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なぜバルサは好調を維持できているのか?レヴァンドフスキの復調とカンテラーノの重宝…待ち受ける大局面。

森田泰史スポーツライター
復調したレヴァンドフスキ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

好調を維持したまま、ビッグマッチに向かうことができそうだ。

今季序盤戦、良いペースで歩を進めているのがバルセロナだ。リーガエスパニョーラで、10試合消化した時点で首位をキープ。その状態で2位レアル・マドリーとの直接対決に臨む。

■補強の問題

バルセロナは今夏、大型補強を敢行したわけではない。ライプツィヒから移籍金5500万ユーロ(約89億円)でダニ・オルモを獲得したが、狙っていたニコ・ウィリアムスを確保するには至らなかった。

一方で、イルカイ・ギュンドアン、セルジ・ロベルト、マルコス・アロンソらがチームを去った。戦力でいえば「少しマイナス」でシーズンスタートを迎えた。

バルセロナを率いるハンジ・フリック監督
バルセロナを率いるハンジ・フリック監督写真:なかしまだいすけ/アフロ


だがバルセロナの「最大の補強」になったのはハンジ・フリック監督だった。シャビ・エルナンデス前監督に代わり、チームを率いる運びとなったドイツ人指揮官は、大型補強を敢行できない事実を受け止め、ヤングプレーヤー、カンテラーノ(下部組織出身選手)に焦点を当てた。

ラミン・ヤマル、パウ・クバルシ、アレッハンドロ・バルデは当然ながら、マルク・カサード、マルク・ベルナル、セルジ・ドミンゲス、エクトル・フォルト、多くのカンテラーノが出場機会を得ている。ラ・マシア(バルセロナの育成寮)の力が、改めて証明されている。

■新指揮官の戦術

そう、バルセロナの若い選手たちがトップチームで活躍できるのは、無論クラブとしての育成力が大きい。しかしながら、ハンジ・フリック監督の戦術とアプローチが、彼らに恩恵をもたらしている。

前任のシャビとは異なり、ハンジ・フリックの戦術は細かい。もう少し詳しく言えば、決まり事が明確で、それぞれの役割がハッキリしている。

また、バルセロナの御家芸である「ポゼッション」をリスペクトしながら、前線からのプレッシングとショートカウンターという自身の得意なスタイルをうまく持ち込んでいる。

シュートを放つヤマル
シュートを放つヤマル写真:なかしまだいすけ/アフロ

ハンジ・フリック監督の提唱するプレースタイルというのは、若い選手にメリットをもたらす。端的に表現するなら、「走れる」選手、「ハードワークできる」選手が、重宝される。

若く、体力があり、さらにスポンジのように吸収力のあるプレーヤーが、ハンジ・フリック監督の下、プリメーラの舞台で躍動しているのは偶然ではない。

■レヴァンドフスキの復調

ただ、恩恵を受けているのは若い選手たちだけではない。例えば、ロベルト・レヴァンドフスキだ。

2022年夏、移籍金4500万ユーロ(約64億円)でバイエルン・ミュンヘンからバルセロナに移籍したレヴァンドフスキだが、ファーストシーズンこそ決定力を発揮したものの、セカンドシーズンでは失速した。昨季、バルセロナが無冠に終わった際には、”やり玉“に挙げられてもいた。

レヴァンドフスキは、22−23シーズン、公式戦46試合に出場して33得点を記録した。23−24シーズンには、49試合で26得点をマークしている。1試合平均得点数は0.72得点→0.53得点と変化し、衰えを指摘する声が強くなった。

ゴールを量産するレヴァンドフスキ
ゴールを量産するレヴァンドフスキ写真:なかしまだいすけ/アフロ

ハンジ・フリック監督の就任は、レヴァンドフスキにとって、追い風になった。そもそも、バイエルン時代に「師弟関係」にあった両名である。19−20シーズンには、ペップ・バルサ以来となるセクステテ(6冠)を達成。ともに、歴史に名を刻んだ。

「この15年で、レヴァンドフスキは最高の9番の選手だと思う」とはハンジ・フリック監督の弁だが、その信頼感は就任当初から見て取れた。

ハンジ・フリック監督のバルセロナで、レヴァンドフスキはプレスのスイッチャーになる。バイエルン時代と同様の役割で、レヴァンドフスキとしては違和感がない。ボールを奪えば、即座にカウンターで、レヴァンドフスキにパスが出る。

加えて、ラフィーニャが「シャドーストライカー化」して、レヴァンドフスキをサポートする。この辺り、ハンジ・フリック監督には抜かりがない。ラフィーニャがシャドーストライカーとしてゴールを狙っているので、レヴァンドフスキのデコイランが生きる。囮(おとり)になると分かっていて走るのと、無駄走りに終わるのとでは、雲泥の差なのだ。

レヴァンドフスキは今季のリーガで、10試合12得点と暴れている。ファーストシーズンに獲得したピチチ(得点王)の称号を得るため、爆走している。

好調を維持するバルセロナ
好調を維持するバルセロナ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「我々には我々のプレーのフィロソフィーがある。試合というのは、毎回、違うものだ。対戦相手によって、ストロングポイントやウィークポイントは異なる。我々は、対戦相手に対して、どのようにプレッシングを行うかを知っておく必要がある。試合によっては、対峙するチームに合わせることもある」

「私は常にポジティブな面に目を向ける。選手たちは良いプレーを見せてくれている。カンテラの選手たちは(インターナショナルウィーク期間)我々と一緒にトレーニングを行なっていた。それから代表の選手たちが戻ってきて、みんな、よくやってくれた。ガビやフェルミン(・ロペス)も戻ってきた。全選手が揃ったら、我々は素晴らしいチームになる」

これはハンジ・フリック監督の言葉だ。

斯様(かよう)に、今季のバルセロナは調子が良い。昨季とは別人のようにチームが生まれ変わったと言っていい。

だがチャンピオンズリーグ・グループステージ第3節のバイエルン戦、リーガエスパニョーラ第11節のレアル・マドリーとのクラシコが控えている。シーズン前半戦、最も大きな山場だ。そこで、フリック・バルサの力量が試されるのは間違いない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『WSK』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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