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コロナ禍で大打撃の日本相撲協会に希望の光か カレーの次はYouTubeとカードゲームに活路

飯塚さきスポーツライター
昨年11月 筆者撮影

緊急事態宣言下で開催されている大相撲初場所。観客上限数5000人でも、足を運ぶお客さんの数は、連日それに満たない。館内の感染予防対策は万全だが、そもそも現地に出向く、つまり外出することを自粛している人が多いためだろう。場所前の1月6日で、チケットは売り止め。さらに、払い戻しの対応も行っている。

逆風のなか、日本相撲協会は、それでもファンに相撲を楽しんでほしいと、さまざまな企画を打ち出している。試行錯誤の真っ只中で奮闘する、広報部の高崎親方(元幕内・金開山)に話を聞いた。

話を伺った高崎親方(写真:日本相撲協会提供)
話を伺った高崎親方(写真:日本相撲協会提供)

「ステイホーム」に寄り添ったコンテンツ

日本相撲協会では、今場所から新たなサービスを2つ打ち出した。ひとつは、過去の取組動画をYouTubeで有料配信する「大相撲アーカイブ場所」。

これは、ただ昔の名勝負を集めて流しているものではない。これまで何十年と、協会が独自に資料として撮り溜めてきたもので、いままで門外不出だった貴重な映像の数々である。もちろん、中継で流れているNHKのカメラではないため、実況も解説もない。NHKのカメラよりももっと下の画角から撮られており、行司の声など館内の音が鮮明に聞こえる、新鮮な映像である。

現在は、解説でもおなじみの元横綱・北の富士さんが新入幕だった、1964年1月場所の取組動画を、1日分ごとに毎日アップしている。この「アーカイブ場所」では、いわゆる名勝負だけを切り取るのではない。その日の幕内の取組動画すべてを見ることができるのだ。有料コンテンツとだけあって「出し惜しみしない」というのが、太っ腹な広報部の意向である。

取組動画に加えて、約120年前の明治時代の映像や、昭和の時代の二子山部屋の稽古風景と力士インタビューなどといった特集動画も盛り込まれている。通常のYouTubeと同様、会員は動画にコメントを残せるので、「そこからファン皆さんの声を拾って、要望に応えながら改善していきたい」と、高崎親方は話す。

「昔の取組動画は、ファンの人が懐かしく楽しんでもらうことに加え、現役力士にとっては相撲の研究にももってこいなんです。これからは力士にも見てもらえるように、協会内でも広めていきたいですね」

相撲を「見る」人にとってはもちろん、相撲クラブや相撲部の子どもたちとその指導者など、相撲を「取る」人にとっても、必見のコンテンツといえそうだ。

ライトユーザーにもアプローチ

もうひとつの新しいコンテンツは、オンラインで力士のカードを集めて遊ぶ「大相撲コレクション」。無料登録後、さまざまな種類の力士カードを、ユーザー同士で交換したり、順位を競ったり、レアカードを引いて喜んだりしながら進めていくゲームである。筆者も登録しているが、ゲーム内課金をせずとも、無料の範囲で十分楽しめる内容になっている。

「アーカイブ場所」とは反対に、ライトユーザーを取り込もうと始めたサービス。「観戦に来られない人が多いなか、おうち時間で相撲や力士に慣れ親しんでもらおうと作ったものです。場所中には、その日しかゲットできない限定カードもあるので、テレビで取組を見ながら楽しんでもらえると思います」と、高崎親方は語る。

ほかにも、国技館の地下食堂で作られているカレーを再現した、レトルトの「国技館カレー」が昨年末から人気を博しているが、発案者は何を隠そうこの高崎親方である。

「地下のカレーはおいしいんで、あれを一般にも売ったらいいんじゃないかと、ふと思ったんです。そこから販売まで行動するのは大変でしたが、本当に地道に、ネットで“レトルトカレー”なんて検索をかけて、そこで見つけた会社さんにお声がけして、実現した形です」

今場所からは「国技館ハヤシ」も売り出した。親方の発案で、カレー8個・ハヤシ7個の「15日全勝セット」を作ったところ、販売開始から早速大量に注文があったという。

「こういった物販も、ステイホームに合わせて通販で買えるように、今年から通販サイトの運営にも乗り出しました。国技館まで足を運べない人にも、グッズや食べ物を楽しんでもらえたらと思っています」

逆境を新たなチャンスに変えて

コロナによる大打撃を受けるなか、高崎親方は、非常に前向きに、自らが楽しむ姿勢で取り組んでいるように見える。それはなぜか。

「いままでは、本場所があるのが当たり前で、必ずあるものと思ってやってきました。振り返ってみたら、どこかそれに胡坐をかいていた部分があったなと思うんですよね。力士は相撲を取ること、親方は指導することが仕事で、だけどそれだけに頼らないことが必要になってきた。お客さんのため、協会のために、ほかの努力もしなくちゃいけない。コロナにいいことはありませんが、みんながそれに気づけたことに関してだけは、いいきっかけになったなと。“面白きこともなき世を面白く”といった精神で、この苦境を乗り越えれば、我々協会もまた次のステップに行けると信じています」

コロナを乗り切るための努力が、新たな相撲の楽しみ方を増やし、新規ファンの開拓といった二次的な効果を生む。我々がいま目にしている相撲協会の取り組みは、こうした新しい希望の光の源なのかもしれない。

★各コンテンツの詳細はこちら★

大相撲アーカイブ場所

https://www.youtube.com/channel/UC6ZZhovRZpUA4VafgBdECZQ

大相撲コレクション

https://sumo.orical.jp/

日本相撲協会公式オンラインストア

https://shop.sumo.or.jp/

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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