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遠い場所で相談・支援を受けたいニーズに応える

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
地域を越えた相談・支援ニーズに応えていく。(写真:アフロ)

対人援助職に就かれている方であれば、少なからず相談者から「地元でない場所で相談をしたい」という希望を受けたことがあると思います。若者の支援は、主にご家族と若者が相談者となるのですが、自宅から近い方が気軽に相談しやすく見える反面、知人や友人に相談するところを見られたり、相談員が知人だったり、というリスクを負うことになります。

誰もが悩みを抱えますし、専門家に相談を受けたいこともあるでしょうが、相談内容がセンシティブであればあるほど、誰にも知られずに相談できることが安心感につながることもあります。

地域では専門機関、専門家がネットワークを形成し、課題を抱えておられるケースについてカンファレンスを開きます。自分が持つ専門性以外の力が必要なとき、顔の見える場で相談ができるのは本当に心強く(個人情報は共有されません)、そこで得た情報を相談者にお伝えしたり、相談者のご訪問に同行したりします。

そんなとき、相談者から「少し遠い場所に同じような場所はありますでしょうか」と言われることがあります。相談者にとって、お金もかからず、何度も足を運ぶ場合の負担などを考えれば、居住地から近い場所の方がよさそうですが、相談者にとって近距離であることが何らかのリスクになるのです。

そこで、育て上げネットの若年者就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ(通所型、東京都立川市)を過去に利用した若者が、どのエリアから通って来られていたのかを調べてみました。

過去、ジョブトレに通った417名の居住地データ(出典:育て上げネット)
過去、ジョブトレに通った417名の居住地データ(出典:育て上げネット)

データで確認できた417名の居住地を見てみると、都内が圧倒的に多いのですが、隣接県(神奈川、埼玉、千葉)から来られた若者が3割もいます。通所型ですので通勤距離と考えると近いとは言えません。茨城、山梨、栃木などは片道2時間ほどかかります。また関東県外では、アパートを借りて、そこからジョブトレに通っていた若者もいました。

ご本人が居住地から引っ越しをして、一人暮らしをしてまで通うのは大きな負担になりますので、もう少し近郊の支援期間をご紹介したのですが、若者からは「自分のことを知っているひとがまったくいない場所がいい」と言われ、ご家族も「地域の目があり、子どもが東京にいると言えば無用な詮索を受けることもありません」とおっしゃっていました。

これらを考えた場合、援助職として相談者が抱える課題解決のため適切な専門機関または専門家を提示するだけでなく、「距離」を含めた提案が必要になります。基本的な流れは地域援助だと思いますが、遠方を望まれる相談者もいらっしゃることを考えると、地域や地元を越えたご提案も必要となります。

近距離:居住する都道府県内で、隣接する市区町村にあればそちらを優先

中距離:居住地から通うことが可能で、公共交通機関のアクセスがよい場所

遠距離:引っ越しが必要となり、できれば宿泊型で寮を活用する選択肢があること

オンライン:一定の制約はあるものの、自宅やカフェなど場所を選ばない

支援機関の情報提供を行うにあたっては、その機関がどのような支援を提供しているのか。コストはかかるのか。不定期でも組織間交流があれば一定程度の情報が流通していると思います。組織間の交流がなくても、個人と個人がつながっていれば、そこから互いに情報をやりとりすることも可能です。それもない場合は、主に公的機関および公設民営の支援機関を探して、情報提供をすることになりますが、ウェブページがわかりづらかったりするとうまく情報が取れない場合があります。

地域を越えた支援機関の情報は日常的に組織および援助者個人がどれだけ外部とのコミュニケーションを持っているかで決まってしまう部分もあります。一方で、いまはインターネットを使っての支援が少しずつ広がってきており、ネットが日常にある若い世代はもちろんのこと、ご家族にとっても少しずつハードルが下がってきているようにも思います。

2018年10月6日には、オンラインを活用してセミナーを受講したり、相談をしたりすることに不安があったり、未経験なので何となく活用しづらいという保護者のためのイベントを大阪で開催します。

「行けない・話せない・知られたくない」ビデオ通話を活用したセミナーおよびビデオ相談体験会のお知らせ

「オンラインで相談をする」の手前である、「オンラインで相談体験をする」機会の提供が必用であると考えたのには理由があります。過去、東北で子育てで悩む保護者向けのイベントをした際、東京から離れていて時間やお金がかかるということでオンラインでの相談を希望される方が多くいらっしゃいました。

しかし、実際にパソコンやスマホからやってみようとしても、なかなかうまく設定ができず、電話などでもサポートしたのですが、最終的にはご自宅近くまで伺って一緒に設定をし、その場で簡易的にオンライン相談の体験会を実施しました。

最初は画面の向こうにいる相談員との話も少しぎこちなかったのですが、慣れてくると普通の相談とあまり変わらないという声があったり、自宅から出て外でスマホを使えることで相談しやすくなったという話も伺いました。

これまは居住地から特にある相談機関をご提案する際には、公的機関や公設民営機関、そして長く関係性のある民間団体をご紹介しておりましたが、それに加えてオンラインというエリアを選ばない形で相談機関をご紹介できるようになってきています。

地域援助を基本としながらも、居住地から離れた場所を希望される相談者にとって、多様な選択肢を提供することができるよう、今後も距離の離れた支援機関とのコミュニケーションおよびオンラインを活用した相談体制の整備、そしてオンライン相談に慣れるためのサポートが各地で実施されることを願います。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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