大会直前のアクシデントも乗り越えて……内山靖崇、ウインブルドン予選を突破し遙かなる聖地へ
男子ダブルス予選決勝:内山/ベゲマン 6-4、6-7(4)、8-6 ベハル/謝(シェイ)
単複含め初のグランドスラムの切符をつかみ取った内山靖崇の周りには、ファン、そして関係者たちの輪が幾重にも生まれました。
「(コーチの増田)健太郎さんの顔を見たら、ちょっと泣きそうになって……」
照れくさそうに八重歯をこぼし、コーチへの謝意を口にする内山。勝者を囲む輪の中には、18年前に同じ場所で、本戦出場権を勝ち取った現デビスカップキャプテンの岩渕聡の姿もあります。日本人男子がウインブルドン予選ダブルスを勝ち上がるのは、奇しくもこの時以来でした。
歓喜の輪の中で笑みを広げる内山ですが、一週間前の彼は、バルセロナの病院のベッドの上にいました。カザフスタンの大会で治療時に塗られた薬にかぶれ、右腕が膿んで腫れ上がるアクシデント。当初2日ほどと言われた入院は5日に及び、点滴の針を刺したままろくに身動きもできない日々を過ごしていたのです。
そのような状態で挑んだシングルスの予選では、患部の日焼けを防ぐため長袖着用で戦うも、ただですら低下していた体力を猛暑で奪われ後半にはエネルギー切れ。
「なんで、こんな時に限って……」
シングルス敗戦後は落ち込み、その数時間後に迎えたダブルス1回戦にも、完全には気持ちを切り替えられないままコートに立ったと言います。今回初めて組むベゲマンとは練習したこともなく、ぶっつけ本番での試合でもありました。
そのベゲマンはダブルス巧者で、特にネット際で抜群の強さを発揮します。しなやかなプレースタイルはどこかマクラクラン勉と似たものがあり、初めてのプレーでもやりやすかったという内山。ポジティブな言葉を掛けるベゲマンの雰囲気作りにも、助けられた側面もあったでしょう。初戦を快勝した内山たちは、2回戦では互いが持つ対戦相手の情報を交換し、よりコミュニケーションとコンビネーションを高めて臨むことができました。特にシェイは内山にとり、チャレンジャーで何度も対戦している相手。試合終盤では「彼はネットにベタ付きしているはず」という読みに基づき放ったロブが、趨勢を決するブレークを生みました。
本戦と予選の会場が異なるこの大会では、予選出場選手も栄光のウインブルドンに立ち入ることは許されません。今回、ジュニアの時以来本会場を訪れる内山は「子どもの頃にテレビで観ていた大会。身が引き締まる場所」だと“聖地”を表現します。
もちろんその憧れの地に、単に立つだけで満足するつもりはありません。
「ミドルサンデーは越えたいですね」
目指すは、聖地の2週目です。
※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載。