それで結果が出るのなら、逆に言うと、ちゃんと準備をすれば成果を出すのは楽な世界なんだということだと思います。
倉重:それは本当にプロである以上みんな同じことだと思います。アントレプレナーシップを持つにはどうしたらいいのでしょうか。
伊藤:習慣にするというのは大事だと思います。わたしたちが一番習慣にしているのは多分歯磨きではないでしょうか。「きょうこそ歯磨きするぞ」と決断することはありませんよね。
倉重:一大決心しないですよね。
伊藤:単にやることを決めているだけですし、大体の人が幼い頃、親に怒られるからと習慣にしているわけです。きっかけは人から言われたことでも、自分で決めたことでもいいので、とりあえず毎日何も考えずに続けていると習慣化していきます。
倉重:決意するのではなくて習慣化するということですね。確かにわたしもコロナになってから筋トレ始めました。最初は大変でしたが、今は週6で習慣になっています。何ごとにおいてもそれに気づけるかという話ですよね。
伊藤:人生は1回しかないのです。短いし、いきなり終わるかもしれません。スティーブ・ジョブズが言っているように、死というのはみんなが持っているし、直面していることです。いつか死ぬので、その死を意識するといいかもしれないですね。
倉重:最後判断するのは自分ですから。
伊藤:結局さぼっているのも自分だし、やるのも自分です。活躍したいと思うのなら、堂々巡りになりますがやるしかないと思います。
倉重:伊藤さんに2回電流が走って原動力が出てくるようになったのは、自分の社会的な意義が結びつくようになってからですか。
伊藤:そうですね。『1分で話せ』という本は、ちゃんと考えたり表現したりすることができなくて悶々とする人に向けて書いているのです。もっと言いますと、悶々としていたあのころの自分に書いているのです。
倉重:あとがきに書いてありましたね。
伊藤:あのころの自分に書いたらそういう人が大勢いたということです。
倉重:まず思考のパターンを作るということでした。枠を作ってあげると考えられる人は結構いますから。
伊藤:本が売れたのはそういう意味でとてもありがたいです。初めて言い訳なく「わたしには社会的使命がある」と言えるようになったというか、言わなければいけない感じになったのは2018年に本を出したタイミングです。だからまだ4年ぐらいです。伊藤さんだからできるでしょうと言われますが、44歳くらいまでは普通に仕事をしていただけですから。
倉重:中内さんがかっこいいなと思っていただけなのですね。誰でも「あの人かっこいいな」というぐらいのうすぼんやりしたイメージはあるはずです。
伊藤:自分を見つめることによって、想いの原形みたいなものが浮かび上がるかもしれません。そこについている埃を落として、磨いてあげるといいのではないかと思います。
倉重:いいですね。今大学ではゼミもありますか。
伊藤:学部全体がゼミみたいなものなので、わたしのゼミはありません。
倉重:毎回最後に、これから働きに出る人やまだ働いて間もない人に向けたアドバイスをいただいているのですが、ゼミの最終講義のような感じでお話いただけますか。
伊藤:わたしは「自分の人生を生きようぜ」ということをよく言っています。「自分の人生を生きる」という言葉の意味をどのようにとらえるべきか、悶々と考え続けてほしいというのが1つです。
「自分の人生を生きる」ということは、言葉としては分かるのですが、一体どういうことなのか。自分はそれができているのだろうかということも悶々と考えてほしいと思います。
もう1つは先ほどから申し上げていることですが、ドットがたまらないとピンとこないのです。後からConnecting the dotsすることを信じて、無駄になるのか活きるのかは分からないけれども行動する。YouTubeを見たり、ゲームをしたりするのではなく、外に出て人と話すなり、旅をするなり、本を読んだり仕事をするなりでドットをためようというのが2つ目です。
3つ目はJust do it。きょうやるべきことをやりましょう。後からWillが出てきて自然とつながって出てくるので、とにかくドットをためることです。
倉重:今の日本の労働法は昭和のものでとても古いのでアップデートするべきだと思っているのですが、最初はやはり目の前の一件一件の裁判を徹夜で書面を書いていました。「今の制度は何かおかしくないか」という問題提起は、少しずつ出来上がっていった感じです。最初からいきなりあったわけではありません。
伊藤:社会がこんなに変わりつつある中で労働法を変えなければと思っても絶望を感じませんか?
倉重:労働法が「かわいそうな労働者を資本家から守ろう」という発想なのは、さすがに時代遅れすぎるだろうと思っています。
伊藤:でもそこは慣性の法則が働いているから、変わらない圧力もあると思います。
倉重:めちゃくちゃ強いですが、最近少しずつ変わってきています。今までであれば、解雇規制改革の「か」の字も出しただけで「ふざけるな」と総攻撃をくらっていたのですが、今はどうあるべきかという議論が厚労省でも始まっています。少しずつですが変わってきているのではないかと思います。
伊藤:高度成長期の大量生産の時代が終わって、その役割が中国や台湾になってからも、柔軟に雇用を考えられないというところは議論の余地はあるかもしれませんね。
倉重:当時の社会システムをそのまま引き継いでいるので、本当におっしゃるとおりです。最後に伊藤さんの夢をお伺いしたいと思います。
伊藤:いろいろあるのですが、最後の最後は世界中の人が笑顔でハッピーに暮らしているというのがビジョンなのです。それは大きすぎるので、ひとまず日本に限定して、「働く人を笑顔にする」ということをかなりリアルにやっていきたいと思っています。それは1人ではできないので、徒党を組んでやりたいと思います。きょうこの瞬間に倉重さんと話しているように仲間を増やして、あるとき一斉に日本人のハッピーのために立ち上がろうと思います。
そのときに何ができるかというと、例えば大学の学部をベースにシリコンバレーならぬ武蔵野バレーを作って、新しいイノベーションの種を集めます。学部を作るだけではなくて人が集まる場所を作るのはとてもやりたいことです。あとは政治の世界にも何とかして絡んでいかないといけないと思います。
倉重:わたしも事務所のホームページに「朗らかに働く人を増やしたい」と書いてあるのでまったく共感です。
伊藤:朗らかに働く人が増えるとその家族たちもみんな朗らかになるじゃないですか。日本全体が朗らかになるので、みんなでそれをやっていきたいです。
倉重:いいですね。労働法講義が必要なときはいつでも呼んでください。
(つづく)
対談協力:伊藤羊一(いとう・よういち)
Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長
Voicyパーソナリティ
株式会社フィラメントCIF(チーフ・イシュー・ファインダー)
株式会社ウェイウェイ 代表取締役
グロービス経営大学院 客員教授
日本興業銀行、プラスを経て2015年4月よりヤフー。現在Zアカデミア学長として次世代リーダー開発を行うほか社外でもリーダー開発を行う。2021年4月武蔵野大学アントレプレナーシップ学部を開設、学部長就任。代表著作「1分で話せ」。