令和の時代に必要な営業スタイル あえて「昭和の営業」から学ぶことは? 【法人営業大学】
■「令和の営業スタイル」と「昭和の営業スタイル」
私の知人の中で、「昭和の営業」をテーマに活動を続ける営業コンサルタントがいる。同じ営業コンサルタントである私は、この言い回しに「新鮮さ」を覚える。それはいったいなぜか?
そこで今回は、現代の営業にとって最も重要なことは何か? について解説する。雑誌やインターネット等のメディアで取り上げられている「流行の営業スタイル」の問題点を指摘しつつ、現場で正しい結果を出すために必要なポイントを改めて考えたいと思う。
さて「昭和の営業スタイル」と聞いて、多くの人はどのような印象を持つだろうか。「GNP」というフレーズがあるので「義理・人情・プレゼント」を思い浮かべる人がいるかもしれない。
「義理・人情・プレゼント」を積極活用した、泥臭い営業活動によってお客様が観念し、「そこまで言うなら仕事をやろうじゃないか」と言ってもらう営業スタイル。これが多くの人が思い浮かべる一昔前のスタイル。いわゆる「昭和の営業」ではないだろうか。
私は営業コンサルタントだから、現在は、もっとスマートな営業スタイルが好まれることを知っている。大きく分けると2つだ。
●仕組みを使った営業スタイル
●お客様のニーズに沿った提案型の営業スタイル
※ たまに「紹介だけで仕事をもらえる技術」「売り込みしないほうが結果が出る手法」といった極端なやり方を伝授する人もいるが、これは特定の業種、業界に限られたワザである。「保険」や「車」「英会話教材」「ネット商材」……といった商材に限られる。日本企業の大半を占める製造業や加工業の「第二次産業」、情報通信業や運輸、サービス業などの「第三次産業」といった一般企業の営業には、あまり参考にならないテクニックである。
仕組みや提案型といった「スマートな営業」が好まれると書いたが、あくまでも「好まれる」だけであって、「時代に合っている」「旧態依然のやり方よりも成果が出ている」とは書かない。私は現場に入って営業コンサルティングをしている。中長期的な視点に立って財務的に健全化することが目的だ(もちろん労務上の問題も考慮しながらだ)。
研修だけをする講師や、書籍だけを書いているコンサルタントと決定的に異なるのは、経営者から結果を求められることだ。前述したとおり、短期的な結果ではなく、中長期的な結果だ。「時代性」など関係がない。この視点で立脚すると、前述した「スマートな営業」が本当にいいのかどうかがわかってくる。
■昭和の営業スタイル3つの問題(?)
掘り下げて考えてみよう。そもそも「昭和の営業スタイル」は何が問題と思われているか?(以下に書く事柄は事実かどうかは別にして、このような問題があると思い込んでいる人が多いのでは、という推測を元にしている)
(1)お客様が迷惑する → お客様が求めてもいないのに「義理」「人情」を武器に売り込むため?
(2)営業が精神的に疲れる → お客様が必要のないものをゴリ押しして売るため、良心が痛む?
(3)営業が体力的に疲れる → 雨の日も風の日も、暑い日も寒い日もお客様のところへ足を運ばなければならないため?
「昭和の営業スタイル」と聞いて、多くの人が思い浮かぶのが、額に汗をかいて売り込みを続ける営業の姿だろう。お客様のところへ何度も足を運び、そのたびに「お願いします」と頭を下げ、お客様がへそを曲げたら「そこを何とか」と言って媚びへつらうような光景だ。
確かにスマートさに欠ける。
お客様も賢くなっている。相手の事情を考慮した提案をせず、売込みばかりされたらお客様も辟易することだろう。
「頭を下げたら買ってくれると思っているのなら、大間違いだよ」
と。
また、商品の良し悪しはともかく、「お客様のところへ行って頭を下げ続け、売れるまで帰ってくるな!」と上司に言われて営業させられ続けたら、営業の精神状態は疲弊していく。しかしながら3つ目は勘違いだろう。お客様へ訪問し続けることで肉体的に疲れるなどと言っていたら、物流や配送の仕事はもっと疲れる。
まとめると、やはり2つだ。企業の問題はシンプルで、常に2つなのだ。それは「財務上の問題」と「労務上の問題」だ。お客様に嫌がられるような営業スタイルをしていると業績が悪くなり、営業も精神的に疲れるのであれば、そのスタイルを時代の変化とともに変えていかなければならない。
■スマートな営業は問題を解決できるか?
