天気キャスターの数は1割未満 「おかえりモネ」百音が目指す気象予報士の実態とは
6月30日放送(33話)の朝ドラ「おかえりモネ」で、サヤカがカスリーン台風の時に生まれたことがわかりました。誕生日はモネと同じ、9月17日。以前書いた記事の通り、サヤカとモネは台風を通じて繋がっていたのです。
バック・トゥー・ザ・フューチャーのチケットが示す意味
一方、6月21日の週は主人公、永浦百音(モネ・清原果耶)の両親の青春時代が描かれました。
時は1986年(昭和61)の仙台、ジャズ喫茶と思しき場所で、清楚な女子学生がトランペッターに告白します。告白するのはモネの将来の母親である亜哉子(鈴木京香)、告白されるのは父親、永浦耕治(内野聖陽)です。
「あのー、良かったら映画でも・・」と、亜哉子は握りしめたチケットを渡そうとします。その映画チケットが、わずか1秒ほどですがテレビ画面に映し出されました。
なんと!その映画のタイトルは「バック・トゥー・ザ・フューチャー」ではありませんか。
長年、天気キャスターをやっていると、ドラマや映画を見ていても、直観的に”天気”に関する事象が目に飛び込んできます。「バック・トゥー・ザ・フューチャー」もしかりです。
一体、何が天気と関係しているのかとお思いでしょうが、この映画はシリーズを通して天気予報が過去、現在、未来と、どのように進化したのかが描かれています。過去の舞台である1955年の段階では、天気予報は外れるのが当たり前です。それが未来の2015年では「この雨は5秒後に止む」と、秒単位で予測するのです。(過去記事参照)
ちなみに、「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の公開は日本では1985年の12月ですので、おそらく亜哉子がチケットを渡そうとしたシーンは服装などからして1986年の年初だったと思われます。
それにしてもこのドラマ、わずか1秒のシーンにまで天気予報に気を使っているのではと感じられました。
やはりモネは落ちていた
6月28日放送(31話)で、二か月前に受験した予報士試験の不合格の通知がきました。気象予報士試験に合格するには1000時間程度の時間がかかると前回書きましたが、やはり勉強時間の不足でしょう。
合格するためには1日3時間勉強すると仮定して、333日かかります。モネが気象予報士の参考書を買ったのが2014年のお盆前(8月上旬)、本格的に勉強したのは10月からです。試験を受けたのは2015年1月25日(日)ですから、モネの勉強時間は10月~1月の4か月(120日×3時間=360時間)くらいで、1000時間の半分にも足りていません。
これでは落ちるのもやむを得ません。
とはいえ、その分、基礎的な素養は付いたはずです。7月1日放送(34話)で、二回目の試験結果も不合格と出ましたが、菅波(坂口健太郎)とたてたスケジュールですと、2016年1月の試験での合格が目標でしたから、その頃が有望ということになります。
気象予報士の実態
ところでモネには気象会社の仕事につくという夢があります。これまでのドラマの流れから判断すると、モネは単純に天気キャスターなどに憧れているのではなく、気象予報を通じて”誰かの役に立ちたい”というのが、大きな動機のようです。
一般に気象予報士というと、天気キャスターと結び付けて考えられがちですが、実際には天気キャスター以外の方が多数派で、その仕事は多岐にわたっています。たとえば、気象予報士講座の講師・斎藤義雄氏によると、気象予報士の数は現在およそ1万人。
対して気象の仕事をしているのは約2000人とのことです。その内訳は、モネが目指すような民間の気象会社で働く予報士は1000人ほどで、この中に天気キャスターも含みます。近年では気象会社以外にも、航空・鉄道・船舶・マスコミ・自治体・自衛隊・アウトレジャーなど、様々な分野で直接気象予報士が活躍している職域が広がっています。
とはいっても1万人の気象予報士に対して、それを有効活用している人が2割というのは少ないような気がします。
しかし斎藤氏によると、業界の発展のためには資格者に対して職業従事者の割合は1~2割くらいが適正とのこと。逆に言うと、医師のように取得するために膨大なコストがかかる資格を除いて、資格は持っていても使わない人が多い方が、その業界は発展するポテンシャルがあるということになります。一理ある考えでしょう。
気象会社が売るものとは何か
モネは気象会社に入って、人の役に立ちたいと考えていますが、気象会社もお金を儲けないことには立ち行きません。では気象会社が売るものとは何でしょう。
そんなことを考えていたら、6月29日放送(32話)で朝岡キャスター(西島秀俊)が、なるほどと思う意見を述べました。「私たちが売るのは・・・”時間です!”・・・」と。つまり情報によって、災害時なら備えるための時間、あるいは避難するための時間を生み出すのが気象会社の役割と言えます。
私自身の経験ですが、ある講演会でこんなご質問を受けたことがあります。
「気象は変えられないのだから、それを予測しても意味が無いのではないか」というのです。
確かに台風が来ることを止められないのだから、台風の襲来を予測できても、それによる被害は完全に喰い止めることはできません。しかし、台風が来ることが分かっていれば、自分の行動を変えることができます。
マスコミによる気象情報は、すべての人に平等に発信されます。とはいえ、それを受け取る側の行動が変わらなければ、どんな良い情報も価値を産みません。気象予報士は、災害から身を守る行動をとるための時間を提供し、受け取り手はその情報をもとに行動を変える。この二つがセットになって初めて気象災害などによる被害を最小限に喰い止められます。
朝岡が”時間を売る”と言ったのは、まさに”行動を変える時間を売る”ということだったのです。
参考資料
一般財団法人気象業務支援センター 気象予報士統計資料
2015年10月22日掲載 「バック・トゥー・ザ・フューチャー2」が予測した天気予報は当たっているか」
2021年5月21日掲載 「おかえりモネ」百音の誕生日は9月17日か "台風特異日生まれ"に秘められた意味
2021年6月23日掲載 「第1回気象予報士試験「森田さん落ちる」 おかえりモネの百音はどうなる?」