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<マッチレビュー>関門海峡ダービー レノファが4得点快勝 熱戦を制す

上田真之介ライター/エディター
競り合う高宇洋と佐藤颯汰=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 レノファ山口FCとギラヴァンツ北九州が対戦したJ2リーグ第39節の一戦、いわゆる「関門海峡ダービー」は12月6日、山口市の維新みらいふスタジアム(みらスタ)で行われ、高井和馬の2ゴール1アシストの活躍などでレノファが4-1で勝利した。連敗も7で止めている。ダービーの対戦成績はレノファの3勝1敗。ギラヴァンツは先制点こそ手にしたものの追加点を決めきれず、2連敗となった。J2リーグ戦の順位はレノファが22位、ギラヴァンツは5位で変わっていない。

明治安田生命J2リーグ第39節◇レノファ山口FC 4-1 ギラヴァンツ北九州【得点者】山口=高井和馬(前半28分、同36分)、イウリ(後半13分、同38分) 北九州=新垣貴之(前半27分)【入場者数】5072人【会場】維新みらいふスタジアム

 レノファは前節からセンターラインを中心にメンバーを4人変更。GKではガンバ大阪から期限付き移籍で加入している林瑞輝が初先発した。また佐藤健太郎を先発させ、高宇洋とのダブルボランチで臨んだ。ギラヴァンツはFWでは鈴木国友とディサロ燦シルヴァーノがスタメン出場し、ボランチはベテランの加藤弘堅と夏に加入した針谷岳晃の組み合わせとした。(前節のスタメンと展開予想はプレビューで述べた

両チームのスタメン。レノファはインサイドハーフを1枚に変更した
両チームのスタメン。レノファはインサイドハーフを1枚に変更した
ギラヴァンツサポーターも集まり、ダービーにふさわしい雰囲気に包まれた
ギラヴァンツサポーターも集まり、ダービーにふさわしい雰囲気に包まれた

 新型コロナウイルス感染予防のため満席というわけにはいかなかったが、みらスタには5千人以上が来場。応援の太鼓が鳴り響き、ピッチには柔らかな日差しが降り注ぐ、「サッカー日和」(霜田正浩監督/レノファ)の中、家本政明主審の笛で試合はスタートした。

 戦前から1対1の攻防が激しくなると予想され、その読み通りに序盤から双方の守備がはまる。すなわち、レノファは前線からの厳しいプレスを実践。ギラヴァンツのセンターバックやボランチに対してイウリと池上丈二がアプローチして精度を下げさせ、ハーフウェーラインよりも前でボールを奪うことに成功する。

空中戦で競るイウリ(左)と生駒仁
空中戦で競るイウリ(左)と生駒仁

 ギラヴァンツも守備強度は高く、レノファが攻撃する局面になると、イウリに対して生駒仁がぴったりとマークしてターゲットを無力化。レノファにセットプレーは何度も与えてしまうが、CKでも高さには強度で対抗した。

 もっとも、互いの守備が狙い通りにできているということは、それは互いの攻撃が失速しているという意味でもある。レノファは前線でボールを奪いながらも次の一手を出せず、池上丈二が深い位置でボールをさばいて高井や森晃太へとつなぐ場面もあったが、決定機は作れなかった。それでも状況がよりクリティカルなのはギラヴァンツのほうだった。プレッシャーを跳ね返せず、自陣での縦パスでミスが散発。安易にクリアしないスタイルはギラヴァンツらしいが、ミスが続いたことで、レノファの攻撃を受け続けてしまう。

ゴールは一瞬の隙から

 前半22分台に入った飲水タイムのあとも、形勢は変わらなかった。ただ、試合が動いたのは、一瞬の隙だった。

新垣貴之(中央)は前後半ともに縦への突破が目立った(写真は後半)
新垣貴之(中央)は前後半ともに縦への突破が目立った(写真は後半)

 前半27分。ギラヴァンツはDF陣の間でのパス回しから、生駒が前方へと大きく展開。生駒が蹴り出すと同時に、新垣貴之がスプリントを仕掛けて最終ラインを突破する。2節前の岡山戦でも縦パスを引き出してゴールを挙げていた新垣は、この試合でも鋭敏な動きでロングボールを収め、その流れのままゴールネットを揺らした。

