Yahoo!ニュース

今夜CLが開幕。王者マドリーら「本命」に挑む伏兵二つはモナコと?

小宮良之スポーツライター・小説家
エムバペはパリ・サンジェルマンに去ったが・・・(写真:ロイター/アフロ)

 今晩、欧州チャンピオンズリーグが火蓋を切る。

 優勝候補としては、連覇王者のレアル・マドリーが筆頭だろう。その次にFCバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン。さらに、4年で2度決勝に進んでいるアトレティコ・マドリー、プレミア王者でアントニオ・コンテ監督のチェルシー、イタリア王者で昨季はファイナリストのユベントス、ネイマール、ダニ・アウベス、エムバペら獲得で意気上がるパリ・サンジェルマンが鎬を削る。さらに、ジョゼップ・グアルディオラが率いるマンチェスター・シティ、ジョゼ・モウリーニョが色をつけつつあるマンチェスター・ユナイテッドも虎視眈々といったところか。

 合計9チームが本命だろうが、彼らにも必ず死角はある。

 本命を崩す戦いに、フットボールの醍醐味があるとも言えるはずだ。

 その点、伏兵としての気配を感じさせるのは――。ASモナコ、セビージャの2チームではないだろうか。

ジャルディムの回路で躍動する選手たち

 ASモナコはフランス王者で、昨シーズンはCLベスト4に勝ち上がっている。その点、ダークホースとするのは正しくないだろう。シティとのラウンド16は、昨シーズンのサッカー界でトップ5にも入るゲーム内容だった。

 しかし、エムバペなど主力選手の大量放出で下馬評は低い。

 そもそも、グループリーグで同組になったポルト、ライプツィヒ、ベジクタシュはいずれも曲者、どこがグループリーグを勝ち上がってもおかしくない。ポルトは守護神カシージャスが健在で、地力を持つ。ベジクタシュも、ぺぺ、ガリー・ネビル、アルバロ・ネグレドなどを大量補強し、クアレスマのようにトリッキーな選手も擁する。ライプツィヒは攻撃的なサッカーを信奉し、ヴェルナーのように才気煥発な選手もいる。

 この中で、モナコは飛び抜けた存在ではない。

 しかし、指揮官であるレオナルド・ジャルディムは着実にチームを仕上げてくるはずだ。

 ジャルディムは同胞のモウリーニョと同じように選手経験はないが、監督としての有能さを買われ、戦術的には天才の域だと言われる。モナコの"プレー回路を設計"した人物。どうやって人を動かし、横に縦にボールを動かし、スペースを生み出し、ボールを持ち運べるか、その流れをトレーニングで作り上げられる。選手の面子は変わったが、回路は残っている。GKスパシッチ、CBグリク、MFファビーニョ、FWファルカオとセンターラインは昨シーズンと変わらず、屋台骨は同じだ。

 ジャルディムは選手の発掘、抜擢に優れる。それはエムバペだけでなく、バカヨコやベルナルド・シウバなど多くの若手の力を引き出したことでも証明されている。プレー回路が構築されているだけに、そこに配置された選手は迷いがなく、力を発揮しやすい。今シーズンも、ロニー・ロペス、ティーレマンス、ケイタなど21歳前後の選手の飛躍に期待がかかる。バルサの下部組織から獲得したジョルディ・ムボウラも順調に成長した場合、世界の度肝を抜くことになるはずだ。

ベリッソ監督の戦術革新

 一方、セビージャは昨シーズン、ホルヘ・サンパオリ監督に率いられ、旋風を巻き起こし、ベスト16に進んでいる。しかし、レスター・シティを圧倒的に攻め立てながら、PK失敗などもあってアウエーゴールで敗戦。サンパオリがアルゼンチン代表監督を引き受けたことで、「一つの時代が終わった」と囁かれていた。

 ただ、後任のエドゥアルド・ベリッソ監督はサンパオリに似たスタイルを好み、「セビージャでサンパオリが耕した土地で実りを得る」という声もある。

 ベリッソは昨シーズンまでセルタを率い、ヨーロッパリーグではベスト4に進出。そのフットボールスタイルはエキセントリックで、基本は「1対1で勝てるか」という"戦闘力"を突き詰めたものにある。時代遅れと言われるマンマーク戦術を、現代に再現した。徹底して個人を鍛え、昨シーズンはマドリーをも下している。

 セビージャの戦力は、セルタよりも確実に上である。ベリッソの戦術がはまった場合、未知の可能性を秘めている。すでに「終わった天才」と言われたガンソを再起させつつあるように、選手に与える刺激も多い。ノリート、クローンデッリはセルタ時代にその薫陶を受けており、戦術的なサポート役になるだろう。

 まだまだ噛み合わない部分は多いが、ノビシロを感じさせる。現時点で、チームの仕上がりは悪くない。その証拠にCLプレーオフを順当に勝ち上がり、リーガ開幕2勝1分けと好調を維持している。

 もっとも、チャンピオンズリーグはタフだ。セビージャは初戦、強豪リバプールとの敵地戦。ノリートは筋肉系の故障で欠場が濃厚。厳しい試合で勝ち点を稼げるか、それが今後の命運も占う。

 王者マドリーを含めた本命の牙城は高い。まともにぶつかったら、勝ち目はないほどだろう。

 しかしそこに一太刀を入れようと迫るチームがあってこそ――。濃厚な味わいのある大会になる。

 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事