「本当に情けない」金正恩の拷問部隊、食うや食わずで“最後の手段”
北朝鮮の中国と国境を接する地域には、数多くの送金ブローカーが存在する。脱北して中国や韓国で暮らす人々が、北朝鮮に残してきた家族に宛てた送金を届ける役割を果たしている。
両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に住む、40代男性のパクさんもそのひとり。郊外nのアジトででカネのやり取りをしていたところ、保衛部(秘密警察)に踏み込まれた。当時、パクさんの手中にあったのは現金2万元(約39万4000円)。「見逃してくれ」と頼み込むパクさんに、保衛員はこんな話をしたという。
「半分半分にしないか」
送金ブローカーにとって欠かせないのが、チャイナテレコムなどの中国キャリアの携帯電話だ。北朝鮮にも携帯電話はあるが、国境の向こうとの通話はできないためだ。当局は、ここから国内情報が漏れ、国外情報が国内に流入していると見て、厳しい取り締まりを行ってきた。
だが時が経つにつれ、取り締まりはワイロ要求の口実となっていくのが北朝鮮の常だ。そんな実態を、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
別の送金ブローカー、40代男性のキムさんは、市内の馬山洞(マサンドン)に住む脱北者家族に、送金を渡しに行ったところ、現場で保衛部に摘発された。その額は明かされていないが、保衛員はキムさんの持っていた現金の4割を受け取ってすぐに解放。「今後、問題が起きたら自分を訪ねてこい」と伝えたという。
保衛部と言えば、政治犯の拷問や公開処刑を担当してきた、泣く子も黙る恐怖政治の担い手だ。しかし、深まる一方の経済難の中で、彼らもまた困難に直面している。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
同様の話は、上述のパクさんを取り締まった保衛員もしている。
「保衛部がケツ持ちすれば取り締まりにひっかかることはない。今後、送金があれば、私を訪ねてこい」(保衛員)
かつて、送金ブローカーや密輸業者は、保衛部に定期的にワイロを渡し、お互いが儲かる共存共栄の関係にあった。それを崩したのが、反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)だ。
地元の保衛部と安全部(警察署)が、送金ブローカーや密輸業者とズブズブの関係にあり、取り締まりが行われていないことを見抜いていた中央は、地元としがらみのない82連合指揮部を送り込み、取り締まりに当たらせた。
この作戦が功を奏し、国境沿いの地域では逮捕者が続出した。
ところが、困ったのは地元の保衛員たちだ。ワイロを受け取れなくなり、生活に困窮するようになった。また、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころですら途絶えなかった彼らに対する食糧配給も、コロナ鎖国下で量が減らされたり、途絶え途絶えになってしまった。
「保衛部の中でも、ワイロを多く受け取る捜査機関を除けば、大体の保衛員は一般住民と生活は変わらない。一回の食事にありつくために、担当地域の人民班長(町内会長)や経済的に余裕のある世帯を訪ねるという、本当に情けない有様だ」(情報筋)
コロナ鎖国の長期化で、生活に行き詰まった保衛員は、一般住民から食事や現金をせびって、なんとか生き抜いているのだ。ちなみに、保衛員がパクさんから受け取った1万元(約19万7000円)だが、物価の高騰を考えても、贅沢さえしなければ、4人家族が1年以上食べていける額だ。しかし、保衛員も上役への付け届けが必要であることを考えると、実際に手にする額ははるかに少ないだろう。
ちなみに、社会の不正腐敗からの清潔度を示す腐敗認識指数の2021年のランキングで、北朝鮮は世界最悪レベルの174位。保衛員、安全員はもちろんのこと、何らかの権限、許認可権を持ったすべての人が不正行為をしなければ生きていけないのが北朝鮮という国だ。