Yahoo!ニュース

大学生が見た母子生活支援施設の七五三 ボランティアを通じて考える「おめでとう」の意味

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
母子生活支援施設で七五三を祝う。「イチゴイニシアチブ」がサポート(筆者撮影)

 ファッションのプロが児童養護施設の子どもの七五三を祝う「イチゴイニシアチブ(以下、イチゴと表記)」に、このほど大学生が加わった。母子生活支援施設と児童養護施設で活動した聖心女子大学の学生、狩谷侑里さんの視点からイチゴの活動の意義について考えた。

児童養護施設の子どもの七五三を祝う

 イチゴは10年ほど前から、ファッションのPR事業を手掛ける市ケ坪さゆりさんが中心となり、東京・神奈川の児童養護施設で七五三を祝う活動を続けてきた。美容師らがヘア・メーク・着付けを担い、カメラマンが晴れ姿を撮ってプリントし、アルバムに入れて贈る。その後、活動は静岡・大阪(京都)・富山に広がり、施設を巣立った若者の成人式も手掛けるなど、祝福のバリエーションを広げている。

女児の髪を結い上げるイチゴのメンバー
女児の髪を結い上げるイチゴのメンバー

 狩谷さんら学生が初めて参加したのは2021年11月20日。母子生活支援施設で9組19人の母子の七五三を祝った。着物のアイロンがけに始まり、ギフト包装も。イチゴは化粧品のサンプルやメーカーの余剰品を集めて寄付する「コスメドライブ」という活動も実施しており、袋詰めして参加した母親に贈った。

2021年秋、聖心女子大学の学生3人が母子生活支援施設でイチゴイニシアチブの活動に参加した
2021年秋、聖心女子大学の学生3人が母子生活支援施設でイチゴイニシアチブの活動に参加した

女児にメークを施す狩谷さん
女児にメークを施す狩谷さん

 学生は子どものメークや着付けも手伝った。目元を彩るラインストーンを、色や位置を子どもに相談しながら付けた。「メークされた自分の顔を鏡で見た子どもが照れながらも嬉しそうに『ありがとう』と言ってくれたことが嬉しく忘れられない出来事」と狩谷さん。女児の母親は海外にルーツを持ち、母子は丁寧な日本語で美容師や学生に感謝を伝えた。

 肌が敏感で、着たばかりの羽織袴を脱ぎたがる男児がいた。母親が視界から消えると、とたんに慌てて泣き出した。狩谷さんは「この子の身の上に、どういうことが起こったのだろう。ママと離れている間にどんな嫌なことがあったのだろうか」と思いを巡らせた。

母親のおしゃれは「後回し」

 写真撮影を終えた女児にピンク色の長靴を履かせている母親がいた。「かわいい靴、履いていますね」と筆者が声をかけると、「昨日、買ったんです」とのこと。母子支援員の1人はこう話す。

「お気に入りの長靴」にはイチゴの飾りが付いていた
「お気に入りの長靴」にはイチゴの飾りが付いていた

「お母さんたちは子どものことが優先で、おしゃれを考える時間が少ないのです。素敵なものを身に付けたいと思う気持ちを後回しにしてしまう傾向があります。七五三は子どものお祝いですが、お母さんの喜んでいる姿を見て、とても嬉しかったです」(母子支援員)

 袴の丈が短く見える男児がいた。すでに該当の年齢を過ぎていたが着物姿で七五三を祝う弟と並んで記念写真に収まった。男児と母親は暴力から逃れて家を離れたため、七五三の祝いが当時できなかったそうだ。着の身着のままで2児を連れて逃れてきた母親は、職員に借りたスーツを着て写真に収まった。背景を知った狩谷さんは次のように話した。

「母子がこの施設にたどり着くまでにどれだけ凄絶な状況をくぐり抜けてきたのか、私には想像することもできません。人を信用することができないこともあったのではないでしょうか。母子が安心して対人関係を築くことができるように、施設職員の方々が大きな愛情を持って母子と関わっていることが、ひしひしと感じられました」(狩谷さん)

