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ワセダを強くする元Jリーガー監督が、SNSに積極的な理由。

二宮寿朗スポーツライター
外池大亮は母校のア式蹴球部監督に就任。学生のヤル気を促す指導法は注目を集める

 大学スポーツの指導者に求められるものとは何か?

 その人は考えた。一つに、「社会に生きることは何か」を示す必要があるのではないか、と。大学のなか、その競技のなかだけで我々は存在しているのではない。指導者も大きな社会のなかに生きており、学生たちもいずれその大きな社会に出ていく。部、大学、大学スポーツの小さな世界にとらわれず、大きな世界でどう泳ぐかを背中で見せていくか、を。

 今年2月、監督に就任してすぐツイッターを始めた。わずか半年でフォロワー数は1700を超えた。反響は大きかった。

 その人とは、外池大亮、43歳。

 元Jリーガーは今年母校に戻り、早稲田大学ア式蹴球部監督になった。

 エネルギッシュな半生である。現役時代は、空中戦、フィジカルに強い泥臭いフォワードであった。ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)を皮切りに横浜F・マリノス、ヴァンフォーレ甲府、サンフレッチェ広島など多くのクラブを渡り歩き、33歳でピッチを去った。

 引退後は電通に入社。サッカーのスポンサー営業を担当するビジネスマンに転身し、そこからサッカーコンテンツ事業に深く携わりたいとの思いでスカパーJSATグループに転職した。番組制作、広告事業、編成業務などフル回転しながら、蹴球部OB会からの要請を受けて監督に就任。社員業務と大学サッカー部監督を両立する多忙な日々を送っている。

 優秀なビジネスマンらしく、部員のヤル気と自主性を引き出してきた。試合に出られない選手も多い。そのなかで主務、副務、広報担当、集客担当と裏方に回る学生がいる。「一億総活躍社会」ではないが、「全部員活躍社会」を外池は目指そうとした。まず部員にビジョンを決めさせた。「日本をリードする存在になる」――。そのマインドを自覚させ、それぞれが自分の役割をこなしていく。裏方に回る学生の評価、指導を目的に元証券マンのクラブOBを「マネジメントコーチ」に置いたのも外池のアイデアであった。

 外池改革の成果は早くも出ている。今季、関東大学サッカー1部に復帰したワセダは開幕から快進撃を続け、前期を1位で折り返した。2位に勝ち点8差をつけて独走中なのである。全員をヤル気にさせてきた効果だと言っていい。

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 彼は就任してからずっとツイッターで感じたこと、思ったことをつぶやいている。部の情報発信、PRからはじまり、大学サッカーそのものを伝えようとしていることが興味深い。元々の外池ファン、サッカー関係者、ビジネス関係者が次々にフォロワーになって、1700もの数がつながっている。

 なぜ対外に、それも積極的に発信していくのか。

 一つの目的は、まさにPR。

 外池は言う。

「自分たちの価値を高めていくためには、大学サッカーの存在価値そのものを高めていかなければなりません。価値を高めるのは、注目を集めなきゃならない。そのために監督からオープンに情報を発信していけばいいんじゃないかと考えたんです」

 そしてもう一つの目的が学生たちに「自分」を示すこと。部員のほうからフォロワーになる動きが広がった。外池の言葉に、彼らはいつも触れる環境にある。

 外池が続ける。

「僕は会社員でもあるので、監督の僕だけじゃないんです。いろんなニュースや情報が飛び交うなかで、やっぱりいろんなことを客観的に眺めながら日常の僕の考えや思いを伝えていく。そうすることで学生たちも『普通の会社員の人なんだな』って安心するんです。やっぱりバランス感覚って大事じゃないですか。自分なりにバランスを取りながら、自分のポジショニングを見つけていくというか。そういうところを示すことによって、学生たちが参考にしてくれたらいいなって思うんです」

 この「安心」がミソなのかもしれない。

 部、大学という狭い世界ではなく、社会という広い世界に身を置いているとの実感を、学生に持ってもらう。そうすることで社会とのつながりを感じ、今やっていることが「将来の自分」を描くことにもつながっていく。

 世間とは、世の「間」。

「間」にはいろいろな考え方、意見がある。自分の思いと、世間の温度にアンテナを張り、「対外」にさらすことで感覚を磨いていく。バランス感覚は、ビジネス感覚でもある。いつか社会に出ていく部員に、「社会に生きるとは何か」を見せていくためのSNSでもある。

「学生たちの間では『トノさんにツイッターにあげられるから気をつけろよ』って言われているみたいなんです。直接、僕に絡んではきませんから、そのバランス感覚って学生たちは素晴らしいですよ」

 そう言って外池は、うれしそうに笑った。

 元々、情報発信のJリーガーとして愛されてきた。

 2000年に移籍した2つめのクラブ、横浜でブログを始めた。当初はまだ「サッカーの選手でほかにやっている人ってほとんどいなかったんじゃないですかね」。きっかけは、サポーターの人から勧められて。試合に出られなくなっても、応援してくれる人がたくさんいた。その人たちのために何かやれることはないか。それが情報発信だった。そのためにわざわざパソコンも買った。

 その反響は大きく、どのクラブに行っても続けることにした。発信力を買われて、サッカー専門誌では連載まで始まった。

「食事日記をやってほしいと言われて、メニューを撮っていたんですけど、これじゃつまんないなって。そこから料理を撮らないで、食べている選手の笑顔をオフショットとして撮るようにしたんです。これも結構、反響がありましたね」

 せっかくなら見てくれる人に喜んでもらう。それが自分の活力にもなる。モンテディオ山形では「サポーターが選ぶシーズンMVP」に選ばれた。選手とサポーターの心をつないでくれた、と言われたことがうれしかった。

 情報発信とは何か――。

「情報発信って自己満足のためにやっているものではないんです。サポーターのみなさんにも投げかけたり、いろんな考えを共有する。何て言うんすかね、共存共栄というか。一緒にやっていきましょうよっていうスタンス。それは今、ワセダの監督になってからのSNSも同じなんです」

 共有のための発信。

 多くの人との「コミュニケーション」を学生の力に変えて、そして己の力に変えて、外池大亮は古豪ワセダを復活させている。

 後期は9月15日からスタートし、早稲田大は明治大と対戦する。

 部を、大学サッカーを、周りの人たちみんなを。

 自分たちが精いっぱい生きようとする社会を盛り上げるべく、外池大亮はきょうの良き日も発信を忘れない。

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(写真はすべて早稲田大学ア式蹴球部提供)

スポーツライター

1972年、愛媛県出身。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、2006年に退社。文藝春秋社「Sports Graphic Number」編集部を経て独立。著書に「岡田武史というリーダー」(ベスト新書)「闘争人~松田直樹物語」「松田直樹を忘れない」(ともに三栄書房)「サッカー日本代表勝つ準備」(共著、実業之日本社)「中村俊輔サッカー覚書」(共著、文藝春秋)「鉄人の思考法」(集英社)「ベイスターズ再建録」(双葉社)がある。近著に「我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語」。スポーツメディア「SPOAL」(スポール)編集長。

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