<プレビュー>熱戦必至の関門海峡ダービー 組織攻撃の全面対決へ 過去の戦績も
12月6日午後2時から、維新みらいふスタジアム(みらスタ、山口市)でレノファ山口FCとギラヴァンツ北九州のダービーマッチが行われる。いわゆる「関門海峡ダービー」と呼ばれるもので、みらスタでの開催は4年ぶり。今年はコロナ禍のため応援合戦というわけにはいかないが、ピッチ上ではダービーらしいゲームになることを期待したい。
公式戦では過去に3度対戦
Jリーグ戦での対戦は過去に3度しかなく、他のダービーに比べれば歴史は浅いが、練習試合では何度も対戦してきた。過去の対戦は図の通りで、レノファのメンバーが中心となっていた山口国体選抜の試合もリストに含めた。
その国体選抜とギラヴァンツの試合は2011年2月に乃木浜総合公園(下関市)で行われ、序盤は国体選抜にもチャンスはあったが、ギラヴァンツが佐野裕哉を入れると流れが一変。最終的にギラヴァンツが2-0で勝っている。
ところで、いきなり話が逸れるが、主練習場としている県立おのだサッカー交流公園(山口県山陽小野田市)と新門司球技場(北九州市門司区)は直線距離でわずか17キロ。間には関門海峡と言うよりは「周防灘」と呼ばれる海域が広がり、両チームともに練習場は海に近い。ギラヴァンツのクラブハウスがある新門司マリーナからはレノファの練習場そばにある建物を目視できるという近さだ。鉄道や車では遠回りになるが、もしチームバスならぬチーム船があったなら、30分ほどで往来できるだろう。
過密日程となった今年もこの近さを生かして練習試合を編成。レノファは右のアタッカーの森晃太、高校2年生ながら今年8月にトップチーム昇格を果たした河野孝汰などが得点に絡んでいる。
2016年はレノファが2戦2勝
公式戦での過去3試合を振り返ると、2016年3月に本城陸上競技場(北九州市八幡西区)で初対戦。レノファは岸田和人がギラヴァンツの4バックの背後に繰り返しスプリントし、このうちの1本をゴールに結びつけた。1-0でレノファが勝利し、北九州市出身でレノファのゲームキャプテンを担った島屋八徳が「関門海峡ダービーフラッグ」を受け取った。これがレノファのJ2初勝利にもなっている。
2度目の対戦は同年7月に維新みらいふスタジアム(当時はネーミングライツ導入前で正式名称と同じ「維新百年記念公園陸上競技場」と呼称していた)で行われた。当時のレノファは今年のギラヴァンツと同じように連動性が高く、庄司悦大がタクトを振ってボールを展開。湧き上がるように選手が前線に飛び出し、中山仁斗がハットトリックを挙げるなどチームで計5得点を決めている。
対するギラヴァンツも石神直哉がCKを直接しずめたが、反撃は1点にとどまった。
今年は再び同じカテゴリーになり、ダービーが再開。ただ、従来のスケジュールでは第2節で対戦する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦が中断。日程も変更され、7月25日に応援席を限定した超厳戒態勢の中で3度目の対戦が組まれた。
この試合ではギラヴァンツが優位にゲームを進める。先制点は前半28分で、椿直起のドリブルで左サイドを突くと、椿のクロスを高橋大悟が逆サイドで受け、左足鋭くゴールへと振り抜いた。後半37分には加藤弘堅の縦パスからスピーディーに組み立て、ディサロ燦シルヴァーノがゴールを奪取。守ってもGK永井堅梧がファインセーブでチームを救い、2-0でギラヴァンツが勝利を手にしている。ギラヴァンツは「関門海峡ダービー」での勝利を境にその後も勝利を量産。破竹の9連勝を達成した。