イチゴのメンバーが後片付けする様子を見る学生
イチゴのメンバーが後片付けする様子を見る学生

 後になって狩谷さんに感想を聞くと、最も心に残ったのは掲示板の書道作品だったという。小学5年生男児2人が書いた毛筆の文字「家に帰る」が仲良く並んで掲示されていた。「どんな気持ちで書いたのだろうかと考えずにはいられなかった」と語った。

入所理由は「夫の暴力」が58.1%

 そもそも母親と子どもは、なぜ母子生活支援施設に入らねばならなかったのか? 4年に一度行われている「全国母子生活支援施設実態調査」の2021年6月に出された2020年度の報告書によると「夫の暴力」が58.1%と最も多く、「住宅事情」17.8%、「入所前の家庭環境の不適切」8.7%、「経済事情」7.5%と続く。「児童虐待」は年々、増加傾向にあり、ドメスティックバイオレンス(DV)などで緊急の保護を必要とするケースも少なくない。

母子生活支援施設へ新規入所した世帯の主たる入所理由の推移(『2020年度全国母子生活支援施設実態調査報告書』2021年6月発行)を基にYahoo!ニュースが作成
母子生活支援施設へ新規入所した世帯の主たる入所理由の推移(『2020年度全国母子生活支援施設実態調査報告書』2021年6月発行)を基にYahoo!ニュースが作成

 調査によれば「母子生活支援施設の退所決定の理由」は「経済的自立度が高まったので」17.0%、「公営住宅に当選」16.1%、「日常生活・身辺、精神的自立が高まったので」14.5%と続く。「復縁」は5.7%と少ない。自立の目処が立てば「家に帰る」のではなく、大半は「新たな生活」へと踏み出していく。

 施設は全国に212か所(2020年3月現在)ある。1996年には307だったので、四半世紀で100カ所近く減少している。「公設公営」及び「公設民営」が減少し、「民設民営」の施設がわずかに増えた。「着の身着のまま」で駆け込む先としてサテライト施設も含めた多くの場所が必要だと考えられるが、サテライトを実施しているのは全国で民間6施設のみ。母子生活支援施設の職員の離職率が高いことも課題であり、4年前と比較して8.6%から11.2%に増えている。処遇面を含めた労働環境の改善など、対策を進めている。

母子生活支援施設は「第二の実家」

 イチゴが交流している施設は1DKが12室、2DKが8室あり、図書学習室や頑丈な移動式門扉を備えた構造である。職員らは母子が約2年で自立できるように支援する。家庭的な雰囲気で、母子支援員は「職員と利用者の関係を超えて、大きな家族のような気持ちで過ごしてほしい」と話した。母子生活支援施設は児童養護施設ほど一般的にはその存在を知られていない。イチゴの活動を通じてメンバーや女子学生が訪問することの意義を次のように話す。

母子生活支援施設に入り口に飾られた手芸品
母子生活支援施設に入り口に飾られた手芸品

「母親が安心して生活できる場としてここを知ってもらいたいですが、パートナーからのDVや子どもへの暴力から逃れるためにここにいる方もいるので広報活動はできません。全国の施設はいずれも『知らせたいが隠したい』とやきもきしています。施設を退所した母子も含めて支援し、地域と連携して『第二の実家』の機能を果たす重要な場所であると知り、口コミで広く伝えてほしいと願っています」(母子支援員)

児童養護施設でも七五三を祝う

 母子生活支援施設を訪問した翌日、学生らは児童養護施設で1人の女児の七五三を祝った。当初、女児は緊張していたが、学生が同じ目線になるよう腰を落として接し、交流は和やかな雰囲気となった。

「母子生活支援施設では親子ともども晴れやかな顔でした。写真を撮っている間、私は涙がこぼれそうになってしまいました。『ママと一緒にいたい』という気持ちが伝わってきたからです。一方、児童養護施設の女の子は最初、緊張して肩に力が入っていました。でも、たくさんの髪飾りを見て顔がパッと明るくなりました。その表情の変化が印象的でした」(狩谷さん)

 前出の『2020年度全国母子生活支援施設実態調査』で「母子生活支援施設の退所決定の理由」を見ると、「子どもが他の施設に入所」というケースが4.1%ある。やむを得ず母子が別れる場合もあるのだろう。子どもの心の中を考えてみてほしい。危険を回避するためであったとしても、父子分離からの母子分離はショックの連続であり、絶望につながる。狩谷さんは母子や子どもの表情から、深く気持ちを読み取っていた。

