柔道 熱中症でも高い死亡率 学校柔道120人目の犠牲者
■120人目の犠牲者
柔道で、また子どもが命を落とした。
8月14日の午後、横浜市の私立高校で、柔道部の1年男子生徒が、屋外での柔道部の練習中に熱中症による症状で倒れるという事故が起き、生徒は2日後に死亡した。事故当日、午前中に実践形式の練習をおこない、午後からは2kmのランニング、続けてダッシュをするなかで倒れたという(毎日新聞)
じつは今年の5月に福岡市で、市立中学校1年生の女子生徒が、柔道部の練習中に大外刈りで投げられた際に頭部を打ち、亡くなっている(「119人目の犠牲者 福岡市立の中学校で柔道死亡事故」)。今回の熱中症死で、学校管理下の柔道としては今年2件目の死亡事故となり、1983年以降における学校柔道の犠牲者は120人目となった。
■柔道で熱中症の高い死亡率
これまで柔道では、「頭部外傷」による死亡事故ばかりが注目されてきた。たしかに図1のとおり、1994-2013年度の中高の運動部活動において、頭部外傷による死亡事故の発生率を算出してみると、主要部活動【注1】のなかで柔道は突出して高い。
だが図2のとおり、じつは「熱中症」の死亡率においても、柔道の値はもっとも高いのである。頭部外傷については、柔道は投げ技があるため、そこで受け手が頭部を損傷してしまう。だが、柔道と熱中症の関係はどのように理解すべきか。
■柔道とラグビー
なぜ柔道で熱中症の死亡率が高いのか。この点はまずもって、過去の事例の詳細な検討が早急に進められるべきである。ここではその可能性として考えられる要因を、一つ指摘したい。
その際に手がかりとしたいのが、上記の主要運動部活動には含まれていないものの、ラグビーにおいても熱中症の死亡率が高いということである。100万人中、柔道は4.0人、ラグビーは8.3人であり、柔道よりもさらに高い。(なお頭部外傷においてもラグビーの値は高く、柔道が100万人中19.5人、ラグビーは13.8人で2番目に多い。)
■熱中症のリスクファクターとしての「肥満」
柔道とラグビーはその競技の特質上、体重の大きい選手が多いことが共通点である。体重が大きく肥満体型になると、軽い運動でもエネルギー消費量が大きいため熱が発生しやすい。そして脂肪が熱の放散を妨げるため、体温が上昇する。それが熱中症を生じさせやすくする。
実際に、1990~2011年度の22年間に発生した、学校管理下の熱中症による死亡事例38件では、肥満度が標準体重から20%を超えているケースが、全体の71%を占めているという【注2】。肥満は熱中症の重大なリスクファクターである。
熱中症の要因として、肥満の影響はまだまだ知られていない。とりわけ柔道やラグビー、相撲といった体重の大きい生徒が集まりやすい部活動では、他の部活動以上に、徹底した熱中症対策が必要である。
【注1】
ここでいう主要部活動とは、中高いずれにおいても2004年度時点(1994-2013年度の中間地点)の部員数が3万人以上の部活動を指す。
【注2】
日本体育協会、2013、『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』p. 38.