しかし、結果を求められる我々コンサルタントは、現場に好まれるようなスマートな営業によって「財務上の問題」と「労務上の問題」が解決できるかというと、「NO」としか言いようがない。
たとえば「仕組みを活用した営業」の「仕組み」というのは、ホームページやネット広告、チラシ、パンフレット、カタログ……といった類、もしくは営業にスマホやタブレットといった端末を与えて情報武装することを言う。
ただ、こういった「仕組み」はあくまでも営業活動をするうえで補助的な作用をするものであり、「仕組みを使えば勝手に売れていく」わけではない。仕組みに依存できる業種はかなり絞られる。にもかかわらず「仕組み」にこだわると、コストはかかるし、営業の仕事はよけいに増える。「仕組み」によって営業の心理的負担が減り、業績も上向くと期待し過ぎると、裏切られることが多いことは覚えておくべきだ。
「提案型の営業スタイル」に関しては、多くの企業が今も取り入れようとする考え方だ。お客様の真のニーズを理解し、そのニーズに沿った提案をするといった営業スタイルだ。いかにも「スマート」な感じがするが、大きな落とし穴がある。
■マーケットインとプロダクトアウトを整理する
著書『空気でお客様を動かす』にも書いたが、問題は2つ。お客様の潜在的なニーズを顕在化できるヒアリングスキルが営業にあるか、という点と、たとえお客様のニーズを聞けてもその通りの商材を用意できるとは限らない点だ。
前者は深刻な問題だ。現場でロープレをすれば一目瞭然。相手とペーシングしながらヒアリングするというスキルは、とても高度なコミュニケーション技術だ。お客様自身が気付いていない「ニーズ」を掘り起こすわけだから、とても難易度が高い。そのことに気付かず「お客様のニーズに沿った提案をしろ」などという営業マネジャーがいる。私はこういったマネジャーに対し、実際にロープレさせるが、ほとんどの人ができない。
また、たとえニーズを聞けたとしても、売る商材をその都度お客様に合わせてカスタマイズできるわけではない。受注生産で仕事ができる業界も限られる。つまり相手のニーズを聞けたとしても、売る側の都合のいい商材を「売り込む」ことになるのだ。「お客様の声を聞く」「お客様のニーズに合わせる」プロセスは、商品開発の段階の話であり、営業プロセスにこの考えを持ち込むと、営業は混乱する。お客様の求めている要望を聞いたとしても、売り込むものがほぼ決まっているからだ。
・マーケットインの発想 → 商品開発プロセスで重要
・プロダクトアウトの発想 → 営業プロセスで重要(だから営業の仕事はお客様を探すこと)
間違った営業スタイルでも商品が売れる場合もあるが、それは商品に力があるのを営業の力で売れていると勘違いしているケースか、社長をはじめとする一部のトップ営業が稼いでいるケースがほとんどであり、環境が変化した瞬間に業績は悪化していく。
したがって、昨今、現場で「好まれる」スマートな営業スタイルは多くの企業にとって「綺麗ごと」に過ぎない。
このスマートさを求めれば求めるほど営業の生産性は悪くなる。業績は悪化し、それでも数字を求められる営業は精神的に追い詰められていく。現場で営業のコンサルティングをしていると、メディアで取り上げられている手法がいかに実態に即していないか痛感する。
■ネット時代となり「感情」に振り回される営業
前述した「お客様に頭を下げてお願いし、媚びへつらう営業スタイル」は確かに疲れる。しかし、これは極端な例だ。あくまでも人が抱く印象に基づいた内容であり、たとえ昭和の時代でも、実際にこのような営業スタイルをしていた人は一部だけだ。
泥臭く営業することを嫌がる人が、大げさに表現しているだけであり、惑わされてはいけない。これも現場にいればわかる。今も昔も「できる営業」はそんなお客様に迷惑をかけるような押し売りなんてしないのだ。
忘れてはならないのは「感情に訴える」という点だ。人が人を動かすうえで、とても重要な点だ。人は感情で動く生き物。コンピュータではないから、必ずしも「経済合理性」に基づいて意思決定するとは限らない。
お客様が「感情」で決断することがあるように、営業もまた「感情」で物事を判断するときもある。つまりスマートな営業スタイルと、昔ながらの昭和的な営業スタイルとを比較し「スマートな営業」を選択したくなるのは、まさに「感情」の問題であるということだ。
人を動かす「感情」というのは、いろいろとある。その中で、とりわけ人を満足させたい、喜ばせたいという「感情」は、多くの人が持つものであり、だからこそ心理的に大きな影響を与える。
だからこそ営業はお客様を喜ばせよう、満足度を上げようと労力をかけるのだ。しかし、それと同様に、お客様もまた営業を喜ばせようという「感情」を抱くことを知っておく必要がある。この事実を多くの人は理解していない。
商品価値が同じであれば、お客様は「誰」からその商品を買うだろうか?
