旭川中学生いじめ凍死事件の再調査報告書 事態悪化の原因は苦痛への理解不足対応だった
北海道旭川市の女子中学生が性的いじめを受け自死した問題について、再調査委員会はいじめと自殺の因果関係を認めるとした結果を記者会見(2024年6月)と最終報告書(2024年9月)によって公表しました。いじめは2019年4月で自死は2年後の2021年2月13日。調査そのものも紆余曲折であり、長い年月がかかりました。再調査委員会の報告書は、加害生徒の問題行動のみ認定し、被害生徒の心身の苦痛を理解する指導をしなかった初動の誤りを厳しく指摘した内容となりました。
いじめ認定より事件終結を急いだ市教委と警察
この事件は、当初教育委員会が設置した第三者委員会で調査が進められましたが、内容が被害者目線ではないとされ、再調査委員会によって報告書が公表されました。筆者が専門とする最悪の事態を防ぐ初動における関係者の情報共有、クライシスコミュニケーションの視点から、どこで判断を誤ったのか、今後の教訓は何か、2つの観点から考察します。
事件は2019年の4月に遡ります。中学校に入学した当該生徒はクラス外の男女数名から性的画像の送付や自慰行為の強制を受けるようになり、6月22日には10人に囲まれ川に入水するという事件が起きます。かけつけた警察は児童ポルノ法に抵触する行為として事件化するかどうかを検討する一方、生徒らに連絡して画像を消去させました(一部残る)。
被害生徒は事件後入院し、6月23~26日、被害生徒の母親が学校と市教委に相談し、市教委は警察を訪問。7月11日、入院中の被害生徒に対して警察は立会人がいない中で事情聴取を行い、本人が「忘れた」と回答したことから、7月18日に警察は事件終了の報告を市教委に行いました。これは結論ありきの聴取であり、フラッシュバックの原因となりました。8月20日から転校先での生活が始まりましたが、被害生徒はPTSDを発症。入院と通院を繰り返します。
■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供)
翌年2020年1月5日、被害生徒の母親が子供支援センターに「学校がいじめを認めない」と相談。さらに1年後の2021年2月13日、母が出かけた後、被害生徒は氷点下17度の中、家を飛び出して失踪。直前に友人に自身が受けたいじめについてメッセージを残す。3月23日公園で凍死した状況で発見。4月15日、文春オンラインで報道されたことから苦情が市教委に殺到。4月22日に第三者委員会が設置され、翌年2022年3月27日、ようやく第三者委員会が6項目のいじめを公式に認定したものの、この時点ですでに発生から3年。
同年5月31日に遺族が「十分ヒヤリングされていない」とする所見書を提出したものの、「いじめと自死との因果関係は不明」と結論づけた報告書が9月20日に提出されました。
10月7日、市議会は再調査委員会を議決し、市長直属の再調査委員会が12月22日に発足。1年半後の2024年6月30日に再調査委員による記者会見を経て9月13日に報告書が公表されました。実に5年の歳月を費やしたことになります。
被害生徒の苦痛理解なしの形式的謝罪
調査報告書の中では「学校の調査は出来事に関与した生徒の問題行動の調査にとどまっている」「いじめの調査においては、それがどれほどの心身の苦痛を与えているかを評価することが不可欠となってくるが、本件においてはこの点の対応がされていない」(P169)。加害生徒に対しても被害生徒の「心身の苦痛への理解を促すような指導はなされていない」。学校は「警察沙汰にまでなった重大性の認識に留まって」いることが、被害生徒の母親の疑念を生み、「母親の疑念が解消されないまま『謝罪』という形だけが先行した。いじめとは何か、いじめの解決とは何かを学校が理解していない結果と言わざるを得ない。この点については市教委についても同様である」。謝罪の場も加害生徒が被害生徒の「心身の苦痛に向き合うというよりは、自己の破廉恥な行為を反省するというものにとどまった」(P192)と報告されました。ここに初動の誤りと失敗の本質があると言えます。
「いじめを受けてから1年たちそうなのに私はなにもできません」「ずっとひきずっている」等とする被害生徒が残した言葉の分析と失踪直前にいじめのことを知人に送信していることから、調査委員会はいじめと自死の因果関係を認めました。「いじめがなければ重大事態が起こらなかったかどうかという観点で原因を見極め、そう理解できる場合にはいじめが主要な原因になっている、と判断する必要がある」と結論づけました。
学校が近視眼的になってその場対応に追われてしまうのを防止するために市教委がありますが、「市教委がいじめ防止対策推進上のいじめに対する専門的知見を持っていたとはいいがたい状況」(P194)でした。学校、市教委だけではなく、立会人なしで入院中の被害生徒に聴取させた病院と警察の行動も全て被害を悪化させる対応でした。教訓は、学校、市教委、専門医、警察が連携し、地域でいじめ問題への体制づくりを進めていくことです。
【24時間子供SOSダイヤル】
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
<参考>
旭川市いじめ問題再調査報告書・公表版(2024年9月13日)
https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/kurashi/218/266/270/d080391.html
旭川市いじめ問題再調査委員会 記者会見(2024年6月30日)