新国立決定「アンビルトの女王」ザハ・ハディド氏の恨み節
2020年東京五輪・パラリンピックの新国立競技場について、安倍晋三首相は22日、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにしたA案(大成建設、梓設計、建築家・隈研吾氏)に決定したと発表しました。
A案の屋根は木材と鉄骨が組み合わせられ、地上5階、地下2階建て。高さは49.2メートルと、旧計画の70メートルよりかなり低く抑えられました。総工費は約1490億円、完成は2019年11月末の予定です。
採用されなかったB案は、竹中工務店、清水建設、大林組の共同企業体、日本設計、建築家・伊東豊雄氏のチーム。
いったん採用されたものの、建設費が約2651億円まで膨らみ、白紙撤回されたイラク出身、英国在住の建築家ザハ・ハディド氏は形ばかりの祝辞を述べた上で、恨み辛みをぶちまけています。
隈研吾氏、伊東豊雄氏も「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大アーチを用いたハディド氏の大胆なデザインに批判的で、ハディド案を引きずり下ろした形になったからです。
ハディド氏はこの日、電子メールでコメントを発表しました。
「悲しむべきことに、日本の当局は日本の専門家たちと結託して、世界に対して2020年東京五輪・パラリンピックというプロジェクトの扉を閉ざしました」
「国際的なデザイン、エンジニアリング・チーム、そして私たちと一緒に働いた日本のデザイン会社に対するこのショッキングな取り扱いは、デザインや予算に関わるものではありません」
「実際に、この2年間私たちが提案してきたデザインの詳細、コスト削減案の大半は、今日発表されたデザインと、私たちが最初に描いた競技場のレイアウトと観客席の形状の、注目すべき類似性によって正しいことが証明されました」
「もし私たちのチームが単にオリジナルなデザインを発展させることができていたら、すでに競技場は建設にとりかかっていたでしょう」
「しかも1年半の遅延によるコストアップ、2020年の東京五輪・パラリンピックに間に合わないかもしれないというリスクも回避されたでしょう」
建築は芸術性とコストのせめぎ合いです。金の切れ目が縁の切れ目とも言われます。
政府債務残高が国内総生産(GDP)の240%に積み上がった日本にとってハディド氏のデザインはスケールが大き過ぎ、カネがかかり過ぎるというだけの話だったのかもしれません。カネ余りの中国でも「ハディド氏の建築は贅沢過ぎる」という声が上がっているほどです。
ハディド案を白紙撤回した安倍首相に対する国際的な批判はあまり聞こえてきません。1.7倍も予算が膨らめば、計画を見直すのが当たり前だからです。そうした意味で安倍首相は正しい判断を下したと言えるでしょう。
しかし、五輪はオカネのかかるイベントです。それなのに国際的に「カネがかかる」と評判のハディド氏のデザインを使って、五輪・パラリンピックを招致したそもそもの判断が正しかったのかどうか。
そして、そのハディド案を白紙撤回したら「豪華メニューのフルコースに釣られて店に入ったら、出てきたのは目玉焼き定食だった」と言われても仕方ありません。そうした批判が高まらないのは、先進国はどこも財政が苦しくなっており、五輪もハディド氏のデザインも国民の間では不人気だからです。
2024年夏季五輪招致を表明していたドイツのハンブルク市は住民投票の結果、51.6%が反対票を投じたため、立候補を取り下げました。ドイツでは、22年の冬季五輪招致に意欲をみせていたミュンヘン市が住民投票で反対されたことがあります。
招致が正しかったのか否か。答えが出るのは東京五輪・パラリンピックが開催されたあとの2020年以降の話です。
(おわり)