無印良品の食品はなぜすごい?担当者に直撃インタビュー
外食、中食、いずれも苦悩する今、ぶれないコンセプトで躍進する「無印良品」
外食、中食を問わず、多くの企業は2008年から始まった人口減から客数を維持することが難しく、客単価を上げることで何とか売り上げを維持しようと懸命である。
コンビニに至っては、懸命に努力はしているものの、今年に入って売り上げに直結していない。
スーパーでも同様のことが起こっている。
客数が減少し、客単価を上げることで何とか売り上げを維持しようと懸命だが芳しくない。大手はいずれも減収減益となっており、ヤオコーでさえも同様である。
さてそんな社会状況のなか、良品計画の企画開発・製造から流通・販売を行う「無印良品」の食品が好調である。
直営既存店の3年間の客数、客単価が前年比アップ。食品業界では稀有である。
立地がいいのか?
当然のことながら、調査したうえで出店されている。
とはいえ、一例をあげると駅周辺は人の行き来が頻繁だからと言って、出店しても売り上げが良いとは限らない。これは過去において、他社でもよくある話だ。
つまり立地だけではない何らかのポリシーがあってこそ、数字になって表れているのではないだろうか。
そこで今回、良品計画の食品に対する考え、コンセプトを聞きたく、取材をお願いした。
なかでも昨年から投入された冷凍食品、そしてチルド商品について、この1年という短期間で冷凍食品だと約50アイテムを投入するといったスピード感について、驚いたのだ。
冷凍食品・チルドのスイーツ、そして宅配について
今回、お話を伺ったのは、
執行役員 食品部長
(兼)カフェ・ミール事業部管掌
嶋崎朝子氏(以下、嶋崎氏)
池田「2018年から手掛けられた冷凍食品、そしてチルドのスイーツ、そして配送まで多義にわたって商品について、お聞きしたく思っています」
嶋崎氏「まず冷凍食品からお話をしますと、冷凍でミールソリューションのカテゴリーとして、各社さんもすごく力を入れておられます。
ただ冷凍食品は便利ではあるけれど、お弁当向けの利用が多く、夕食の一品としてはまだお客様にとって心理的な抵抗があると思っておりました」
「無印良品」として何を提供したいかという考えのもとに、生活の必需品として利用していただけたらという思いがあるとのこと。
それは例えば素材にこだわっていたり、食卓に上がっても心理的な抵抗がない一品とか、食卓のサポートになる朝食やおやつにでも食べていただけるものとか。
調理時間がかかり、なかなか手間な料理は、代わりに無印良品の冷凍食品によって一役を担うといったことである。
アイテム数は50種(2018年9月発売当時。2019年8月現在は57種)。
6つのシリーズに分類されている。
「素材を生かしたお惣菜」
「日本の飲茶」
「焼きたての美味しさ」
「素材を生かした世界のごはん」
「世界の煮込み」
「魚のお惣菜」
さて今回、冷凍食品の「肉じゃが」390円(消費税込)を頂いた。肉じゃがはある程度の人数分で作らないと素材に火が通る前に煮汁が少なくなってしまい、単身者ではなかなか作ることが難しい。既に全国の3割が単身者であるなか、「食べたいけれど、食べれない」といった料理なのである。
さて実際、食べてみると、素材の旨みがしっかり残っていて、味もすっきりとした出来上がりであった。
世界の煮込みシリーズでは「バクテー(マレーシア風豚肉の煮込み)」 390円(消費税込)を頂いた。
非常に現地の味に近く仕上げている。
売れ筋は?
嶋崎氏「一番の売れ筋は「キンパ」です。商品開発担当者と品揃えを一個一個考える際に「キンパ」のニーズがあるのか、しかも冷凍食品でと考えました。しかし発売を開始したら、一番の人気商品で、何故なのだろうと思いました。デパートでは品揃えとしてあるのですが、スーパーにはほとんど置かれていない。品揃えに普通にないことのほうが多かったり。あとは保存しにくい。美味しいけれど、賞味期間が短いのが一般的です」
確かにリーチインショーケースに陳列されている「キンパ」490円(消費税込)をみて、正直、「巻き寿司を冷凍?」と思ったものだ。
そして同時にレンジアップすることですし酢の酸味が飛んでしまうのでは・・・とも。しかし食べた瞬間に不要な心配であることがわかった。まず食べやすいようにカットされた「キンパ」490円(消費税込)をレンジから出し口にいれると、程よくごま油の香りがじわーっと口の中に広がり、レンジアップだからこそ出せる風味なのだと思った。
さて昨年から投入された冷凍食品によって客層が変わったわけでなく、長年のレトルト商品、大ヒット作のカレーからじわじわと浸透していると嶋崎氏は言われる。とはいえ、立地は乗り換えの駅、住宅エリアに近い店舗などが良いとのこと。
スイーツの冷凍食品
スイーツは日本の飲茶としてカテゴライズされている。これまで冷凍のPB商品はあまり見かけなかったが、みたらしだんご、草だんごが1パック12個入り、餅入りわらび餅、きな粉おはぎが1パック4個入りで売っている。一口サイズで食べやすく、小腹にも対応できるポーションであり、いろいろな食卓シーンに登場できる大きさである。そして12個入りより6個入りという要望もある。
