土砂災害で忘れがちな第3の要因〜林業施業が起因となった崩壊が98%〜
10人死亡、1人行方不明と自治体単位で全国最多
6月27日(日)、シンポジウム「令和元年東日本台風の被災地丸森町の被災者の声
~被災者が生活再建するために求められる支援のあり方~」(主催:宮城県災害復興支援士業連絡会、後援:仙台弁護士会)がオンラインで開催された。
令和元年東日本台風(台風19号)は、関東、甲信、東北地方など甚大な被害をもたらしたが、丸森町では、10人死亡、1人行方不明と、自治体単位では全国で最多の犠牲者を出した。
基調講演では、大阪市立大学の菅野拓准教授が「災害対応ガバナンス・被災者支援の混乱を止める」というテーマで、「災害対応ガバナンス」(=被災者の利益のために、国・都道府県・市町村・サードセクターといった災害対応を実施する様々なアクターを規律付けるメカニズム)を設計する必要性を述べた。
石巻、仙台などで被災者の実態を調査した経験をもとに、「一人ひとりの被災の状況を把握し、適切な支援を行う仕組み」がないこと、「現行災害法制が不十分であること」などを指摘。そのうえで「どのような統御のメカニズムを平時に組み込んでおくべきか」を考える重要性を述べた。
第2部では被災者支援活動報告が行われた。
そのうちの1人、地域支援団体「ConnectFeelings」の代表、菅野由香理氏は自身の被災体験やその後の調査から、土砂災害が発生する要因について語った。菅野氏は林業の専門家、地元議員、地域住民などと何度も現場に足を運んでいる。
700ミリを超える雨×崩れやすい真砂土
菅野氏は土砂災害が発生する要因を以下の図を用いて説明。
1番目の要因の「雨」という点では、台風19号が襲った2019年10月12日から13日の総雨量は「最新データでは700ミリを超える雨」とし、「豪雨により、丸森町内の阿武隈川本流と支流が氾濫」「特に支流での土砂流出が激しかった」と報告。
2番目の要因の「土地」という点では、「崩壊箇所の85%が真砂土(花崗岩の風化地帯)エリアに集中」と指摘。「崩れやすい真砂土の山が多数崩壊し、コアストーンが被害を拡大させた」と述べた。
たとえば、同町の廻倉地区では、地表近くの真砂土が大雨で流れて、地面の下にあったコアストーンが出現。土砂崩れのはじまった場所は、幅2メートル程度だったが、土砂が斜面を数百メートル流れるうちに、真砂土やコアストーンを巻き込み、大きな土石流となった。
その結果、11世帯、39人が暮らしていた集落が土砂によって破壊され、3人の命が失われ、1人が行方不明となった。
林業施業が起因となった崩壊が98%
ただし、1番目と2番目の条件が揃っても「崩れた場所と崩れなかった場所があった」(菅野氏)と指摘。
忘れがちな3番目の要因は「土地開発」で、丸森町の場合、林業との関係があった。
菅野氏は、NPO法人自伐型林業協会による調査を示しながら、「廻倉地区54の崩壊箇所を調査すると、皆伐地が35件(65%)、皆伐・間伐の作業道起因の崩壊が16件(30%)、林道・公道起因の崩壊が2件(4%)と、昨今の林業施業が起因となった崩壊が98%を占めた。人工林・広葉樹林の自然崩壊は1件(2%)だった」と述べ、「今後は災害を起こさない林業に注目したい」とまとめた。
土砂災害が発生する要因は、雨、土地という自然的な要因と、土地開発という人為的な要因が考えられる。「想定外の雨が降った」「低いところから逃げて」などとメディアで繰り返されるので、人々は雨と土地には比較的に注意が向く。
しかしながら、上流部での皆伐やメガソーラー建設など、土地開発のことは知らないことが多い。そして重要なのは、雨、土地という自然的な要因は防ぎにくいが、土地開発であれば、事前に手を打つことが可能なのである。
シンポジウム終了後に菅野氏に聞くと、「土砂災害についての視点が変わったという人がたくさんいたのはよかった。地元の人でも土地開発と災害の関係について知らない人は多い。全国的に災害対応(法改正)を動かす動きになっているが、そもそも災害が起きない為にできることを並行して進めていきたい」と語った。
これから豪雨災害の起きやすい季節になる。雨量だけに注目するのではなく、土地や土地開発にも注目したい。