【特別対談】プロフェッショナルのキャリアvol.3「働き方改革は誰のため?」 森本千賀子×倉重公太朗
前回までの記事はこちら。
Vol.1:https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20180730-00091270/
Vol.2:https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20180731-00091384/
倉重:森本さんは企業に対して働き方改革の講演とかアドバイスしたりする機会があると思います。その中で、良い改革と悪い改革ってのがあると思うんですが如何ですか?
森本:そうですね、誰のためのとか、何のためのとかということの目的が抜けていて、手法、手段に走っているといいますか、とにかく残業を削減すればそれでいいという例はありますね。
そこにフォーカスしちゃうと業務のボリュームは減らないわけですよ。業務のやり方が変わらないので。それで残業は減らすと言われて早く帰らなきゃいけないけれども、業務は減らないという矛盾ですよね。じゃあそのしわ寄せはどこに行ってとかいうと、管理職に行っているという例がありますね。
倉重:そうですね。管理者の労働時間がものすごく延びてるところもあるみたいですね。
森本:それが転職の相談に来られたりするわけですよ。上からと下からの挟み撃ちで。
倉重:やっと管理職になったと思ったら、プレーヤー的な仕事も増え。
森本:もうとにかくメンバーは早く帰らせなきゃいけないので残った仕事を管理職の人たちがせっせとやるみたいな。
倉重:管理職の割合をこれまでより増やそうとしている会社もあるようで、それは労基法的にだめなんですけどね…
森本:そうなんです。だから悪い意味での手段に走ったり、働きやすさという観点でも例えばリモートワークとか、時間短縮勤務制度とか、そういう制度はかなり整備されているところも増えているんですが、実は働きやすさだけ求めても人は満足しないんですよね。
そこにはやっぱり「働きがい」が重要で、例えば女性でいうと、出産後、時間短縮勤務制度を取っていいよというところが相当増えているんですが、一方でいろいろな制約があるわけです。例えば「管理職」になれないだとかです。
あとは兼業とか副業はしていいよと言いながらもよくよく中を見るとものすごい制約があって、結局、何か隙間ないじゃんみたいなこととか。
だから「働きやすさ」の点で、多様な制度構築はすごく進んでいるんですが、一方で、本当の意味での「働きがい」的なポイントが議論されていないというのは強く感じます。
倉重:先日、国会でも働き方改革法案が成立して、国としても本気で働き方改革に取り組むぞということで労働基準法も変わり、行政も強く後押ししている。企業も取り組んでいる。でもじゃあ、働きがいのある職場が増えたな、働き方が良くなったなと思っている人がどれほどいるのかってことですよね。
みんな本気でやっている筈なのに、現状で何故そんなギャップがあるのかなと思うわけです。みんなが何とか良くしたいと思っているのに、実際働く人にとっては
「何か手取り減っただけじゃね?」と、つまり残業代なくなっただけじゃないかって受け取られ方をしますよね。
森本:残業代なくなっただけじゃんっていう声は多いですね。
倉重:そういうふうにまだ捉えられちゃっているという根本的な原因は何でしょうかね。
森本:多分、すごく強く感じるのはキャリアということの本質的な議論というのがまだまだ少ないからではないでしょうか。戦略的に社員一人の例えばキャリア開発や仕事のアサインメントも含めて、その人がより成長する環境をどうやってつくってあげたらいいかという視点でみるべきなんですよね。
しかし、そういう議論ではなくて、とにかく「管理」する人事が多かったりしているのはすごく感じます。
倉重:今、キャリアの本質的議論という意味では、例えば昔の日本型雇用の場合はもう会社に入る、入社するという言い方が表すとおり、基本的に人生をそこで捧げるという終身雇用でやっていくというのが前提ですよね。そうすると昔のキャリアというのは、基本的にその会社の中でのキャリアという意味だったわけです。
しかしもう終身雇用というのは事実上なくなりつつある中で、多分、今の会社でのキャリアというのが見えなくなってしまっている人が悩んでいるんだろうなと思う訳です。
森本:いやいやもう、まさにまさにそう思います。
倉重:私もそう思うんですよ。そのときに人事部、あるいは経営層含めてですけれども、キャリアというものを労働者に対しても見せてあげられていない。こういうのが何か本質的なミスマッチのような気がします。