 「相手のミスもあると思うが、裏に抜けた時点で決めなければいけないというところだった。(生駒)仁も背後に蹴るのは練習していて、合わせやすかった」(新垣)

 このゴールで流れがギラヴァンツへと大きく傾いていく可能性もあった。だが、すぐに思わぬ形から再び得点が動いた。

 「先に点を取られても絶対に下を向くな」(霜田監督)という厳命を受けていたレノファイレブンは守備強度を保ったままリスタートする。そして、ギラヴァンツが先制してからわずか1分後。GK永井堅梧へのバックパスにイウリが猛烈な勢いでプレスを掛け、パスミスを誘引。ルーズになったボールを高井がペナルティーアーク付近で拾い、左隅へたたき込んだ。

落ち着いてゴールを決める高井和馬
落ち着いてゴールを決める高井和馬

 なおもレノファはコンパクトな陣形のままプレッシャーを掛け続け、ギラヴァンツ陣内でゲームを動かす。前半36分にはギラヴァンツの中盤でのポゼッションを高井が遮断し、イウリとのワンツーからペナルティーエリアに侵入。GKとの1対1を落ち着いて決め、逆転に成功する。

 前半を2-1としてハーフタイムに入った。

後半の立ち上がりはギラヴァンツペース

 後半のスタートで、ギラヴァンツは國分伸太郎と佐藤颯汰を投入する。レノファに対策されていたボランチの変更と、今季初出場となる佐藤颯の起用で押し込まれていた状況の打破を狙った。

 もっとも、最前線のディサロにはレノファのセンターバックがマークし、自由に動くのは難しかった。もしディサロが自由に動けていたなら、ロングボールでディサロに預け、セカンドボールを佐藤颯に狙わせるという攻撃も選択できたが、チームスタイルとも異なるこの形は選択せず、フレッシュな顔ぶれを生かし、ショートパスを使って左サイドから好機を作る。

 ただ、新垣のセンタリングに佐藤颯が合わせた後半3分のシーンはゴールとはならず、同8分にも左から永田拓也が上げるものの、ディサロのヘディングシュートはクロスバーに嫌われてしまう。

戦況を見つめる両指揮官
戦況を見つめる両指揮官

 レノファから見れば佐藤颯や新垣にハイラインの裏を突かれ、後半の立ち上がりは防戦一方。それでも数分おきに浴びるシュートを体を張ってしのぐと、同14分、ギラヴァンツの攻撃を跳ね返し、自陣から高井が長い縦パスを供給する。これに反応したイウリがGKの位置を見てループシュートを放ち、追加点をつかみ取った。

 ギラヴァンツが前掛かりになっている中、1時間前に浴びた先制シーンを、黄色からオレンジに変えて焼き直したような鮮やかなゴールシーン。いつ失点してもおかしくないような時間帯でカウンターを決め、「2-1は怖い点差だったが、チームに落ち着きを与えることができた」(イウリ)と大きな意味を持つ一撃となった。

 主導権がギラヴァンツにある時間帯で生まれたレノファのゴール。ギラヴァンツにとっては痛い失点だった。

 「押し込んだ状態にすると(レノファの陣形が)6バックになる。そこが勝負になるということで、いい入りができ、チャンスは作れたと思うが、カウンターで3点目をやられてしまった」(小林伸二監督)

 ギラヴァンツはなおも丁寧なビルドアップからチャンスを作ろうと試みるが、疲労が積み重なる5連戦の5試合目で、徐々にスペースが空いてくるようになる。

イウリが後半に2得点。試合を決定付ける
イウリが後半に2得点。試合を決定付ける

 後半38分にはレノファが試合を決定付ける4点目を奪取する。ここでもキープレーヤーになったのは高井だった。高井は自陣で縦パスを収めると、巧みなステップで相手DFと入れ替わって後背を突き、ドリブルで突破。約50メートルを駆け上がって、スルーパスを出し、田中パウロ淳一を経て再びイウリがゴールネットを揺らした。

