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オウム死刑囚がこの6月にも執行かと言われる中で様々な動きが…

篠田博之月刊『創』編集長
6月4日に行われたオウム事件真相究明を求める会見(筆者撮影)

 松本智津夫元教祖を始めとするオウム死刑囚への刑の執行が早ければ通常国会閉会後に行われるのではないかというので、様々な動きが出ている。きっかけは3月14日に死刑囚のうち7名が東京拘置所から各地の拘置所へ移送されたことだが、来年は天皇代替わりの年なので執行は今年中、しかも政治日程など諸事情を考えると、通常国会閉会後。今後、法相の外遊などの予定もあるので、その前にとなると、執行は6月中にもあるのではないかとも言われている。

 3月の移送は7名だったが、東京拘置所だけでは1日に2名ほどしか執行できないので、残る6名についても一部をさらに移送する予定だと言われている。多くの死刑囚が相当人数同日執行されるのも前代未聞だし、執行が行われれば世界的なニュースになると言われる。

 そんななかで6月4日、参院議員会館で作家、監督、ジャーナリストらがオウム事件の真相究明を求める会見を行った。松本元教祖の死刑執行がなされると、オウム事件は動機の解明がないまま、真相究明の機会は永遠に閉ざされてしまう。正常な手続きがなされないまま1審の審理だけで死刑が確定され、執行がなされるのはおかしいのではないか、というアピールだ。松本死刑囚が詐病という認定であれば、せめて精神科医による診察や治療を行ってからにすべきではないかという提案もなされている。

 呼びかけ人は森達也さん、雨宮処凛さん、香山リカさん、鈴木邦男さんなど、『創』の常連ライターが一堂に会したという感じ。会見を開いてアピールをするだけかと思ったら、「オウム事件真相究明の会」を発足させ、継続的に活動していくということのようだ。ホームページは下記だ。

http://www.aum-shinsokyumei.com/page-250/

6月4日会見での田原総一朗さんや宮台真司さんら
6月4日会見での田原総一朗さんや宮台真司さんら

 会見には、上記のほか、宮台真司さんや田原総一朗さん、映画監督の想田和弘さんらも出席し、それぞれが自分の思いを語った。会見には出なかったが、呼びかけ人にはそのほか、青木理さんや佐高信さんらも名を連ねている。

 私も声をかけられて賛同人に名を連ねた。賛同人もいろいろな人に声をかけて募っているようで、堀潤さん、佐藤優さん、綿井健陽さん、さらには吉岡忍さん、小林節さんなど、人数もかなりのペースで増えている。

 でもさっき上記ホームページにアクセスしてみたら、まだ4日の会見の報告がアップされていない。おおい、せっかく多くの人がアクセスするタイミングなのに……著名な人が集まったが、肝心の事務スタッフがいないという、よくあるパターンだな、とほほ。誰かネットに強くてボランティアで手伝ってもよい人いたら、連絡してあげてください。

[追記]この記事を書いたあとになってもう一度見たら、会見の動画がユーチューブにアップされ、「究明の会」のホームページから飛べるようになっていました。冒頭未編集の部分もアップされていて「あれ?」という感じもあるけど、とりあえずご覧になりたい方はアクセスしてみてください。

 6月7日発売の月刊『創』7月号には、松本元教祖の三女、松本麗華さんが、父親や元オウム幹部の死刑執行が近いと言われる状況での胸中を詳しく書いた手記を掲載した。例えば3月に元幹部らが移送された日、弁護士に電話した時の様子がこう書かれている。

《松井先生の声が電話越しに聞こえた瞬間、涙が堰を切ったようにあふれ出しました。

「新實さんたちが移送されたという話があって。何か、何かご存じのことはありませんか」

 と問うわたしに、先生は、

「今日はたまたま面会に来ていたんですよ。お父さんに面会を申し込みました。いつも通り面会はさせてもらえませんでした。拘置所の状態はいつもと同じですよ。大丈夫ですよ。いつも通りです」

 と、力強く二度ほど同じ話をしてくださいました。わたしは先生も父のことが心配なはずなのに、勇気づけようとしてくださっていると申し訳なく感じたものの、嗚咽しか出てきません。

「あんたが泣いてどうするんだ。そんな風に泣いたらもう誰も泣けなくなってしまうぞ。お姉ちゃんや弟が泣けなくなっちゃうだろ。あんたがしっかりしないで、誰が泣かせてあげるんだ。しっかりするんだ。きっと大丈夫だから、落ち着けよ」

 普段は丁寧語で話される先生が、励ますように、厳しさと優しさを込めて叱ってくださいました。松井先生にお礼を申し上げて電話を終えたあと、わたしは誰もいない脱衣所にうずくまってしまいました。泣いている姿を同居人に見せたくなかったし、動けなかったからです。》

 元幹部7名移送のニュースに衝撃を受けた彼女だが、ちょうど3月は地下鉄サリン事件が起きた月だ。彼女は意を決してサリン事件被害者らの集会「地下鉄サリン事件から23年の集い」に参加した。一部の新聞では報道されながら、いったいどういう思いで彼女がそうしたかなど、これまで詳細がわからなかったその経緯を、麗華さん本人がつづっている。ただ、それは極めてデリケートで彼女の心情の機微に触れる事柄なので、ネットにはあげないでほしいと本人から要望があった。ぜひ発売された『創』7月号で全文を読んでほしい。

 『創』のほかに私は毎年、『マスコミ就職読本』を刊行していてマスコミ志望学生との接触が多いのだが、ちょうどその3月、マスコミ志望学生を集めて松本麗華さんと議論してもらう集まりを二度開催した。父親を含む元オウム幹部らの置かれた現実に直面して気持ちが落ち込んでいる自分の心情を、彼女は率直に学生らに語っていた。犯罪加害者の家族がどんな状況に追い詰められているのかがテーマだったが、その彼女の学生たちとの対話を取材させてほしいと、堀潤さん始め、多くの取材者も訪れて、活発な議論が行われた。

 今の学生たちはオウム事件当時に生まれたばかり。事件のことはほとんど知らないという学生が多いのだが、今年はオウム事件について改めて考えるべき時期だと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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