パクリかインスパイアか──RADIO FISH「GOLDEN TOWER」とPSY「DADDY」
オリラジのダンスグループ
7月29日、テレビ朝日系列『ミュージック・ステーション』に、オリエンタルラジオを中心とした音楽ダンスグループ・RADIO FISHが出演した。このとき披露したのは、新曲「GOLDEN TOWER(feat.當山みれい)」。
今年上半期に「Perfect Human」で大ヒットしたこともあり、現役高校生歌手の當山みれいを加えたこの曲は、大きな注目を浴びた。
ただ、それを観た視聴者──とくにK-POPファンはかなりざわついた。なぜなら、その曲のサビの部分が、K-POPシンガー・PSYが昨年12月に発表した「DADDY」と酷似していたからだ。筆者も番組を観ていて、一発でそれが「DADDY」とそっくりなことに気づいた。
ネットではすでに「パクリ」という声が目立ちつつあるが、このケースはどのように考えればいいのだろうか。
PSYの強い影響
RADIO FISHの“パクリ疑惑”は、実は今回がはじめてではなかった。大ヒット曲「Perfect Human」も当初からパクリだと言われていた。しかもその対象は、世界的な大ヒットとなったPSYの「カンナム・スタイル」だ。
とは言え、この2曲はそっくりというほど似ているわけでもない。メロディラインが異なり、音楽的に似ているのはサビの直前で「ヘイッ!」と合いの手を入れるところや、一拍置いて「I'm a perfect human」とサビに入るあたりだ。
またサビの一言には変なひとが格好をつけているコミカルさがあり、同時に両者ともサングラスがトレードマークなのも似ている。
とは言え、それは「パクリ」と断じることは不可能な距離感で、どちらかと言えば「インスパイア」と呼べるものだろう。また、音楽ジャーナリストの柴那典氏も指摘するように、そもそも「カンナム・スタイル」にも元ネタがあった。
音楽に限らず創作の世界では、このようにひとつの発想がかたちを変えてべつの発想を導くことは珍しくない。日本でも古来から「本歌取り」の文化があり、現在のオタク文化の世界では「二次創作」と呼ばれるものがある。もちろん著作権に違反するような盗用は問題だが、ある表現が強い影響力を持ちひとつのジャンルの形成していくことは、創作の世界では必須のことだ。
「Perfect Human」は、日本にとても親しみやすいかたちでEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を浸透させた一作だ。そうしたことを考えると、2009年の「Shots」から2012年の「カンナム・スタイル」を経て、2016年に「Perfect Human」として日本に上陸したこの展開は、美しくも感じらる。もちろん、時間がかかり過ぎた感もあるのだが。
「DADDY」の元ネタ
では、「GOLDEN TOWER」と「DADDY」のケースはどうだろうか?
この両者は、やはり非常に似ているというほかない。しかもサビの部分のメロディーがそっくり。具体的には、「GOLDEN TOWER」の「Let's start a CLAZY PARTY」と、「DADDY」の「I got it from my daddy」の部分だ。「パクリ」と言われても仕方ないほど似ている。
昨年12月に発表されたPSYの「DADDY」は、現在までYouTubeで約1億8000万回の再生されるほどのヒットとなっている。これは今年上半期のK-POPでは最高の数字だ。それほどよく知られる曲を、なぜRADIO FISHはここまであからさまに真似したのだろうか。
その理由として考えられるのは、PSYの「DADDY」にも元ネタがあるからかもしれない。それが、will.i.am(The Black Eyed Peas)の「I Got It From My Mama」(2009年)である。
このふたつの曲は、とにかくコンセプトがよく似ている。「DADDY」は、「僕はパパから(身体を)もらったんだ」と歌うのに対し、「I Got It From My Mama」では、曲名どおり「私はママから(身体を)もらったんだ」と女性が歌う。加えて、「DADDY」で女性ヴォーカル・CL(2NE1)の「Hey, where'd you get that body from?」という部分のメロディーは、「I Got~」の「I got it from my mama」の部分とそっくりだ。
このふたつを聴き比べて「パクリ」だと思うひとも多いかもしれない。だが、これは歌詞も含めて極めてあからさまな類似だ。コンセプトが似すぎているがゆえに、これは意図的なアンサーソング、あるいはパロディーソングだと捉えることができる。
では、「GOLDEN TOWER」はどうでか。そこには、明確なコンセプトの一致は見られない。ただ、サビの部分のメロディーが似ている。もちろん、そもそもRADIO FISHのコンセプトが中田敦彦をPSYに見立ててものだとすれば、グループ全体としてパロディだとも言えるが、曲単体ではそれほど文脈の連続性は見えない。
こうした点により、判断が分かれる作品になっているのだろう。
グローバル時代の音楽
「パクリかインスパイアか」という問題は、ネット時代になってより一層目立ってきたことだ。問題意識がTwitterなどソーシャルメディアで共有され、即時に注目されるようになった。今回のケースでも、すでに「GOLDEN TOWER」と「DADDY」の二曲を合成しているひともいる。
とは言え、曲単体で比較すれば、似ているものが見つかるのは不思議ではない。世界中で大量の音楽が制作され続けているので、偶然そっくりな曲が生まれてしまう可能性は避けられない。
こうしたときにひとつ強く留意する必要があるのは、それが単なるパクリなのか、それとも文脈を踏まえたアンサーソングなのか、聴き手が見極めることだろう。また当然クリエイター自身も、しっかりと説明できるだけのコンセプトを構築しておく必要がある。単にメロディーラインが似ているだけでは、パクリだとは言えない。
個人的には、「DADDY」は上記の点をクリアしていると捉えている。だが、「GOLDEN TOWER」は、似ていながらも文脈性をはっきりさせていないので、アンサーソングとも言い切れない。しかも、曲の柱とも言うべきサビの部分が似ている。これはあまりにも不用意だ。
加えてRADIO FISHは、「Perfect Human」でもちょっと脇が甘い点があった。
この曲は、中田敦彦を「完璧な人間」とする内容だが、そこに「気取ってるモーゼとかいうやつもパッカーン」という歌詞が出てくる。どんな表現をするのも自由だが、コミックソングで宗教を軽々しくいじるのは、恐ろしくリスキーだ。それが問題視されていないのは、いまのところ日本国内でしか流通していないから。逆に言えば、この歌詞を入れることで、この曲は欧米に発信することが極めて難しくなった。
RADIO FISHは、今年の日本の音楽シーンで非常に大きなインパクトを残している。韓国から3年遅れでやっと流行したEDMの普及にも、大きな役割を果たした。ただちょっとした不用意さによって、アメリカから韓国を経て日本に渡ってきたこのEDMの文脈が、極東で途絶えてしまうことになる。PSYの「カンナム・スタイル」は全世界でヒットしても、「Perfect Human」は歌詞の段階でそれは不可能だったということだ。
YouTubeなどによりグローバル化の度合いを高めてきたポピュラー音楽において、RADIO FISHのドメスティックなヒットは、日本の閉鎖性を感じさせる現象として捉えられる。あれほどの練り込みがあるのだから、RADIO FISHにもう一段階の工夫とグローバルな視野があれば、世界で勝負できると思えるのだが。