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桜だらけの日本は外来の大害虫クビアカツヤカミキリの天国か=黒衣、黒覆面、赤い首の風貌はまさに凶悪犯

天野和利時事通信社・昆虫記者
凶悪犯を思わせる風貌のクビアカツヤカミキリ。日本の桜並木に大打撃を与えつつある。

 日本の桜並木に壊滅的打撃を与えかねない大害虫が海外からやってきた。その名はクビアカツヤカミキリ。黒衣、黒マスク。首(前胸部)に赤いマフラーと、見るからに凶悪犯だ。

 幼虫が幹から出す大量の木くずと糞の混合物(フラスと呼ばれる)は、すさまじい破壊力を感じさせる。昆虫記者が先日歩いた東京西部の桜並木の道では、7~8割の木が被害に遭っていた。

 2012年に愛知県で最初の被害が確認されてから、あっという間に生息域を拡大し、最近は東京都を含む関東地方でも猛威を振るっている。

触角が長いのでたぶんオスのクビアカツヤカミキリ。幹の上を敏捷に動き回っていた。カメラを近づけるとすぐに飛んで捕殺に失敗。
触角が長いのでたぶんオスのクビアカツヤカミキリ。幹の上を敏捷に動き回っていた。カメラを近づけるとすぐに飛んで捕殺に失敗。

 ◆桜並木だらけの日本はクビアカの天国か

 なにせ、日本は全国桜だらけ。何キロも続く桜並木も各地にある。桜並木のない町は存在しないと言ってもいいくらいなので、クビアカツヤカミキリにとって日本は、果てしなく餌場が続く天国のように思えるだろう。

 クビアカツヤカミキリは梅、桃なども食害するので、農家にとっても大敵。1カ所の果樹園でいったん駆除に成功しても、付近の桜からまた侵入してくる恐れがある。桜好きの日本人をあざ笑うような、悪役カミキリだ。

 ◆懸賞金付きのおたずね者

 もともとの生息地は、東南アジア、中国、朝鮮半島など。木材、梱包材などに入り込んでいた幼虫から日本各地に広がったと言われている。そんなクビアカの首には、各地で懸賞金がかけられている。まるで「おたずね者」だ。

 梅の名産地の中には、付近で幼虫発生の痕跡を見つけ、通報した者に1万円の懸賞金を出すところもあるという。成虫を20匹以上捕殺した団体に対し、1匹につき100円の報奨金を出した自治体もある。

 今回昆虫記者が歩いた並木道は、既にクビアカツヤカミキリの深刻な被害が報告されている場所。根元付近の太い幹を金網で覆うなど、対策が施されている木もあったが、それでも、あちこちに成虫の姿が見られた。フラスの量もすさまじかった。フラスの出る場所は、根元付近が一番多く、根元を派手にやられた桜は枯死する可能性が高い。

桜の根元に積み上がった大量のフラス。
桜の根元に積み上がった大量のフラス。

根元の複数カ所からフラスが出ている木も多かった。
根元の複数カ所からフラスが出ている木も多かった。

対策が施された木もあるが、被害の拡大を防ぐのは難しそう。
対策が施された木もあるが、被害の拡大を防ぐのは難しそう。

 ◆見つけたら瞬殺を

 クビアカツヤカミキリの成虫を見つけたら、その場でつぶす、踏みつけるなどして殺処分することが推奨されている。昆虫記者も、一通り写真を撮ったら捕殺しようと思っていたのだが、根元近くで見つけた成虫は、3、4カット撮影したところで飛ばれてしまい、捕殺に失敗した。被害が深刻な木は数年で枯死することもあるというから、悠長に写真を撮っている場合ではなく、瞬殺すべきだったのだろう。他の成虫は手の届かない高さにいたので、写真を撮るだけで終わってしまった。

 クビアカツヤカミキリは動きが俊敏な上、かなりの飛翔力があることが、今回分かった。その上メスは数百~1000個ほどの卵を産むというので、繁殖力、拡散力は相当なものだ。

 桜が多い日本では、生息地の分断が難しいため、クビアカツヤカミキリの根絶は不可能に近いかもしれない。虫好きができる当面の対応は、積極的に捕殺して、被害の深刻化を防ぐことぐらいだろう。

恐らく誰かに捕殺されたクビアカツヤカミキリ。
恐らく誰かに捕殺されたクビアカツヤカミキリ。

高いところにいたクビアカツヤカミキリ。捕殺のためには、虫捕り網があった方がいいかも。
高いところにいたクビアカツヤカミキリ。捕殺のためには、虫捕り網があった方がいいかも。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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