 4-1。3点を追うギラヴァンツに次の矢を放つ時間は残っておらず、関門海峡ダービーの4戦目はレノファの快勝で幕を閉じた。

「6対6」に勝因と敗因

 レノファは最近の試合ではインサイドハーフに2選手を並べ、相手ボランチやセンターバックに強めのプレスを仕掛けていたが、その役割を1枚のインサイドハーフと1枚のセンターFWに変更した。

 これはギラヴァンツに合わせた判断と言えるだろう。ギラヴァンツのボランチは同じタイプの選手が横に並ぶのではなく、いわばバランサーとパサーの構成で縦関係になりやすい。プレスを掛ける側もあえて縦関係にし、イウリにはより前掛かりにプレッシャーに行かせ、池上にはパサーの選択肢を削らせた。この策は明らかに奏功し、相手にパスミスを起こさせた。

 また、最終ラインとボランチは6枚でブロックを構築。霜田監督は「相手が攻撃になると6枚を前線に張り付けてくる。4バックだけでスライドするのは厳しく、ダブルボランチにして人数をそろえ、6対6の状況にした」と話し、ギラヴァンツの分厚い攻撃にほとんどマンツーマンで対抗した。上述の通りこの6対6をギラヴァンツの小林監督も勝負のポイントとしていたが、この日のギラヴァンツはこじ開けるだけの精度を出せなかった。

 レノファの直接の勝因は4点という大量得点を手にしたことだが、スカウティングがはまり、前線での守備と最終局面での守備がそれぞれ機能したという点も白星に貢献した。今節は失点しても大崩れせず、すぐに取り返し、さらに追加点まで取ったのも、『レノファ戦のセーフティーリードは何点なんだ?』という議論があった頃を彷彿(ほうふつ)させるレノファらしさを感じさせた。

 試合後、霜田監督は「レノファらしく前向きに、相手ゴールに矢印を向けた気持ちの伝わるようなゲームをやりたい」と残り3試合も善戦を誓い、先発したGK林は「サポーターのみなさんが笑顔で帰れるように、チャンスをもらえればまた全力でプレーしたい」と話している。

 一方、ギラヴァンツの敗因はやはり2戦連続で4失点を喫した部分にある。試合を通してボールを握っていたのはギラヴァンツで、押し込んでいる時間帯も長かった。むろん押し込んでいる分だけ背後にスペースはできていたが、それも覚悟した上での積極性のある攻撃だ。ただ、相手に前向きにボールを奪われてしまい、その勢いのままにゴールまで持ち込まれた。

 端的に個の力にやられたという言い方もできる。ボールを持ってもなお加速度的にスピードを出せる高井の巧みさが上回ったのは間違いのないところ。それでもギラヴァンツは前節の徳島戦でも、ボールを持っていながら、渡井理己の推進力に対して後手に回っている。修正は必要だ。

 培ってきた連係で確かにボールは動かせるが、フィニッシュに持ち込むための泥臭さや、カウンターを想定した守備陣の備えもレベルを上げなければ勝ち点を拾うのは難しい。小林監督は試合後、「テンポのいいサッカーはできると思うが、もう一度リカバリーし、たくましいチームに変わるということを見せる。そういう準備を1週間、やっていきたい」と力を込めた。

練習試合を含む関門海峡ダービーの記録
練習試合を含む関門海峡ダービーの記録

サッカー日和の熱戦、来季も

 スコアは大味な内容を思わせるが、実際のゲームは球際の攻防が激しい熱戦になり、練習試合の多さから手の内をよく知る指揮官同士が、それでもなお多彩にカードを繰り出して戦術面でも正面からぶつかるバトルとなった。

 関門海峡ダービーは来年も行われる。来年もきっと白黒ははっきりし、どちらかは笑顔を浮かべ、どちらかは悔しい思いを抱いて帰途につくはずだ。しかし、力を出し切って得られる結果は、勝っても負けてもすがすがしいもの。来年の健闘を誓うサッカー日和の熱戦になった。

 J2リーグは残り3試合。レノファは12月13日に敵地で大宮アルディージャと対戦し、同16日と同20日がホーム戦。それぞれアルビレックス新潟、モンテディオ山形と対戦する。ギラヴァンツは12月13日と16日がホーム戦で、ジュビロ磐田とモンテディオ山形をミクスタ(北九州市小倉北区)に迎える。最終戦は敵地でのジェフユナイテッド千葉戦。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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