リラックスして七五三の記念写真に収まる母と子
リラックスして七五三の記念写真に収まる母と子

 何らかの事情により生みの親と暮らしていない子どもは全国で約42,000人いる。そのうちの約25,000人が乳児院・児童養護施設におり、半数以上は虐待を受けた経験がある。

 狩谷さんら学生は子どもの表情から母子が抱える問題に気づき、掘り下げていった。「虐待はあってはならない。ただ、手を上げた親の方には、1人では解決できない問題があったのではないか」と話し、「困難を抱えた母親に寄り添うことで、子どもの安全・安心がもたらされる」と考えるようになった。

専門の教員が加わり事前学習

 イチゴのメンバーと学生は12月以降、意見交換を重ねた。話し合いの中で学生から①訪問前に学内の社会福祉学などを専門とする教員からレクチャーを受ける、②後輩に活動を継承していく、③着物や化粧品などの支援品を集める――などの意見が出された。これを受けて2022年度はイチゴの活動に備えて、教員による事前学習を導入している。

母子生活支援施設の窓の装飾。母子と職員の手作り
母子生活支援施設の窓の装飾。母子と職員の手作り

 大学側によると本来、法人化されていない団体との交流は実績が少ないそうだ。学生をボランティアに送り出すにあたり、受け入れ先がしっかりしているかどうかを入念に検討する。たまたま市ケ坪さんが大学へ立ち寄った時に活動について紹介したことで縁がつながり、交流が始まった。市ケ坪さんは七五三での学生の様子を振り返り、次のように話す。

「私たちは現場に入ると、プロだからこそ仕事に没頭してしまうのです。その間、学生さんは温かいまなざしで子どもを見つめ、微笑みかけてくれていました。子どもにとって心強かったと思います。若い感性と力に助けられ、10年間も活動してきた私たちの方が学ばせてもらいました」(市ケ坪さん)

個人の尊厳を守るため下着を贈る

 学生との協働が進められていく間、イチゴの新しい方向性を模索していた市ケ坪さんにも新たな気づきがあった。2022年冬から春にかけての新聞報道で児童相談所の職員の過酷な労働環境や、一時保護所では子どもたちの間食さえ十分にないこと、下着の使い回しがされていることなどを知った。

「(下着は)洗濯済みとのことでしたが、自分がはいたものを明日は誰かが、明日は私が誰かのはいたパンツをはく……、と思うと愕然としました。心と体を最も大切に扱われなくてはならない場所で、個人の尊厳がないがしろにされていいのかと思いました」(市ケ坪さん)

 すぐに児童福祉に関わるソーシャルワーカーらに現状を聞いて回った。児童養護施設では予算が確保され、新品の下着を購入していると知って安心したが、自立援助ホームで暮らした経験がある若い女性からは「下着なんて買えない。生地がすり切れ、色が抜け落ちてもずっとはいてる」と聞いた。生理用品も不十分で、月経の間はナプキンにトイレットペーパーを重ね、取り替える頻度を減らしているなど不衛生な実態が分かった。

「小さな布1枚のことですが、パンツは尊厳の象徴ではないでしょうか。大切にされる経験がはるかに少なかった彼女らが古びた下着で日々をしのぐことは、自身を大切にする気持ちを忘れてしまうのではないかと思ったのです。生(生きる)の尊厳も、性の尊厳も危うくなる気がします。だからイチゴの活動の一環として新品のパンツを集め始めました」(市ケ坪さん)

 ファッション業界のネットワークをたどり、複数のブランドから支援を得た。商品そのものを提供される場合もあれば、国際女性デーに合わせてキャンペーンを行い、下着に加えてマスクや靴下を児童養護施設から巣立つ若者へ贈った。

オーストラリア発のブランド「BOODY」 とのキャンペーンによって提供された下着(イチゴ提供)
オーストラリア発のブランド「BOODY」 とのキャンペーンによって提供された下着(イチゴ提供)

経済的な理由などで化粧品を手にできない人へ余剰品を届ける「コスメバンク」。母の日のギフトとして児童養護施設を巣立った若い女性や女性シェルターの利用者へ贈られた
経済的な理由などで化粧品を手にできない人へ余剰品を届ける「コスメバンク」。母の日のギフトとして児童養護施設を巣立った若い女性や女性シェルターの利用者へ贈られた

