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五郎丸歩の初先発黒星に、サンウルブズ勝利への道が見える?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
サンウルブズが敗れた2月27日、レッズの五郎丸も開幕節をベンチで迎えた。(写真:ロイター/アフロ)

昨秋のワールドカップイングランド大会で日本代表のゴールキッカーを全うし、一躍、「時の人」となった五郎丸歩が、3月5日、レッズのフルバックとして世界最高クラスのスーパーラグビーで初先発した。サンコープでウェスタン・フォース(フォース)に6―22で屈し、五郎丸個人も強みを活かしつつ反省点も残したろう。

ただその試合の内容は、別な光を示す。スーパーラグビーへ日本から初参戦するサンウルブズの勝利の可能性、である。

五郎丸、初先発。

五郎丸は、五郎丸としての良さを示した。

グラウンドの左中間または右中間で相手を引きつけながらのパスを重ね、味方の強力なランナーを走らせた。

チームとしては陣地獲得に苦しんでいたが、五郎丸が蹴ればほぼ確実にレッズは前に出られた。例えば前半6分には、自陣22メートル線付近から一気に敵陣22メートル線付近までキックを飛ばした。

肉体接触が多くパスを前に投げられないラグビーでは、キックでの陣地獲得が試合運びを左右する。敵陣の深い位置でプレーできれば、たとえ守っている時間でも相手のミスなどで一気に得点機を手繰り寄せられる。逆に自陣では、攻めている途中に反則を犯せば相手にペナルティーゴールなどを与えることとなる。レッズはプレーの起点であるスクラム(選手が8対8で押し合い、その下へボールを転がすプレー)に強みを持っている。最前列3人のうち左右のプロップが相手の中心部へ圧力をかけ、相手の塊を崩す。反則を誘う。五郎丸のように陣地が取れてゴールキックを蹴られる選手がいたら、勝利の方程式を描きやすいはずだった。

もっともレッズは、攻め込んでからのミスを重ねた。例えば前半終了間際、敵陣左タッチライ際から球を継続し続けるも、ゴール前右でランナーが孤立。球を乱してしまう。そいつをフォースは前方へ蹴り出し、レッズは一転、自陣ゴール前まで押し戻される。たまらず反則を犯し、ペナルティーゴールを決められた。攻守両面でスクラムを圧倒していたのに、3-9とリードされハーフタイムを迎える。

そんな流れの渦中、五郎丸は後半に2本のペナルティーゴールを外した。かねて「機械ではない。外す時は外す」と話す五郎丸だが、成否を受けて首脳陣にどう評価されるか…。

レッズの自滅、ということは…。

ともかく、試合はレッズの自滅ぶりが目立った。裏を返せば、ウェスタン・フォースが圧倒的なチーム力を示したわけではなかった。ここで生じるのは、日本のファンに支えられるサンウルブズとの直接対決への期待感だ。

サンウルブズは、他クラブより数か月は短い約4週間の準備期間で組織を整備。スーパーラグビー経験者の堀江翔太キャプテンは「(強みは)戦術戦略を皆が理解しているところ」と胸を張る。事実、13―26で落とした2月27日の開幕節(東京・秩父宮ラグビー場)でも、簡潔な攻防の組織で接戦を演じた。大型選手の揃う南アフリカベースのライオンズを向こうに、「低いタックルは通用した」と守備リーダーの稲垣啓太。要は、大男相手の肉弾戦も、場面によってはイーブンに持ち込める。

サンウルブズはフォースと、5月7日にホームの秩父宮で対戦する。現時点での両者の力量差を、例えば昨季フォースに在籍したサンウルブズの山田章仁はどう思うか。「能力的にそんなに差があるとは思えない」。対話の延長で明らかに言った。

スクラムと分析力が鍵?

では、サンウルブズがフォースと差をつけられそうな要素はどこか。スクラムと分析力だ。

まず、スクラム。この日のフォースは、レッズの充実したパックに苦しみ続けた。

一般論として、スクラムでは強いものがまとまれば勝つ。まとまりを作るには、練習で自分たちがどう組むかを定義づけ、反復練習をするほかない。昨秋のワールドカップイングランド大会で史上初の3勝を挙げた日本代表も、マルク・ダルマゾスクラムコーチのもと組んで、組んで、組みまくっていた。結果、サモア代表との予選プールBの第3戦でスクラムでのペナルティートライ(相手の反則がなければトライが決まっていたと判定されれば、トライと同じ点数を得られる)を奪った。

その日本代表をベースにしたサンウルブズも、初戦の序盤はスクラムに苦しんでいた。しかし、もともと「低くまとまる」というプランは共有していた。さらにライオンズ戦では、最前列中央の堀江が、代表時代に培った「スクラムごとにちゃんとトークする」という財産を活かした。後半は、相手ボールを奪う場面も作った。さらにいまは、ダルマゾがジャパンに課していた練習を採用。堀江らはスクラムを組み合いながら、「1、2、3」と唸る。「1」で膝を落とし、低い姿勢を取る。「2、3」で、所定の方向へ歩みを進める。本番で相手に揺さぶられても、まとまりを崩さないようにするためだ。選手のアイデアを活用し、方向性を明確にしている。

フォースとて、今後のシーズンで何らかの修正は施すだろう。ただ、現段階では試合中の修正がしきれない状態だったのは確かだった。

次に、分析力。かつて下位に低迷したレベルズでプレーしていた堀江は、こんなことも言っている。

「(スーパーラグビーは)個々のコンタクトの強さはナショナルチームと一緒。ただ、僕の経験上、むちゃくちゃ凄く相手の分析をしているってわけではない。結構、個々の能力でやっている部分がある」

「分析、している分にはしているんですけど、(その内容を)そこまで選手が気にしていないとか、選手が(分析に基づき用意したプレーを)その通りにやらないということがある。右に行く、って決まっているのに、左に行って、そのまま抜けちゃったりする。でも、それをやり過ぎると(突破した先で)人(相手)がたくさんいて、捕まっちゃったりもする。チームがあっての個人の判断というのは、(サンウルブズの)皆はわかっていると思う」

対戦相手のくせを逆手に取って好機を手繰り寄せるなど、事前準備が奏功するシーンは一部のチームではほとんど見られない、ということだ。かたやサンウルブズは、「チームで戦う」と堀江は断ずる。

レッズ戦でのフォースは、接点での相手ボールへの絡みつき、いわゆる「ジャッカル」で相手の反則を奪ってはいた。ただそれに対しても、きっと堀江らは警戒心を持って臨むだろう。13日にシンガポールでチーターズ戦をおこなうが、「ジャッカルが多いチーム。それには警戒する」。具体的には、ランナーが低い前傾姿勢で相手にぶつかり、懐の下から球を出す。相手にボールを見せないようにぶつかることで、相手が「ジャッカル」を試みる隙を最小限に止めようというのだ。

ライオンズ戦では、1つの接点での圧力が2、3手先でのチャンスロスに繋がることもあった。田邉淳コーチは「国内で2人でボールを出せる接点で3、4人と人数をかけて(サポートの)人数が足りなくなる(ところがあった)」。要は、現状ではチーターズにもフォースにも問答無用の力の差で苦しめられる可能性はある。ただ、稲垣が「低いタックルは通用した」というように手も足も出ないわけではない。南アフリカなどへのタフな遠征が続くこの先。コンタクトの強度を右肩上がりにする計画を首脳陣が示せば、5月のフォース戦でほほ笑む可能性はより広がる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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