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「草の根で実習生を支える」(2)無償で授業する日本語教師が”かろうじて”補う実習生の日本語学習

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

日本にいるのに日本語ができない――

日本人との交流がない――。

日本の技能実習制度のもとで来日した外国人技能実習生は、日本で暮らし、就労しているにもかかわらず、日本語学習の機会に恵まれず、十分な日本語能力を身につけられないケースが少なくない。さらに、日本人との交流が限られている技能実習生もいる。

技能実習生をめぐってはこれまで、賃金や就労時間など処遇に関する課題が注目されてきた。その一方で、「日本語学習機会の不足」や「人間関係の乏しさ」といった問題も根深い。そんな中、地域のボランティア日本語教室が技能実習生を日本語教育の面から支援している。

私は「『草の根で実習生を支える』(1)ボランティア日本語教室が学びの場に、就業後や休日に日本語学ぶ実習生」で、名古屋市のボランティア日本語教室で技能実習生が学んでいる様子を伝えた。技能実習生は仕事に追われ、経済的な余裕がない中でも、土曜日や就業後、自らの意志でボランティア日本語教室に来て、日本語を学習する。では、こうしたボランティア日本語教室は具体的にどのような活動をし、その活動はどのように支えられているのだろうか。

◆「交流の場」をつくる、スポーツサークルやクリスマスのパーティ

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

「当初はベトナムに関心がある人が集まり、ベトナム語の勉強を始め、その後に活動の一環として日本語教室を開催するようになりました」

名古屋市南区のボランティア日本語教室を運営するNPO法人で理事を務める女性はこう話す。

このボランティア日本語教室は、私が「『草の根で実習生を支える』(1)ボランティア日本語教室が学びの場に、就業後や休日に日本語学ぶ実習生」で伝えた教室だ。

理事の女性によると、最初は「趣味の集まり」として、ベトナムに関心を持つ数人でベトナム関係の活動を始め、そのうち、外国人に無償で日本語を教えるボランティア日本語教室をスタートした。

現在まで、その活動は日本語教室以外にも広がっている。

実習生など外国人を対象にしたスポーツサークルも主催し、バドミントンや卓球を楽しむ場を提供している。また、旧正月やクリスマスのパーティー、お花見などのイベントも実施し、参加者同士の交流を促す場も設けているという。

同時に、日本人を対象にしたベトナム語の勉強会も開いている。

◆日本語教室を”無償“で支える日本語教師、専門性あれどボランティア

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。

この日本語ボランティア教室は、無料で受講できる。

かつては留学生や難民として来日した人も生徒としてきていたというが、現在は生徒の多くは技能実習生となっている。

技能実習生の生徒は、以前は中国出身者が多かったが、最近では技能実習生として来日するベトナム出身者の増加に伴い、ベトナム人の生徒が増えている。

日本語ボランティア教室を支えているのは、ボランティアの日本語教師だ。

日本語教師は全体で十数人おり、このうち5~6人が毎週教師として教室で教えているという。

ベトナム語のできる日本語教師もおり、授業ではベトナム語を交えて日本語を教える風景もみられる。

理事の女性自身も、自費でベトナムを何度も訪れ、バスなどの公共交通機関を使いながら、現地に滞在してベトナム語を学んだ経験を持ち、ベトナム語とともに、ベトナムの社会や文化についても詳しい。

日本ではベトナム語のできる人が限られている。ベトナム語を話せる人やベトナムのことを知っている人がいることは、ベトナム人の生徒たちにとってはうれしいことだろう。

一方、このNPO法人のボランティア日本語教室の教師はすべて無償で教えている。

みな別に本業を持ち、夜や休日に自宅で授業の準備をし、仕事のない土曜の夜に教壇に立っているのだ。

このボランティア日本語教室では教師全体の6~7割が日本語教師の養成講座を修了するなどしているが、それでもその活動から報酬を得ていない。

日本語教師の養成講座は通常、420時間のプログラムとなっており、修了するには一定の期間が必要な上、受講料が50万円を超えるケースも少なくない。日本語教師になるには、時間もお金もかかる。

また、養成講座を修了した後、教壇に立つに当たっては、授業の事前準備がかかせない。教室にいる以外にもやらなくてはならないことがあるのだ。

このNPO法人が運営するボランティア日本語教室では、日本語教育の専門的な知識や教授スキルを持った日本語教師が、”無償のボランティア”として教室を支えているのだ。

このことは「美談」としてとらえられないだろう。

日本語ボランティア教室とそれを支える教師たちが技能実習生の日本語学習を無償でサポートしているという状況からは、公的部門や企業からの技能実習生に対する日本語学習支援が欠けているという状況が浮かび上がる。

技能実習生は日本のさまざまな産業部門を支えているはずだが、なぜ公的部門や企業からの支援が十分にはないのだろうか。

◆予算不足という課題、「技能実習生からは授業料とれない」

ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。
ボランティア日本語教室で学ぶ技能実習生。筆者撮影。

このNPO法人の活動にはさらに、課題もある。

大きな問題は予算だ。

日本語教師たちは無償で教えているため、教師に支払う報酬は発生していないものの、教室の場所を借りるお金が必要になる。教室のための部屋代が1つの教室だけで年間10万円かかるという。

しかし、技能実習生をはじめとする外国人の生徒たちから授業料をとることはできない。

そもそもお金が十分にある人は有料の日本語学校に通うことができる。

これに対し、ボランティア日本語教室では、最初に教材費の徴収があるものの、基本的に授業料は無料となる。だからこそ、賃金が低く、かつ故郷に仕送りしている技能実習生であっても、教室にやってくることができるのだ。

技能実習生は日本の製造業、農業、漁業、建設などさまざまな産業部門を支えている。その半面、日本で生活していくのに必要な日本語能力を身につける機会は十分に保障されておらず、通常は自力で日本語を学ぶほかには、日本語を習得する道はない。

そのような状況の中で、各地のボランティア日本語教室は技能実習生の日本語学習の受け皿になっている。

そうしたボランティア日本語教室は教師の無償の取り組みに支えられている。そして予算不足という課題を抱えているボランティア日本語教室もある。

公的部門や企業部門からのサポートが十分にない中で、日本語教師の無償の取り組みが、技能実習生という日本語学習機会に恵まれない人たちの日本語学習をかろうじて支えているのだ。

しかし、技能実習生の中にはボランティア日本語教室のない地域に住んでいたり、ボランティア日本語教室に行く時間や交通手段が確保できず、ボランティア日本語教室に通うことができない人もいる。

地域のボランティア日本語教室は日本語学習の機会を十分に持たない技能実習生にとって貴重な「学びの場」だ。だが、ボランティア日本語教室にも通うことができない技能実習生も少なくないのだ。(「草の根で実習生を支える」(3)裏切られた”憧れのニッポン”行き、「それでも私は日本語を学ぶ」に続く)

研究者、ジャーナリスト

岐阜大学教員。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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