森本:いや、もうまさにまさにそう思っていて、じゃあ社内でできないんだったらじゃあ外でやっていいよとかね。ある意味、門戸を開放してあげるというようなこともまだまだできていないんですよ。兼業とか副業規制がものすごく強くて、やりたいんだけれども、基本的にはやっちゃだめという、無言のプレッシャー?がありますね。
倉重:森本さんがご覧になっている中で、いい副業みたいなのというのは結構あります? こういう副業はいいぞというモデルケース。
森本:例えばNPOですかね。NPO法人とか、ボランティア。私、今、二か所でNPOの理事をやっているんですけれども、これはめちゃくちゃ勉強になるんです。
何がかというと、例えば経営会議とかに参加したときに、NPOというのは経営指標というのは社会貢献がKPIになるわけです。ついつい私なんかはリクルートのときの癖が出ちゃって、それはもうかる事業なのかと。収益構造どうなんだとか、収益としてそこに課題はないのかというふうな見方をしちゃうんですけれども、NPOというのはそうじゃなくて、それはそれだったら株式会社でやればいい、と言われます。
そうじゃなくてNPOというのは株式会社がやらないことをいかにやるかということで、社会貢献のアウトプットができているかということを見ていかなきゃいけないという議論なんです。
だからそういう視点さえもやっぱりそういう議論の中にいると、めちゃくちゃ新鮮で、本質的な本当の企業価値だったりとか、組織の存在価値って何なのかみたいなことをすごく問われるというんですか。
そういうことに多分参加するだけでも新しい視点とか示唆みたいなものを多分もらえたりするのと、普段、会話している人種とは全く違うバックグラウンドの人たちとのコミュニケーションだったり議論みたいなことが起こり得るので、ものすごくやっぱり勉強になるし刺激になるという、多分そういう場がある意味、イノベーションを起こすきっかけになるんだと思っているんです。
倉重:確かに!私もトーストマスターズという、スピーチやリーダーシップを学ぶNPOであったり、あと人事パーソンが集まるJSHRM(日本人材マネジメント協会)というNPOの執行役員をやっていますけれども、やっぱり弁護士の本業だけじゃない人たちとの出会いであったり、全く発想が違う人たちとの議論というのはすごく刺激がありますよね。
森本:めちゃくちゃ刺激受けてます。どうしても日本の企業の場合って同質化しがちで、やっぱり採用基準が仲間として受け入れられるかどうかみたいな感じになっているところが多いんですよね。そうするとやっぱり価値観とか、ものの考え方が似かよってくるので、そこに後ろ側からぽーんと新しい意見が出てくるみたいなことのために、私はどんどん外に出ていってそういう刺激を受けるべきだと思っているんです。
(vol.4へつづく)
対談協力:森本千賀子
1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒。
1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援サポート全般を手がけ、主に経営幹部・管理職クラスを求めるさまざまな企業ニーズに応じて人材コーディネートに携わる。約3万名超の転職希望者と接点を持ち、約2000名超の転職に携わる。
約1000名を超える経営者のよき相談役として公私を通じてリレーションを深める。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など受賞歴は30回超。常にトップを走り続けるスーパー営業ウーマン。
プライベートでは家族との時間を大事にする「妻」「母」の顔 も持ち、「ビジネスパーソン」としての充実も含め“トライアングルハッピー=パラレルキャリア”を大事にする。
2017年3月には株式会社morich設立、代表取締役として就任。
転職・中途採用支援ではカバーしきれない企業の課題解決に向けたソリューションを提案し、エグゼクティブ層の採用支援、外部パートナー企業とのアライアンス推進などのミッションを遂行し、活動領域も広げている。
また、ソーシャルインベストメントパートナーズ(SIP)理事、放課後NPOアフタースクール理事、その他社外取締役や顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。
3rd Placeとして外部ミッションにも積極的に推進するなど、多方面に活躍の場を広げている。
本業(転職エージェント)を軸にオールラウンダーエージェントとしてTV、雑誌、新聞など各メディアを賑わしその傍ら全国の経営者や人事、自治体、教育機関など講演・セミナーで日々登壇している現代のスーパーウーマン。現在、2男の母。