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水上アスレチック式ウォーターパーク攻略ガイド 爺さんと孫の組合せでもバッチリ、けどNG行為も!

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
水上アスレチックで遊ぶ、還暦を過ぎた3人組(筆者撮影)

 全国各地に広がりを見せている水上アスレチック式ウォーターパーク。各地に設置されたウォーターパークには多くのファミリーが集結、爺さんと孫の組み合わせでも大歓迎。安全に楽しむための水上アスレチック式ウォーターパーク攻略ガイドをお届けします。

【 孫に聴かせたい】NHK みんなのうた「カッパは知っている」

水上アスレチック式ウォーターパークってなんだ?

 全国の水上アスレチック式ウォーターパークは、その正確な数がつかめないほどの速さで各地に導入が進んでいます。少し検索しただけでも、全国のあちらこちらに、海ばかりでなく湖にも設置されている様子がわかります。次のところが例として挙げられます。

・逗子海水浴場/逗子海岸ウォーターパーク(神奈川県)

・Xtrem Aventures HAKUBA TSUGAIKE WOW!/ポチャダス(長野県)

・白ひげ浜 水泳・キャンプ場/アドベンチャーウォーターパーク(滋賀県)

・万座ビーチ/海上アスレチック 万座オーシャンパーク(沖縄県)

 水上アスレチック式の特徴は、風船の技術を応用した空気膜構造体遊具からなるアスレチックであること。陸上のアスレチックをフィールド・アスレチックと呼ぶなら、こちらは水の上に浮かぶので水上アスレチックです。

爺さんも楽しめるか?

 筆者は水難学会木村隆彦会長、安倍淳理事と共に、神奈川県逗子市にある逗子海岸ウォーターパークに行ってきました。ここの水上アスレチックでは遊具がなんと汀線から沖に200 mほど離れた海上に浮かんでいます。砂浜から見るとすぐ先に見えるのですが、プールで200 m泳ぐことを想像したら「とてつもない距離」です。

 でも、大丈夫です。泳ぎに自信のない利用者は水上バイクにけん引されたボートにのってアスレチックに上陸します。泳ぎに自信のある利用者はアスレチック遊具に直接つながっているロープをつたいながら「レスキュー隊のように」砂浜から遊具に向かいます。カバー写真がその様子です。還暦を過ぎて何事にも不安のある筆者ら3人組ではありますが、水の中の事なら何ら問題なく、難なくアスレチックに到着しました。

 早速、底抜き遊具に挑戦です。動画1をご覧ください。太い横並びの空気棒の上をふらつきながら歩いて向こう側に渡る訓練です。3人組の中で最も運動神経がよいと思われる安倍淳が先頭を切りましたが、残念、あと1本という所で落水してしまいました。孫と一緒ならさぞや大笑いされて、楽しかったことでしょう。

動画1 底抜き遊具でまんまと落水する安倍淳(筆者撮影、25秒)

 ここに浮かぶ遊具の本体はポリ塩化ビニルでできています。ポリ塩化ビニルは耐久性・耐候性に優れていますので、このようなエアー遊具には最適な材料です。そして表面を加工することにより、滑りやすくしたり、滑りにくくしたりすることが可能です。

 おおきく一回りできるアスレチック遊具には、なんてことのない斜面の坂があちらこちらに仕組まれています。図1右では斜面の這い上がり訓練を実行中の木村隆彦が滑ってこけていますが、この遊具の斜面表面は特に滑りやすくて、素足ではそうそう上がることができません。滑って転ぶ爺さんを間近にみたら、孫は大喜びすること確実です。図1左の別の斜面は滑り台になっています。ここも滑りやすくて、簡単に下に滑り降りることが可能です。爺さんでもケガすることなく歓声をあげながら楽しむことができます。

図1 滑りやすい表面はハプニング続きでファミリーの大爆笑を誘う(筆者撮影)
図1 滑りやすい表面はハプニング続きでファミリーの大爆笑を誘う(筆者撮影)

 図2には、別の位置にある滑り台と円盤状の渡し遊具が写っています。滑り台からは直接海水面に落ちることができます。円盤状の遊具もバランス悪く作っていますので、だいたいの人がここで落水するようになっています。落ちても救命胴衣を着装していますから、すぐに海面に浮いてきます。もちろんファミリーの幸せな笑い声に包まれます。

図2 滑り台と円盤状の遊具。ファミリーの笑いが最もあふれるところだ(筆者撮影)
図2 滑り台と円盤状の遊具。ファミリーの笑いが最もあふれるところだ(筆者撮影)

 図3では遊びに来ていたファミリーのお子さんが底抜き遊具で落水しています。お母さんと思われる人が近づいて引きあげ救助にあたっています。もちろん、笑い声の中での救助活動です。

図3 底抜き遊具から落水したお子さんとお母さんと思われる人(筆者撮影)
図3 底抜き遊具から落水したお子さんとお母さんと思われる人(筆者撮影)

 さて落水と言えば、重大な水難事故を誘発する一番のきっかけでもあります。「救命胴衣を着装した落水は、即救助対象となる」と水難救助を専門とする者であれば、四の五の言わずに常にそう考えます。救命胴衣で浮遊している人は直ちに上陸させないと思わぬトラブルに巻き込まれるからです。図3のようにファミリーで協力し合って直ちに救助できるようになっているのも、こういった水上アスレチックの特徴と言えるでしょう。

水上アスレチックのNG行為は?

