「若者の音楽離れ」って言うな 「売れ方」にこそ注目せよ
「若者の音楽離れ」って言うな
苦手な言葉がある。「若者の◯◯離れ」という言葉だ。この手の言葉は、昭和の若者像を今どきの若者に押し付けている。特に「若者の音楽離れ」という言葉は最悪だ。実はそれは、「若者は新譜を発売と同時に購入して楽しんで当たり前」という行動パターンを強要しているように聞こえる。少なくとも私には。若者がいまほど音楽を楽しんでいる時代は、ないのではないか。
音楽の「楽しみ方」も「売れ方」も、変化し続けているのだ。特にアーティストごとに「売り方」「売れ方」も違うことを理解しなくてはならない。つまり、「CDが売れるアーティスト」「YouTubeの動画が人気で、それがTwitterで拡散しているアーティスト」「ライブの動員が多いアーティスト」というように、「売れ方」はアーティストによって違うのだ。
2016年に音楽シーンはどのように変化したのか。CDの売上だけではなく、レンタル数、ラジオの放送回数、Twitterで話題になった数、YouTubeなどの再生回数など、複合的な指標によるヒットチャート「JAPAN Hot100」を開発・運用するビルボードの礒崎誠二氏にお話を伺った。
改めてRADWIMPSとピコ太郎、星野源の何がスゴイのか?共通点とは「?
2016年12月8日、ビルボードは「JAPAN Hot100」の年間チャートを発表した。Billboard JAPAN HOT100 of the year 2016はAKB48「翼はいらない」だった。「やはりAKBは強い」で終わらせてはいけない。音楽チャートは多様化しているのだ。
礒崎氏は、2016年の大きなトピックスとしてRADWIMPSの「前前前世」とピコ太郎の「PPAP」、星野源の「恋」を挙げた。共通するのは、シングルカットされる前に、YouTubeなどの動画配信サイトとTwitterで拡散し話題になったという点だ。そう、「前前前世」「PPAP」はシングルカットすらされていなかったのだ。
特にRADWIMPSに関しては『君の名は。』との相乗効果も大きいと礒崎氏は見ている。結果として、同曲が収録されたサウンドトラックは30万枚以上という異例の枚数を叩き出し、まさに大ヒットと言っていいセールスだった。映画の大ヒットとともにRADWIMPSの起爆剤ともなり、ファン以外の人びとにもその存在を知らしめることになった。
ピコ太郎は、ダウンロードよりも前に、YouTubeの動画が海外で話題になった。9月27日にはジャスティン・ビーバーがTwitterで紹介し再生回数が一気に増えた。同日には、CNNやBBCもニュースで伝えている。ジャスティン・ビーバーによるリツイートは、ピコ太郎ブームを世界に起こす引き金になっただけではなく、日本もその波を受けることになったという、まさに逆輸入のような現象になったことも興味深い。
YouTubeとTwitterの関係といえば、星野源の「恋」のヒットもそうだ。大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ(通称:逃げ恥)』の主題歌となった上、「恋ダンス」がブレークした。著名な芸能人やアスリートをはじめ、一般ユーザーも「恋ダンス」をし、動画をアップすることがブームになった。
この3曲に共通するのは、YouTubeとTwitterの連携により拡散し、ヒットにつながったということである。これは新しいヒットの法則だ。ネットで拡散するがゆえに、音源の購買につながる。また、YouTubeで再生されるとアフィリエイトでチャンネル運営者に広告収入が入るのである。
ピコ太郎の「PPAP」と星野源の「恋」に関してはAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」やファレル・ウィリアムスの「Happy」同様に、「踊ってみた」的な投稿が多数あったのは大きなポイントだ。レコード会社は、このような創作動画のために音源の使用を許可しているのである。「本家」の再生回数だけでなく、このような創作動画のものも、広告収入として入るのだ。単純にYouTubeでMVを見るだけではなく、それに対してユーザーが反応し、「踊ってみた」動画をアップしTwitterで拡散するというように、ビデオストリーミングとソーシャルがつながることで、爆発的な話題とヒットという結果を生み出したのだと礒崎氏は指摘する。
このように、別にシングルカットされていなくてもヒット曲に成り得ること、YouTubeにアップしたMVが話題となり、Twitterで拡散することによりヒットと成り得ることを証明したといえるだろう。まさに新しい「売れ方」が誕生しているのであり、その「売れ方」もアーティスト次第なのである。
「売り方」「売れ方」はアーティストにより異なる そして「ジャニーズとネット」の行方
2016年の国民的ニュースと言えば、SMAPの解散騒動である。礒崎氏はネット上でのSMAPをめぐる話題や応援運動の盛り上がりも今年の大きなトピックスだと指摘する。
SMAPを解散させないために、ファンの気持ちを伝えるために「世界にひとつだけの花」を購買する運動が盛り上がりを見せた。結果として、実に13年前の曲なのにも関わらず、音源が売れ、チャートインした。
何かと話題になったジャニーズ事務所だが、今後、注目されるのは同事務所がネット戦略にどう取り組むのかである。現在、同事務所はネットでコンテンツを発信することに対して消極的である。所属タレントが表紙になった本に関しても、ネットでは画像を載せないようにしていることなどは有名だ。Twitterでタレントが情報発信するようなこともしていない。YouTubeにも公式MVはアップされていない。
ファンがYouTubeで楽しみ、Twitterで想いを伝え、拡散する時代に、この取り組みは逆行しているとも言える。CDとライブと関連グッズが売れているジャニーズだが、ネットに対する取り組みをいつからどう始めるのだろうか。それともこのままなのだろうか。仮にジャニーズがその「売り方」戦略を変化させると、音楽業界に革命が起こるかもしれない。引き続き注目したい。
もっとも、このような「売り方」「売れ方」はアーティストや事務所の意志、ポリシーによる部分も大きい。そのアーティストはどんな「売り方」「売れ方」をしているのかということを理解しなくてはならないのだ。
例えば、アルバム・チャートの1位は、復活した宇多田ヒカルだったが、メディアを絞り込んで露出する戦略が功を奏した。3代目J Soul Brothersも今年はシングルのリリースは控えめだったが、アルバムが売れている。2014年にレコード大賞を受賞した「R.Y.U.S.E.I」も売れ続けている。曲が長く売れるようになっているのも最近の特徴だ。
乃木坂46と欅坂46という、同じ「坂仲間」の売れ方も違う。乃木坂46の「サヨナラの意味」の方がセールスは上であったが、MV、動画再生数、Twitterにおいては、欅坂46の「サイレントマジョリティ」の方が高かったのだ。結果的に総合JAPAN HOT100では欅坂46が乃木坂46を上回った。今年デビューした新人の欅坂46の方が注目度が高かったことが考えられる。また、センターの平手友理奈さんに注目が集まったことも、欅坂46の「売れ方」を支えたであろう。
このように音楽の楽しみ方も売り方・売れ方も多様化している。単純に、シングルやアルバムの売上だけで見てはいけないのだ。若者たちは新しい音楽の楽しみ方を既に始めているのだ。「新譜を発売直後に買って楽しんでいる若者」だけを追っていては、音楽シーンの変化などわからないのだ。
「若者の音楽離れ」を連呼するのは、もうやめにしよう。これからの音楽の楽しみ方を考えよう。いや、もう勝手に楽しんでいるのだ。