なお、先制点の椿は12月5日、メルボルン・シティFCへの移籍を発表。それでもギラヴァンツの戦力が落ちたとは言えず、椿がプレーした左のサイドハーフでは新垣貴之が台頭し、2節前の岡山戦では縦への突破からゴールを挙げている。「相手の嫌な位置に仕掛けようと思っていた。仕掛けても相手がそれほど来ていなかったので、ゴールしか見ていなかった」。そう話す推進力のあるアタッカーが今節もギラヴァンツの攻撃を勢いづけそうだ。
「個のバトル」と「組織攻撃」
過去の試合を見れば得点が動きやすいカードと言えるが、まずはボールの奪い合いになる。高宇洋(レノファ)は「1対1のバトルや細かいところに対してアプローチできれば、良い形で奪える」と話す。球際の攻防で勝つことが攻撃の優先権を得るには重要だ。
そうしてボールを奪ったら、レノファも、ギラヴァンツもそれぞれボールをつなぎ、幅を使ってチャンスを広げていく。基本的な考え方は似ているが、4-3-3をベースとするレノファと、4-4-2(4-4-1-1)を続けるギラヴァンツでは前線での動かし方が異なり、アタッキングゾーンに入る顔ぶれも変わってくる。
例えばクロスを受ける選手に着目すると、レノファはセンターFWとファーサイドのウイングが受ける機会が多く、右から上げる場合は中央のイウリや左ウイングの高井和馬が連動してゴールを狙っている。
対するギラヴァンツはサイドバックも受け手になるというのが大きな特徴だ。第36節水戸ホーリーホック戦では、右サイドバックの藤原奏哉が相手最終ラインの外側からゴール前に侵入。左からのクロスをGKとファーポストの間で受けて、ヘディングシュートを放っている。藤原はレノファの育成組織の前身に当たるレオーネ山口出身で、凱旋試合での活躍を目指す。
また、双方のユーティリティープレーヤーにも注目しておきたい。一人ずつ名前を挙げるなら、ギラヴァンツは高橋大悟、レノファは田中陸だ。
高橋はJ1清水からギラヴァンツにレンタル中で、今やチームに不可欠の中心選手。サイドハーフでの出場が多かったが、今年の夏以降はボランチやトップ下でもプレーしている。
ドリブルをさせても、クロスを上げさせても、オープンスペースに走らせてもレベル高くこなす。トップ下で出た第37節岡山戦ではリンクマンとして存在感を示した。試合を「しっかり受けることなどは意識した。(ギラヴァンツの)ボランチは縦パスを入れられるので、FW、サイドハーフとしっかりつなげたと思う」と振り返り、トップ下でも役目を果たしている。
レノファの田中陸はサイドバック、ボランチ、トップ下などでプレーするユーティリティープレーヤー。柏からのレンタルでレノファに移籍し、8月半ば頃からコンスタントに試合に絡んでいる。田中は11月の共同取材で「サイドバックのほうが試合には出ていたので慣れはあるが、ずっとトップ下をやりたいと言ってきた。そこで勝負したいという気持ちはある」とトップ下でのプレーに強い意気込みを語っている。
背後への飛び出しやスプリントに特徴があるとはいえ、周りとのバランスを考えて動きを止めるという判断もできるクレバーな選手。どのような起用法になるかも含めて注目だ。
4度目のダービーも熱戦必至
両チームともに最近は勝ち星から遠ざかり、レノファは7連敗中。ギラヴァンツは4戦勝ちなしで、前節の徳島戦での黒星を受けて、今年のJ1昇格の可能性はなくなった。ただ、もはや目前に迫っているとも言える来シーズンに向けて、少しでも勝ち点を伸ばして今年を締めくくっておきたい。
シーズンは残り4試合。いずれのチームも2点目や3点目をどう取るかが課題になっているだけに、このタイミングで行われる「関門海峡ダービー」は、意地とプライドを懸けた熱戦になるはずだ。試合は6日午後2時キックオフ。それぞれの未来に向けて、負けられない戦いとなる。
※各選手の所属チームは当時のもの。選手名は敬称略。ギラヴァンツの高橋大悟選手の「高」は異体字(はしごだか)が登録名