 2019年8月に東京のあるレジャーランドで発生した水難事故では、幼い女の子が水上エアー遊具の下にもぐって溺れているのが発見されました。事故当時女の子は救命胴衣を着装していましたが、それにもかかわらず水面の下にある遊具の底の下方にもぐってしまったのです。

 遊具の下にもぐってしまうきっかけは諸説ある中で、水難学会では落水後のNG行為として決められた這い上がり場所以外からの這い上がりはダメだと広く啓蒙しています。動画2をご覧ください。この動画は水面から40 cmほどの高さがあるエアー遊具につかまり、這い上がろうとしている様子から始まります。遊具につかまりながら脱力すると、身体の浮力バランスが不安定となり、下半身が遊具の下に簡単にもぐりこむことがわかります。一方、水面から10 cm未満の高さの遊具(定められた這い上がり箇所)に腕をかけると、下半身が遊具の下にもぐり込みません。

動画2 高さのあるエアー遊具と水面からの高さがあまりないエアー遊具との這い上がり特性の差を検証している様子(筆者撮影、32秒)

 この動画は、救命胴衣の言わば「当たり前」を示しています。救命胴衣は突然の落水時に顔を水面に出して呼吸を確保することを目的に開発されてますので、レジャーなど水中の常時使用は、工業製品としては想定されていません。繰り返すと「落水時に浮いて呼吸を確保するデバイス」を想定した工業製品です。高さのあるエアー遊具につかまったり、浮力のある靴を履いていたりするレジャー性の強い使用状況では、時に浮力のバランスが崩れ、救命胴衣着装のまま溺水に至るきっかけにつながります。

万が一の溺水事故に備えて

 救命胴衣の当たり前が露呈してしまった時などの万が一の溺水事故に備えて、逗子海岸ウォーターパークでは次のような安全対策を立てています。

1.落水想定エリアを遊具やロープで囲むように設定し、常時3人いる監視員の目の届く範囲としている

2.落水想定エリアに這い上がり箇所を複数設置して、落水者がただちに簡単に自力で這い上がれるようにしている

3.水中での身のこなしに自信のない人には沈水センサー付きで警報発報可能な救命胴衣を貸し出している

 3.の沈水センサーを図4に示します。このセンサーはアスレチック遊具付近の海面上に浮かんでいるブイの受信機とアンテナを介して常に通信しています。この沈水センサーが水面下のもぐると、その通信が途絶えますので、その性質を利用して、一定時間信号の送られてこないセンサーの番号を受信機から監視員や監視所にいる人の携帯電話に速報するようになっています。ファミリーは予めお子さんの救命胴衣に付けられたセンサー番号をおぼえておいて、その番号が放送で流れたら、すぐにお子さんの安全確認を行うとともに近くの監視員に「自分の子供のセンサー番号だ」と知らせるようにします。

図4 SS-2のように識別番号が振られているのが、沈水センサー。救命胴衣の肩に装着されている(筆者撮影)
図4 SS-2のように識別番号が振られているのが、沈水センサー。救命胴衣の肩に装着されている(筆者撮影)

広がり続ける水上アスレチック

 水上エアー遊具の大手メーカーであるBRAVOによれば、2015年に製品を初出荷してそれ以来、海岸、湖畔、プールなどに水上アスレチックが広がりを見せています。これは全国各地の観光地にて観光客を誘致したいという自治体の思惑と合致しています。逗子市経済観光課長の黒羽秀昌さんによると「市民はもちろんのこと、観光客の皆さんにも逗子の海岸の魅力を知ってほしい」と、水上アスレチックを後押ししています。

 ただ、その一方でBRAVOの加藤政昭社長は「水上アスレチックの広がりとともに的確な安全対策がそれに伴っているか、心配だ」と懸念しています。

 新しい水上文化には必ず新たな事故が発生するのが常ですから、筆者としても現場をめぐり、楽しさの追求と安全の追求とのバランスがとられているのか常に気を付けながら、水上アスレチックを安全に楽しむための攻略法を引き続き発信していきます。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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