冷凍における立地について
嶋崎氏「乗り換えの駅、そして店の大小ではなく、地域に入りやすい場所の立地の売り上げ実績が良いです。
そしてこの間(2019年4月)、出店しました野々市明倫通りというお店はアルビスさんというスーパーマーケットの横に隣接させていただいたのですが売り上げは双方アップし、お客様がそれぞれを使い分けされています」
石川県野々市市に無印良品初のロードサイド店舗を出店(ニュースリリース)
ちなみに冷凍食品の味付けについて、全国で一律、統一されているとのこと。
続いて、冷蔵のスイーツについてお話を伺った。
チルドのスイーツについて
店舗内に入って、銀座店、MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店に入って、まず目を引いたのがチルドのスイーツである。
同じ形状に仕上げ、色が緑、白、茶色(ガトーショコラは調査期間ではなかった)、この3種類で綺麗に統一されていて、遠目からも一目瞭然にスイーツがあることはわかる。
種類としては、
・二層仕立てのチーズケーキ
・宇治抹茶ケーキ
・ガトーショコラ
いずれも350円(消費税込)。
価格はそこそこするが、食べた瞬間に素材のこだわりを感じ、納得したものだった。
池田「はじめは、冷凍食品とチルドのスイーツを関連させて販売されていると思っていました」
嶋崎氏「チルド商品を扱っているお店は約100店舗に広がっており、一方、冷凍食品は20数店舗なので、あまりそのように考えませんでした」
次に視認性について伺った。
嶋崎氏「什器に入れたときにどのように見えるかがポイントでした。多少、バリエーションが出たときに備えて、何か共通性が必要だと考えました。そこでプロダクト視点にたって開発がスタートし、パッケージのコンセプトをどうする、見た目の形とか高さをどうする、というのを考えつつ、何の素材が良いのか、まずは3種類くらいから始めるのが良いのかななどを考えました。無印良品では昔からチーズを使ったものが売れているのです」
今回、調査では白(2層仕立てのチーズケーキ)と緑(宇治抹茶ケーキ)が陳列されており、涼し気な売り場となっているのだ。
抹茶のスイーツ、石臼挽きの威力
池田「スイーツの中で特に注目したのが、抹茶なのです。通常、どうしても熱を加えると茶色に褐変してしまう。しかし濃い色目をみて、これは相当、こだわりがあると思ったのです」
嶋崎氏「本当に抹茶のグレードはこだわっており、一般業務用で使用されているものではなく、非常に良いグレードの物を使用しています」
挽き方についてもお聞きした。あの濃い抹茶色、風味を出すことは難しいからだ。
嶋崎氏「機械で挽く際、熱が発生し、これが風味を損なうのです。石臼挽きでゆっくりゆっくり挽いていきますので香りも飛ばないのです」
お届けサービス
無印良品 銀座では「日替わり弁当」750円(消費税込)のお届けサービスも今手掛けている。
エリアとしては、中央区、港区(台場1丁目、2丁目は対象外)、千代田区となっている。
嶋崎氏「工場で一括して作り、ご注文いただいた方にはお店から配送しており、送料は無料です。配送注文は5個以上から承り、現在、日替わり(消費税込み)750円の弁当とペットボトルは中国産茶葉使用 茉莉花茶 500mlです。」
池田「1回あたりの配送でどのくらいの受注があるのでしょうか」
嶋崎氏「おおよそ5から10食ぐらいのオフィス需要でのご注文が多いのです」
池田「配送料込みは大変ですね、その価格で工場もいろいろな具材を詰める作業は工場の方には大変なのでは?」
嶋崎氏「本当に大変です。はじめは駅弁のようなイメージだとか、わっぱに入っているお母さんなり奥さんなりが作ってくれた手作り弁当的なイメージを無印良品のお弁当にして出したいなあと思っていました。あれでもなくこれではなく、自信をもっておすすめできる、これという1種類、例えば鶏飯とかそぼろ飯とシャケ弁当のようなお弁当を一日1種類ずつ販売していこうか、そういうところから始まりました。食べ終わった後、絶対満足してもらえるものを作ろうと思いました」
新しい風、それが今、中食でも必要
コンビニ、スーパー、そして弁当専門店、それぞれの業態そのものが急激に巨大化してしまい、そのためか従来のやり方から脱しきれていない。社内での商品開発はこれまで通り「こうあるべき」といったしがらみもあり、良い提案があったとしも、なかなか会議で通らない、商品化できない企業もある。顧客から見ると、コンビニ、スーパーはこうあるべきといった価格、商品のイメージが定着してしまっている。
そのようななか、無印良品の商品、そして取材を通して、中食への新しい考え、大胆な着眼点でもって提案したならば、人口減とはいえ、まだまだ伸び代があると思えた。これまでとは違う新しい提案がそこかしこにあり、時としては見落とされていた事柄を具現化させている。しかも「お客さまの困っている問題を解決する」という軸はぶれていない。今こそ、企業の独自の考えを鮮明に打ち出すことで海外進出の足掛かりになるのではないだろうか。
お忙しいなか、多義にわたってお話を聞かせていただき、ありがとうございました。