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大谷翔平を残留させるためエンジェルス・オーナーは真のスペンダーになれるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷翔平選手との再契約はモレノ・オーナーの判断に委ねられている(写真:ロイター/アフロ)

【MLBネットワークが2年連続で大谷選手をトップ選手に選出】

 すでに日本でも報じられているように、MLBネットワークは現地時間の2月23日、今シーズンのトップ100選手の最終10選手を発表し、大谷翔平選手が2年連続で1位に選出された。

 大谷選手の1位を発表した番組に出演し、同ネットワークで解説者を務めるハロルド・レイノルズ氏とカルロス・ペーニャ氏は大谷選手について、「今でも毎年のように成長している」、「MVP&サイヤング賞の可能性はある」など次々に絶賛する言葉を口にしている。

 今回のランキング発表からも理解できるように、MLB界における大谷選手の選手価値は高まるばかりで、改めて今シーズン限りで契約が切れる大谷選手の去就が注目されるところだ。

【MLB敏腕記者は年俸総額6億ドルとの予想も】

 ちなみに今オフにおいてでさえ、大谷選手の去就は米メディアの間で大きな関心事になっていた。そして多くのメデイアが大谷選手の契約総額について、MLB史上最高額(マイク・トラウト選手の4億2650万ドル)を超え5億ドルに到達すると予想している。日本でも大きく報じられていたので、ご存知の方も多いことだろう。

 そんな中、業界屈指の敏腕記者の1人として知られるニューヨーク・ポスト紙のジョン・ヘイマン記者が同じく2月23日に、「ショウヘイ・オオタニはMLB初の6億ドル選手になるのか?」というタイトルの特集記事を公開し、5億どころか6億ドルに到達する可能性を指摘している。

 ヘイマン記者によれば、大谷選手がFA取得前にエンジェルスと契約延長に合意することはないと予想した上で、彼を獲得できる有力チームとして6チームを挙げ、それらをランキングづけしている。

 そのランキングは、1位ドジャース、2位メッツ、3位ジャイアンツ、4位エンジェルス、5位パドレス、6位ヤンキースとなっている。

 記事中でヘイマン記者はエンジェルスについて、「アルテ・モレノ・オーナーは、現所属チームの方が他チーム以上に好機を有していると話してくれた。エンジェルスは彼に二刀流のチャンスを与え、素晴らしい球場を有している。しかも彼らが史上最高額の契約を結んだチームだ。彼の在籍5年間でプレーオフに進出できていないが、改善しているように見える」と解説している。

【モレノ・オーナーの本気度に疑問を呈する米メディア】

 実はヘイマン記者は今月初め、ここ数年地元メディアの前でまったく発言していないモレノ・オーナーをオーナー会議で直撃し、大谷選手との再契約に前向きな発言を聞き出すことに成功していた人物だ。

 だがモレノ・オーナーはヘイマン記者に語っているように、大谷選手のエンジェルス残留に本気で取り組もうとしているのだろうか。すべては彼がエンジェルスを強豪チームに変貌させるため、大谷選手に止まらず精力的に投資していくかどうかにかかっているのだが、米メディアの間では否定的な見方が強いように見える。

 これまでのモレノ・オーナーの球団経営を見てきた米メディアからすれば、メッツのスティーブ・コーヘン・オーナーやパドレスのピーター・サイドラー・オーナーのように、モレノ・オーナーがチームを強化するためなら無尽蔵で投資を続ける“スペンダー(どんどんお金を使っていく人)”に変貌するとはどうしても考えにくいからだろう。

【大谷選手残留にはぜいたく税の限度額超過は必至】

 昨年8月にチーム売却の意向を明らかにしたものの、今オフの補強もモレノ・オーナーの指揮下で進められた。ペリー・ミナシアンGMはオフシーズン出だしから積極的な補強に着手し、次々に補強ポイントを埋めていった。

 だがその一方で、大物FA選手に手を出すことなく中堅クラスのタイラー・アンダーソン投手やブランドン・ドルーリー選手らの契約に留めるとともに、ハンター・レンフロー選手やジオ・ウルシェラ選手をトレードで獲得するなどして、明らかに大型投資を避けていた。

 それでも今シーズンの年俸総額は史上最高の2億1200万ドルに達し、ぜいたく税対象総額も限度額(2億3300万ドル)ギリギリの2億2600万ドルを上回るほどになっている(資料元:Fan Graphs)。

 今回の補強が成功し、仮にエンジェルスがシーズンを勝ち越しし、ポストシーズン進出できれば、勝利を最優先する大谷選手との契約交渉を有利に進められることになるだろう。

 だがチームがその先も勝ち続けるには、一過性の補強ではなく、さらにコア戦力を維持しながら戦力補強を続けていくことを強いられることになり、そこに大谷選手とMLB史上最高額で再契約するようなことになれば、どう考えてもぜいたく税の限度額(2024年は2億3700万ドル)を突破するのは必至の状況だ。

【就任当初はスペンダーだと思われていたモレノ・オーナー】

 ただ2003年5月にエンジェルス買収に成功した当時のモレノ・オーナーは、どちらかというとスペンダーだと考えられていた。

 前年にワールドシリーズを制覇した主力選手たちの契約に積極的に取り組むとともに、2003年オフには大物FA選手だったブラディミール・ゲレロ選手を獲得するなど、2004~2009年の6年間で5回の地区優勝を飾る黄金期を築き上げることに成功している。

 2010年以降チームが低迷期を迎えても、アルバート・プホルス選手、ジョシュ・ハミルトン選手、アンソニー・レンドン選手ら大物FA選手の獲得を続けるとともに、チーム生え抜きのトラウト選手を残留させるため前述通りMLB史上最高額で契約延長を結んでもいる。

 そうした積極的な選手補強を続ける一方で、自分の意見を強要する現場介入を行い、当時のGMと確執を起こすワンマンぶりでも知られてもいた。

【本当にぜいたく税の限度額を超える意思があるのか?】

 そんなモレノ・オーナーだったが、2002年から導入された現行のぜいたく税制度に関してはずっと慎重な姿勢を続けてきた。2004年に一度だけ限度額を超え、約93万ドルのぜいたく税を支払っているが、それ以降は一度も限度額を超過していない。

 さらにロックアウトにまで発展した昨オフの労使交渉では、選手会の要望通りにぜいたく税の限度額を引き上げることに反対した数少ないオーナーの1人だと判明し、米メディアから多くの批判を浴びたこともあった。

 そして前述通り、昨年8月に突如してチーム売却を検討する声明を発表したと思えば、今年1月に前言を撤回し、今後もチーム経営を継続する意思を明らかにしているのだが、結局今オフの選手補強でもぜいたく税の限度額を超えることを回避しているわけだ。

 残念ながら今後もモレノ・オーナーの真意を確認するのは難しいだろう。だからこそ残り続ける疑念は、彼が真のスペンダーになるつもりがあるのかだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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