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五輪の前に「スポーツ専門チャンネル」を。

杉山茂樹スポーツライター

日本にいるときより、海外にいるときの方が、スポーツを身近に感じることができる。スポーツ好きにとって、居心地がいいのはどちらかといえば断然、海外になる。

欧州だけではない。これまで取材等で訪れた国は60か国を超えるが、日本の環境より劣っている国はどこだっただろうかと振り返っても、なかなか思い出すことはできない。

たとえば、現地のホテルに到着して、テレビのリモコンをいじり始めた瞬間、それは明らかになる。

「する」と「見る」。

スポーツの楽しみ方は大きく分けて二つあるが、簡単に楽しめるのは後者。テレビのリモコンに触れた瞬間、タイミングさえあえば、それは可能になる。

問題はその確率だ。テレビ画面にスポーツの試合の模様が現れる確率。日本と海外でどちらが勝るかといえば海外になる。

たとえば欧州では、自転車、テニス、陸上競技等々、いろんなスポーツをテレビ観戦することができる。もちろん、サッカーだけが目に飛び込んでくるわけではない。

24時間ぶっ通しで、スポーツばかりを流すスポーツ専門チャンネルも、大抵の国に存在する。テレビ観戦は、海外に滞在する楽しみの一つであり、海外に憧れる一番のポイントだといっても言い過ぎではない。

日本でもCS放送を含めれば、選択肢は多少広がるが、CSを見ることができる環境にある人は10人に1人もいないはず。香川、香川と騒ぐけれど、チャンピオンズリーグを満足にテレビ観戦できている人はどれほどいるだろうか。ましてや、その環境が確実に整ったホテルなど、日本には皆無に等しいといっていいだろう。

チャンピオンズリーグの話を続ければ、日本でテレビ観戦する人は世界的に見て決して多くない。タイ、ベトナム、香港、中国等々、日本よりサッカーが強くない国にさえ劣っている。認知度、浸透度、関心や熱は低いと言わざるを得ない。欧州サッカーに対する好奇心は、彼らの方が日本人より旺盛だ。

これから始まるJリーグも、チャンピオンズリーグと同じ問題を抱えている。CSは全試合放送するとのことだが、それを普通に見ることができる人はほんの一握り。多くの人は、たまにあるNHKの中継を頼りにするしかない。

サッカー人気と一口に言っても、そのメインは代表戦だ。

現在、関心が集まっている野球のWBCも、サッカー同様、日本代表戦。「頑張れニッポン」型だ。平素のペナントレースの中継は、かつてより大幅に激減している。こちらもCSがメインになっている。

それでも野球、サッカーはまだマシな方だ。スポーツ新聞の紙面構成を見ればよく分かる。野球とサッカー。その他の競技でコンスタントにページがあるのはゴルフぐらい。駅伝、マラソン、フィギュアスケートは、コンスタントではない。年に何回かの話だ。「その他」は、紙面全体の1割程度に過ぎない。

スペイン、イタリア、ドイツ、フランスといえば、サッカー強国として知られるが、そのスポーツ新聞に目を通すと「その他」の扱いが、日本より大きいことに気づく。比率が最も大きいのはサッカー。だが、その他の記事も充実している。

絶対量に違いがあるからだ。日本のスポーツ新聞は、純粋なスポーツ紙らしい紙面であるのは、1部24ページの構成だとすれば、12ページ程度だ。残りの12ページは芸能、文化、社会、つり、競馬、エロ等によって占められている。それに対して向こうは24ページすべてスポーツ。サッカー記事が6割を占めても、8ページも残る。

ページが少ない。このことはテレビにもいえる。ページならぬ、チャンネル数が少ないのだ。その絶対数が少ない中で視聴率争いを繰り広げているわけだ。ゴールデンタイム、プライムタイムの合格ラインは10%だという。すなわち、それが見込めないものはコンテンツとして不適格になる。

プロ野球が消えつつある理由は、その数字が見込めそうもないからだ。サッカーで基準を満たしているのは代表戦のみ。最大5%ぐらいしか見込めないJリーグの試合は論外になる。

その結果、CSに追いやられていく。その視聴率は1%にも届かないはずなので、およそ4%の人は、Jリーグを見たくても見られない状態になる。切り捨てられてしまうのだ。

だが、たとえば、地上波の数が現在の倍に増えれば、視聴率争いも10%をめぐる攻防から5%に下がる。するとJリーグの試合もコンテンツに浮上する。「その他」も、時間帯によっては、大丈夫なモノになってくる。切り捨てられる人の数はグッと減る。

そもそもなぜ地上波の放送局数は、何十年も普遍なのか。その絶対数の少なさこそが、スポーツの普及と発展の足かせになっていると僕は見ている。

2020年の五輪開催に、反対する都民は依然として3割近くいるという。それがネックになっているとも言われている。なぜ全員、諸手を挙げて賛成しないのか。スポーツに親近感を抱く人が、少ないからだと僕は思う。熱を高めたいなら「チャンネル」を増やせといいたい。スポーツ専門チャンネルを作れともいいたくなる。

中国の国営放送CCTVの5チャンネルは、スポーツ専門チャンネルで、欧米のチャンピオンスポーツから国内のマイナー競技まで、24時間「ダラダラ」とスポーツを中継している。欧州のサッカーに詳しい人が、日本より多い理由とこれは大きな関係がある。

日本の公共放送、NHKにも欲しい発想だ。視聴率にとらわれず、スポーツの普及と発展に寄与できるメディアはNHKしかない。

国民の日常生活の中に、スポーツを浸透させるためには、スポーツをもっと身近なモノにさせるべき。そのためには、見る環境を整える必要性を感じる。それは、プレイを始めるきっかけにもなるはずなので。

日本はスポーツに関心を寄せるきっかけが乏しい国。そして五輪開催には、そうした問題を一気に解決する力がある。一見、辻褄は合っているようだが、それでは真のスポーツ好きは満たされない。彼らにとって居心地のいい国にはならない。五輪は本来、スポーツ熱の高い国が開催すべきもの。熱不足を五輪開催で解消しようとする日本は、考え方が逆。僕はそう思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

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