オルセー美術館「マネ/ドガ」展:二人の強烈な個性が交錯する美と人間味あふれる特別展
19世紀後半のフランス美術界を代表する2人の巨匠、エドゥワール・マネとエドガー・ドガ。彼らの作品がパリのオルセー美術館で開催中の特別展「Manet/Degas(マネ/ドガ)」で一堂に会します。二人の個性とライバル関係、そして友情が交錯する展覧会は、彼らが描いた美と人間味を感じる、見応えたっぷりのものに仕上がっています。
※展覧会の雰囲気をよりリアルに感じとっていただくために、記事の終わりに動画を添付してあります。
裕福な家に生まれた2歳違いの二人
エドゥワール・マネ(1832ー1883)とエドガー・ドガ(1834ー1917)。ドラクロワに代表されるロマン主義から、モネやルノワールに象徴される印象派への過渡期に革新的な意志を持って絵画制作をした二人は、のちに続く画家たちに多大な影響を与えました。
生まれ年は2年しか違わず、いずれもパリの裕福な家に生を受けた二人。それぞれ法曹界の重鎮、銀行家の家庭で育ちましたが、家業とは全く異なる絵画の道を志しました。彼ら二人が初めて出会ったのは、おそらくルーヴル美術館のベラスケスの絵の前。画家を志す者は先人の作品の模写をすることが常ですが、二人ともが同じベラスケス作品をテーマにした版画を残しています。
展覧会は、まずそうした彼らの出自や二人の関係性を知る上でのエピソードから始まります。
二人の共通点と相違点
新しい時代の空気をいち早く捉えた二人。古典的なテーマでありつつ、定型を大胆に打ち破ったマネの「オランピア」も会場にあります。神話の女神として裸体を描くことは何世紀も前から行われていたことですが、「オランピア」では、明らかに同時代の娼婦がテーマ。あまりにもセンセーショナルだったためにその時代には受け入れ難いものでしたが、結果的には絵画の新しい時代の幕開けになりました。
彼らが生きたのは、オペラ座に象徴される新しいパリの風景が形作られ、カフェ、劇場、コンサート、競馬、鉄道旅などブルジョワ文化が花開いた時代。また普仏戦争の動乱も経験しています。二人が等しく享受した世相の最先端は、そのまま彼らの絵の主題でもありました。
本展では、同じテーマを描いていても、こうも違うものになるという対比が一目瞭然。女性の描き方、筆致やテクスチャーの違いに二人の個性が反映され、それらが歳月と共に二本の大きな柱、あるいは二つの大河のような充実した作風になってゆくあたりも展覧会の見どころです。
死後になお深まる友情と敬愛
マネは51歳の時、切断を余儀なくされた脚の術後の経過が悪く、それが元で無念の死を迎えます。展覧会の最後のコーナーの壁には、葬儀でのドガの言葉が記されています。
「彼は私たちが考えていた以上に偉大だった」
今でこそお宝のマネ作品ですが、生前、そして死後しばらくの間はそれほど高値がつかず、現在オルセー美術館の目玉になっている絵でさえ海外流出しかねない状況だったようです。そんな中、ドガは80点ものマネ作品を大切に所有しており、それがマネの評価を高める上で重要な役割をしたことが、この展覧会でわかります。
ちなみに、ドガはマネより30年以上長生きするのですが、晩年は失明するという、画家にとっては致命的な苦悩を抱えつつ生きることになります。光と影、ライバル心と深い友情が相半ばする二人の巨匠の人生。その人間味あふれる関係性を垣間見ることで、名画の数々がさらに熱を持ったものとして映る。その点がもしかしたらこの展覧会の最大の魅力かもしれません。
なお、本展はパリのオルセー美術館で7月23日まで開催された後、ニューヨークのメトロポリタンミュージアムに場所を移し、9月から来年2024年1月まで開催される予定です。