丸一日動かなかった北朝鮮の列車、いきなり動いて人を轢く
北朝鮮では故金日成主席が示した方針に従い、1960年代から大々的な鉄道電化事業が繰り広げられ、全体の8割が電化された。世界最大級と言われた水豊ダムを擁し、石炭などの燃料も豊富だったので、鉄道を電化することは経済発展を目指す上で合理的と考えられたのだ。
ところが、1990年代以降の発電設備の老朽化、そして深刻な経済難により、極度の電力不足に陥る。そして高い電化率がアダになり、鉄道はマヒ状態に陥ってしまった。例えば首都・平壌から北部の恵山(ヘサン)までは、時刻表通りなら23時間ほどで到着するのに、実際には10日もかかった事例などが伝えられている。
現在は状況がかなり改善したと伝えられているものの、列車が停電で立ち往生することはしばしば起きている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、先月末に平壌から穏城(オンソン)に向かっていた列車が、停電で咸鏡南道(ハムギョンナムド)を通過中に停まってしまった。
(参考記事:通勤列車が吹き飛び3000人死亡…北朝鮮「大規模爆発」事故の地獄絵図)
一日経っても列車は動かず、何のアナウンスもなかった。乗客は次々に列車から降りて、食べ物を求めて近所の店に行ったり、水を汲みに水道のあるところに行ったりしていた。
ところが、列車が何の予告もなく突然動き始めたのだ。列車から降りていた乗客は、「止まれ!」と叫んだり、列車に向かって手を振ったり、飛び乗ろうとしたり、大騒ぎとなった。
ドアの手すりを掴んで列車に飛び乗ろうとしたある乗客が、バランスを崩して転落。列車に轢かれて死亡する事故まで起きたが、それでも列車は止まらず、走り去ってしまった。
食糧の買い出し、家族の不幸、出張などで列車に乗っていた多くの乗客が、寒空の下で取り残されてしまい、無責任な列車運行イルクン(責任者)と国に対して非難の声を上げた。
「平壌から穏城まで行くのに、1日以上も列車が止まって苦労することは数十年続いているのに、国は何の対策も取らない。こんな国がどこにある」
「電圧が少し低いだけで機関車がまともに運行できなくなり、乗客が夜通しで苦労しているのに、国は毎年鉄道計画を100%達成したと嘘をついている。この国の列車は牛が引いているのか」(乗客)
これに対して鉄道イルクンは、「電気がいつ供給されるのか、いつ途切れるのかわれわれにもわからない状況なので、急いで出発するしかなかった」と弁明しているという。死者まで出した今回の騒動だが、結局、誰も責任を取らないままウヤムヤにされてしまったという。
北朝鮮の鉄道は、停電で頻繁に止まるだけではない。施設の老朽化で事故が多発している。屋根にまで人を満載した列車が谷底に転落したり、火薬を積んだ列車が爆発したりして、一度に数千人の死者を出す事故すら起きている。
鉄道史上最悪と言われる事故2件は、いずれも1917年にルーマニアとフランスで起きているが、いずれも死者は1000人に達しないことから、北朝鮮は非公式ながら非常に不名誉なギネス記録を持っていることになる。