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石破首相、李強首相との会談で台湾問題に関し「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持」と誓う

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
出典:新華社

 10月10日にラオスで中国の李強首相と会談した石破首相は、自分は田中角栄元首相の愛弟子だとして「日中友好」を重んじ、何よりも台湾に関して「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持する」と誓った。

 10月10日の台湾の頼清徳総統の「二国論」演説で激しい批判を展開している中国は、この一言さえ引き出せば、あとはどうでもいいのである。

 日本のメディアでは、石破首相が強硬な姿勢で日本側の要求を主張したと、一斉に石破首相の姿勢を礼賛しているようだが、中国側から見ると、まったく別の景色が見えてくる。

◆日本メディア、一斉に石破首相の主張を礼賛

 いつものことではあるが、日本のメディアは日本側に都合のいいことだけしか報道しないので、どのメディアも多少の違いはあるものの、おおむね以下のような論調で石破・李強会談を報道している。

 ●石破首相は、8月の中国軍機による日本の領空侵犯など中国軍の活動について深刻な懸念を表明した。

 ●石破首相は、深圳市の日本人学校に通う男児が襲われて死亡した事件の事実解明や邦人保護の徹底を求めた。

 ●石破首相は、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、中国が続けている日本産水産物の禁輸措置について協議した。

 ●石破首相は、中国のネットにおける反日的なSNSの取り締まりを要求した。

 ●一方、石破首相は、師と仰ぐ、日中国交正常化を実現させた田中角栄元首相の言葉を引用し、「日中両国の指導者が明日のために話し合うことが大事だ」と呼びかけ、戦略的互恵関係を続けたいと表明した。(日本メディア報道の例は以上)

 このように日本メディアは、あたかも「石破首相が勇ましく日本側の主張を中国側に突き付けた」というトーンで報道しており、最後の田中角栄元首相に触れた報道は少なかった。

◆李強・石破会談に関する中国側の報道

 中国の外交部は10月10日夜9時31分、<李強は日本の首相石破茂と会見した>という見出しで、会見の模様を報道した。以下、中国側が発表した李強発言と石破発言の概略を示す。

 李強:習近平国家主席が(石破首相就任祝電で)指摘したように、中国と日本は一衣帯水の隣国であり、平和共存、永遠の友好、互恵協力の道を追求することが両国国民の基本的利益だ。日本が中日間の四つの政治文書の原則と合意を真摯に遵守し、二国間関係の正しい方向をしっかりと維持し、二国間関係の政治的基盤を維持し継続することを期待する。日本が、両国間の戦略的互恵関係を包括的に推進し、新たな時代の要請に応える建設的で安定した中日関係の構築に努めることを期待する。

 李強:中国と日本の発展はお互いにとって挑発ではなく重要な機会である。中国は日本と協力してそれぞれの比較優位性をさらに活用し、技術革新、デジタル経済、グリーン開発などの分野での協力のための新たな成長点をさらに模索し、輸出管理対話メカニズムをうまく活用し、産業サプライチェーンの安定性と円滑性、および世界的な貿易システムの維持に取り組んでいきたい。また共同で地域の平和と繁栄発展を促進していきたい。

 石破:日中両国は現在、戦略的互恵関係を包括的に推進し、建設的で安定した二国間関係の構築に努める方向で進んでいる。日本は中国と協力して将来を見据え、ハイレベル交流を強化し、あらゆるレベルでの対話と意思疎通を密接に行い、協議を通じて懸案問題を解決し、互恵協力を引き続き推進し、日中関係を安定的かつ長期的に促進していきたいと望んでいる。日本は中国との「ディカップリング(切り離し)や関係の断絶」をするつもりは全くなく、各領域における実務協力を深め、その成果が両国のより多くの国民に利益をもたらすよう希望している。台湾問題については、日本は≪日中共同声明≫で定められた立場を堅持しており、変更する意思は全くない。日本は国際問題や地域問題について中国との意思疎通を強化し、課題に対処していきたいと考えている。(以上)

 このように中国側から見れば、石破首相は模範的な表明をしていることになる。「≪日中共同声明≫で定められた立場を堅持する」ということはすなわち、「一つの中国」を堅持し、「台湾独立を絶対に認めない」ということに相当する。

 もちろん日本側は石破首相が、中国が喜ぶ満額回答をしていることは一切報じないが、中国の外交部は、少なくとも石破首相が言っていないことを発表したりするようなことはしない。そのようなことをしたら、たちどころに日本側からクレームが来るのを知っているからだ。

 日本の外務省あるいは駐中国の日本大使館などが異議を表明してないということは,石破首相はまちがいなく中国外交部が発表した言葉を言っているということになる。

 

◆中国にとってはコントロールしやすい石破内閣

 中国にとっては、総理になったら靖国神社を参拝すると公言した高市早苗議員が総理にならなかっただけでも歓迎すべきことだと思っている。

 懸念は石破氏が自民党総裁選前に台湾を訪問していたことだったが、このたびの李強との会談で、「台湾独立は支援しません」と誓ったようなものだから、これで、その懸念材料はほぼなくなった。

 中国にとって石破茂個人に関する懸念は、内閣を組むまではさまざまあったが、その後に発表された石破内閣のメンバーを見て、「おおかた親華(親中)」とみなしており、御しやすいとみなしていた。

 加えて今般、台湾問題について、田中角栄の名前まで出して、日中国交正常化の時の基本方針を堅持すると誓ったのだから、もう何の心配もない。

 石破氏が総理になる前から唱えてきた「アジア版NATO」は、総理大臣所信表明で自ら封印してしまったし、アジアのどの国が日本ごときと軍事同盟を組む可能性があるかと、中国は石破の国際感覚を、今ではバカにしている。中国政府自身はそのようなことは言わないが、中国のネットに湧き出ている声を削除していないので、中国政府もネットの声に肯定的だということが窺(うかが)える。

 総体的に見て、「石破には現在進行している国際的時局を見る目が皆無だ」と思っているので、台湾問題に関して田中角栄が発表した「日中共同声明」を模範とすると誓ってくれれば、それ以外のことはどうでもいいのである。

 中国は今、同じ10月10日に台湾の頼清徳総統が講演で表明した「二国論」への批判に燃え上がっており、他のことにはほぼ無関心だ。

 頼清徳発言と、石破首相外交デビューのASEAN諸国にとってのアジア版NATOに関しては、別途改めて論じたいと思う。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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