Yahoo!ニュース

井上尚弥と同じ夢を描く”ニュー・モンスター”村田昴とはいったい何者なのか

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
村田vsネグレッテ(写真:Mikey Williams / Top Rank)

鮮やかな一撃KO勝利

 米カリフォルニア州フレズノのセーブマート・アリーナで25日(日本時間26日)大手プロモーション「トップランク」が主催し、スポーツ専門局のESPNが中継したイベントにホープの一人、帝拳ジム所属の村田昴(すばる・26歳)が出場。アンダーカードのスーパーバンタム級4回戦でホセ・ネグレッテ(米・24歳)に初回1分47秒KO勝ちを飾った。

 サウスポーの村田はスピーディーな右ジャブを決めた後、左ストレートをボディーに送る。そしてジャブから左ストレート一閃。リング中央に脚を折り曲げて落下したネグレッテは起き上がったものの、ヒザが大きく揺れて上体が傾く。レフェリーはためらうことなく、ストップをコールした。

 鮮やかな勝利を収めた村田は4勝4KO無敗。米国リングは2021年6月ラスベガスで行ったプロデビュー戦以来2度目。その時ケビン・モンロイ(米)に2回TKO勝ちした村田はその後22年にフィリピン人選手2人にストップ勝ちして一昨日の試合を迎えた。期待に反して今まで試合数が少ないのはコロナパンデミックが影響したのと対戦相手を見つけるのが難しかったと推測される。

アマチュアで5度タイトル獲得

 ここで村田の経歴、アマチュアキャリアを振り返ってみよう。

 村田は1996年10月19日、和歌山県岩出市出身。貴志川高校時代に高校3冠を達成し14年、ブルガリアのソフィアで開催されたユース・オリンピックで銅メダルを獲得した。

 その後、日大に進み、途中でクラスをフライ級からバンタム級へ上げ、第71回全日本大学王座決定戦(vs芦屋大。2017年12月)制覇や翌18年5月から7月にかけて行われた関東大学ボクシングリーグ戦優勝に貢献。同年10月に福井県で開催された第73回国民体育大会・成年男子バンタム級優勝。同年12月に挙行された第88回全日本ボクシング選手権大会でバンタム級制覇を成し遂げた。

 そして自衛隊体育学校へ進路を取り、東京五輪出場を目指したが、19年に行われた国内最終選考会で、アマチュア通算13冠の堤駿斗(当時は東洋大)に敗れ、プロ入りの決意を固めた。アマチュア戦績は80戦68勝12敗。

元世界王者が舌を巻いた実力

 20年9月にプロテスト(B級)に合格した村田は「目標はバンタム級4団体のベルトを統一すること。注目される選手を目指して実力を発揮できるよう頑張ります!」と力強いコメントを口にした。“モンスター”井上尚弥(前世界バンタム級4団体統一王者。大橋)が達成した偉業を当時から夢見ていたのだ。本人は118ポンド(バンタム級)、122ポンド(スーパーバンタム級)のどちらの階級でもオーケーだと明かす。

 さて、全日本選手権で優勝した時の専門誌の記事を読み返すと「村田はもっと早くからトップに立ってもおかしくない逸材。一時伸び悩みの時期もあったが、最近は吹っ切れたのか、大学リーグ戦で日大の優勝に貢献し、先の福井国体でも初優勝と勢いを取り戻している」という記述がある。米国リングの一撃ノックアウト劇から想像しにくいが、これまでのキャリアは、けっして平坦ではなかったことがわかる。

 それでも村田を知る日本の関係者に聞いてみると、ただ者ではないと認識させられる。その一つは現役の元世界チャンピオンの証言。スパーリングで村田と手合わせした彼は「スピードがあってパンチもハード。もしかしたら、すばるは、とてつもない地点まで到達するのではないか?」と瞠目したという。この元世界王者の体験談は今後、村田をウォッチする上で、ファンの観戦意欲を刺激して止まないだろう。それがまだプロで4戦しか行っていないルーキー並みの選手というところがすごい。

ネグレッテ(右)に左ストレートを見舞う村田(写真:Mikey Williams / Top Rank)
ネグレッテ(右)に左ストレートを見舞う村田(写真:Mikey Williams / Top Rank)

50ラウンドやっても大丈夫

 また、帝拳ジムのトレーナーは「マラソンランナーに匹敵する健脚の持ち主」と村田を評価。ロードワークで10キロメートルを走ると、各1キロを3分を切るスピードで走破するという。加えて「50ラウンドだって戦えるかもしれない」と無尽蔵のスタミナに言及する。ちなみに旧知の米国在住トレーナーは「拳はただの道具に過ぎない。ボクシングでは(土台となる)足腰の強さが肝心だ」と語っている。村田の素質に感心させられる。

 今回のネグレッテ戦はメインの元WBC・WBO世界スーパーライト級統一王者ホセ・ラミレス(米)vs元IBFライト級王者リチャード・コミー(ガーナ)などを含めた当日のイベントで、村田のパフォーマンスは「ベストパンチ」に選ばれた(試合はストリーミング配信のESPN+で中継)。今年1月からラスベガスでトレーニングを敢行した村田は、帝拳ジムによると一度日本へ帰国して5月に再び渡米する。ラスベガスを拠点に調整し、次回は6月か7月にまた米国でリングに登場する予定。現地のトレーナーには現役当時、“悪魔王子”ナジーム・ハメド(英)と激闘を演じたオギー・サンチェス氏が就いている。

長谷川+山中=すばる?

 米国で今後、村田が名前を浸透させる要因としてファーストネームと同じ自動車メーカーのCMがテレビで頻繁に流れていることが挙げられる。ラストネームも同門の元世界ミドル級チャンピオンといっしょというのも知名度アップにつながるかもしれない。

勝利アナウンスを受ける。次回リングが楽しみだ(写真:Mikey Williams / Top Rank)
勝利アナウンスを受ける。次回リングが楽しみだ(写真:Mikey Williams / Top Rank)

 いよいよ頭角を現してきたニュー・モンスター。そのスタイルは「長谷川穂積(元WBC世界バンタム級&フェザー級王者)と山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)をミックスしたもの」(上記トレーナー)という見方もされる。私は彼のルックスがモンスターに少し似ている気もするのだが、どうだろう。本人はキッズ時代からジムに通って薫陶を授かった長谷川氏を心から尊敬しているようだ。

 名門・帝拳ジムの期待を背負いながら本場で道を切り拓こうとする「第2の村田」。“すばる”を辞書で引くと「牡牛座にある星団の名」とあり、「統一の意味の雅語“すばまる”の変化」と出ている。これはプロ入りの時に発した言葉につながる。初志貫徹となれば、最高の未来が待っている。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事