Aさん、Bさん、Cさんといて、それぞれお客様との親密度が「6」「2」「10」であったら、親密度が一番高いCさんから買うことだろう。商品価値がほぼ同じでも、それほど変わらないかもしれない。商品価値が多少劣っても、親密度のより高い人から購入しようとする人もいる。「同調性バイアス」が強い人なら、顕著にあらわれる。
ここで重要なのは「誰」というポイントだ。
「どこの会社」「どこのメーカー」ではなく「誰」というファクターだ。親密度が高いと、営業や販売員を喜ばしたいという感情をお客様も持ってしまう。
だからこそ、営業から「ありがとうございます。本当に嬉しいです!」と感謝されると、お客様も嬉しい気持ちになり、せっかく購入の意思決定をしても「あ、そうなんですか。決めたんですね」とそっけなく言われると、お客様は残念な気持ちになる。
相手がコンピュータであれば、そんな気持ちにはならない。相手が感情を持った生き物だからこそ、自分の決断が相手を喜ばせるのではないかと期待するのだ。そして相手(営業)が喜んでくれると、こちらもまた幸せな気分になる。
■営業はもっと「感情」に向き合うべきだ
営業は感情をコントロールし、「感情」に訴える手法を吟味すべきだ。
「経験マーケティング」という言葉がある。お客様が購入するプロセス・経験そのものを価値として捉える考え方だ。
お客様が知人に営業を紹介したいという気持ちになるのは、商品の良さもさることながら、営業の喜ぶ顔が見たい、営業を満足させたいという気持ちもあるからだ。だから先述した『空気でお客様を動かす』で書いたように、営業は少々大げさなリアクションをするほうがいい。お客様の期待に応えるためだ。
営業の自己都合ではなく、お客様のことを思い、一所懸命に正しい提案をしようとすると、その労力に感謝し、お客様もまた営業の気持ちに応えたいという「感情」を抱く。この心理現象を「返報性の法則」と呼ぶ。
冒頭で「昭和の営業スタイル」を簡単に紹介した。営業がお客様に「お願い」をするのも、今では一昔前のやり方と言われることだろう。しかし、押し付けがましくお願いするのではなく、お互いの親密度を見極めたうえで「お願い」をすればよいのだ。要するに、営業がお客様に「お願い」できる間柄を作ればよい、ということだ。
親族や地域の人から「何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」と言われ「実は相談に乗ってもらいたいんです」と打ち明けたら、当然相手は嬉しい気持ちになる。「頼りにされている」と人から思われたい「感情」があるからだ。反対に、困っているのに何も相談されないと、とても残念な「感情」を抱くことだろう。
「仕組み」や「提案内容」にこだわることは、もちろん重要なことだ。しかし、それによって売り手の「顔」がわかりづらくなること、営業や販売員の「人間性」が伝わらなくなることが問題だ。「感情」に訴えることができなくなるからだ。
なぜ「人間」が営業をするのか?
それは、お客様もまた「感情」を持った「人間」だからだ。営業の存在が不必要となり、すべてEコマース(電子商取引)で企業の営業活動が代替されるような時代が来ることがあれば、それはお客様から「感情」が消えたときだと思う。
何事もバランスだ。「スマートさ」を追求するのではなく、昭和の時代に重宝された「泥臭さ」も必要なのだ。
<参考記事>