 イチゴのメンバーは母子生活支援施設で「私は、いいから子どもを」「子どものことで手いっぱい。私は後回し」という声を何度も聞いた。だからこそ市ケ坪さんは「子どもを守るために女性の尊厳を守ることを考え続けたい」と話す。当初、仕事仲間から試作品や余剰品を集めて贈っていた化粧品は、一般社団法人「バンクフォースマイルズ」とつながることで、より多くの品を得て首都圏だけでなく、静岡や富山など地方の各種施設へ届けられた。

支援のニーズを拾い上げる

 昨秋の七五三から半年間、イチゴの活動は大きな変化を遂げた。10年以上前、児童養護施設を訪ねて子どもの誕生日を祝い、そこから七五三、成人式と活動を広げてきた市ケ坪さんだったが、母子や女性の支援にも力を入れ、下着、衣服、化粧品、マスクなど生活に直結したものを贈っている。「ささやかなギフトを贈ることから、つながりを紡いでいきたい」という発想に傾いていった。

「これまで児童養護施設や乳児院を何度も訪ねてきましたが、聖心女子大学の学生と一緒に母子生活支援施設を訪ねたことで、また新たな社会課題が見えてきました。長年にわたってケアされてこなかった女性がいて、彼女らが重い荷物を背負わされています。学生は子どもや若い母親に近い世代だからこそ、か細い声を聞き逃さなかったように感じます。課題の吸着剤となって新たなニーズを拾い上げてくれました」(市ケ坪さん)

7月7日に一般社団法人を立ち上げ

 市ケ坪さんは7月7日、アパレルブランド「Shinzone(シンゾーン)」代表の染谷裕之さんを代表理事に迎え、一般社団法人「いちご言祝(ことほ)ぎの杜」を立ち上げた。ファッション界からの支援が追い風となり、決断した。「古びたパンツ」のような実態からニーズを拾い上げ、支援を「デザイン」することを法人化後の役割と考えている。

 一方でイチゴの原点である七五三や成人式を忘れてはいない。子どもを祝福する行事を「関係性の補完」と捉える。「『おめでとう』と子どもに関わるすべての大人が言い合い、つながっていけるようにオーガナイズしていきたい」と語った。

2年前、イチゴのオリジナルのジーンズを母子生活支援施設の職員らに贈った。製作した「Shinzone」の代表が法人化後の活動をバックアップする(イチゴ提供)
2年前、イチゴのオリジナルのジーンズを母子生活支援施設の職員らに贈った。製作した「Shinzone」の代表が法人化後の活動をバックアップする(イチゴ提供)

母子生活支援施設での七五三の様子
母子生活支援施設での七五三の様子

 古参のメンバーは今、着物を手入れし、髪飾りを手作りして今年11月の七五三シーズンに備えている。「2年前の七五三で会ったあの子の成長した姿を見たい」と心待ちにしながら……。イチゴはこれからも、子どもや若者の晴れ姿を演出するファッションのプロフェッショナルたちの集まりであり、活動を通じて埋もれた社会課題を拾い上げていく。

※クレジットのない写真は筆者撮影

※「イチゴイニシアチブ」の活動についてはこんな記事も書いています。

「児童養護施設の七五三を祝福したい!」晴れ姿を演出するプロフェッショナルたち

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20191129-00152845/

・児童養護施設の七五三 「10年分の祝福」集めたオンライン写真展

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20210107-00216339/

※参考

・「イチゴイニシアチブ」のオンライン写真展。イチゴイニシアチブはFacebook、Instagram、Twitter、noteなどでも情報を発信している。

https://ichigoinitiative.jp/

・『2020年度全国母子生活支援施設実態調査報告書』(2021年6月、社会福祉法人全国社会福祉協議会・全国母子生活支援施設協議会)

・社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国母子生活支援施設協議会ホームページ

http://www.zenbokyou.jp/outline/

・ドメスティック・バイオレンス(DV)とは内閣府男女共同参画局

https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/dv/index.html

・「社会的養育の推進に向けて」(2022年3月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課)

https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは「東洋経済オンライン」、医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

若林朋子の最近の記事