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ゴールラッシュが続くWEリーグカップ。10月のリーグ開幕に向けた“前哨戦”で初代女王の座に輝くのは?

松原渓スポーツジャーナリスト
WEリーグは今季も拮抗した試合が多くなりそうだ(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 サッカーの試合は、時に予想もしなかったドラマチックな結末を迎えることがある。2-0や3-0からの逆転劇や、アディショナルタイムの決勝弾、点を取ったり、取られたりのシーソーゲームなどだ。

 WEリーグは10月に開幕を控えていて、現在はカップ戦が行われている。先週末に行われた3試合は、計14点のゴールラッシュ。そのうち11点が後半に生まれた得点で、どの試合も最後までどう転ぶかわからないエキサイティングなゲームだった。

サンフレッチェ広島レジーナ2―2ノジマステラ神奈川相模原

 この試合はなんと、84分以降に4ゴールが決まった。均衡を破ったのはFW藤原加奈(相模原)のスーパーゴール。しかしその3分後に途中出場のFW立花葉(広島)が決めて振り出しに戻す。広島はアディショナルタイムにFW川島はるながボレーシュートを決めて逆転し、このまま試合終了かと思われたが、相模原がラストのコーナーキックで押し込み(公式記録はオウンゴール)、勝ち点1を分け合う結果となった。

マイナビ仙台レディース3―3ちふれASエルフェン埼玉

 仙台が3度リードを奪ったが、埼玉が3度追いつき、稀に見るシーソーゲームとなった。仙台は新加入のモンテネグロ代表FWスラジャナ・ブラトヴィッチのゴールで先制したが、埼玉は後半開始早々にMF佐久間未稀がクロスを押し込んで同点に。その後も56分(仙台)、58分(埼玉)、77分(仙台)、89分(埼玉)にゴールが生まれ、まだ点が入りそうな余韻を残してタイムアップとなった。

日テレ・東京ヴェルディベレーザ2―2INAC神戸レオネッサ

 この試合は東京NBが20分までにFW植木理子の2ゴールでリードを広げた。しかし、INACは62分にクロスをMF守屋都弥が頭で合わせて決め、反撃開始。試合終了直前にはコーナーキックをFW田中美南が頭で決めて、勝ち点1を分け合う結果となった。

 スコアレスドロー(0-0)でも面白い試合は多々あるが、やはりゴールが多い試合は楽しい。スタジアムの熱量も高まり、ドラマが起こりやすい雰囲気も生まれる。

 WEリーグは昨季、1試合あたりの平均ゴール数が「2.36」だった。ヨーロッパの主要リーグ(フランス、ドイツ、スペイン、イングランド)は同3ゴール前後で、比較するとゴール数の少なさはWEリーグの発展に向けた伸びしろであると、以前の記事に書いた。

 だが、今季はカップ戦(ここまで16試合が行われた)で1試合あたり平均3.2ゴールが生まれている。

 その要因を考えてみると、プロ化初年度を経て各チームの戦い方の土台が安定したことや、補強も含めて新たな得点パターンを獲得していることが挙げられる。10月に開幕するリーグ戦に向けて、カップ戦は新戦力を積極的に起用するなどチャレンジしているチームも多い。

昨季の土台に、各チームのさらなる積み上げが期待される
昨季の土台に、各チームのさらなる積み上げが期待される写真:西村尚己/アフロスポーツ

【今季初の対戦は見どころの詰まったドローに】

 ベレーザ(東京NB)とINAC神戸による東西の強豪対決は、毎回、白熱した試合になる。今回はグループBの首位争いでもあり、結果は2-2のドロー。様々な因縁が絡み合い、見どころが詰まった一戦となった。

 代表選手は両チーム合わせて9人。また、U-20W杯でMVPに輝いたFW浜野まいか(神戸)や、同大会で10番を背負ったMF藤野あおば、ブロンズボールを受賞したMF山本柚月(東京NB)らを筆頭に、次世代のタレントが揃っている。加えて、古巣対決の選手も増えた。

 INAC神戸は3年目のFW田中美南、2年目のGK山下杏也加に加えて、今季からDF土光真代が東京NBから加入。一方、東京NBはDF西川彩華がINAC神戸から加入し、初の古巣対決を迎えた。

 両チームの直近6シーズンの対戦成績は興味深い。2016年から2019年は東京NBが7勝3分1敗と勝ち越していたが、20年以降はINAC神戸が4連勝。その要因の一つが、田中の決定力だ。

 2016年以降、INAC神戸戦では11試合8ゴール。2020年にINAC神戸に移籍後は5試合で4ゴールと、古巣に強烈な恩返しを続けてきた。この試合もアディショナルタイムに同点弾を決め、個人の無敗記録を「12」に伸ばしている。

「ベレーザは相手の嫌な位置を取るのが上手なチーム。前半は周りのサポートも含めた中盤の動きが少なく、後手に回ってしまいました。でも、交代で入ってきた選手たちが勢いをつけてくれて、引き分けで終われたことをポジティブに捉えています。(古巣対戦では)ピッチに立った時に勝ちたい、点を取りたいという思いが強く、結果的にゴールや、(無敗の)記録にもつながっているんだと思います」(田中)

昨季は得点ランク2位だった田中美南
昨季は得点ランク2位だった田中美南写真:森田直樹/アフロスポーツ

 東京NBで下部組織から13シーズンプレーした土光にとっても、初の古巣対戦は感慨深かったようだ。

「試合中、ベレーザの選手にパスを出しそうになって、ユニフォームの色を何回も見て確認してしまいました(笑)。(植木)理子にやられてしまったところもあったけれど、マッチアップは楽しかったです。リーグ戦では絶対に勝ちたいです」と、柔らかい表情で振り返った。

 INAC神戸の補強は土光に加えて、DF脇阪麗奈(←相模原)、MF山本摩也(←エスパニョール)らが加入。MF中島依美(→仙台)、FW京川舞(→ポツダム)、DF西川彩華(→東京NB)ら、主力が抜けた穴を埋める即戦力を補強した。

 新指揮官には、Jリーグのヴィッセル神戸などでプレーした朴康造(パク・カンジョ)監督が就任。昨季チームを率いた星川敬監督(現Y.S.C.C.横浜)は、高い守備力を備えたチームを作り、リーグ初代タイトルを獲得した。朴新監督はそのベースを引き継ぎながら、よりアグレッシブなスタイルにチャレンジしている。

 この試合でも東京NBに負けじとハイラインで撃ち合いを挑み、昨季からの変化を印象付けた。変化に伴う痛みは覚悟している。

「うまくいかない時間帯もありましたが、ビッグチャンスもあった。攻撃に関しては悲観していません」と、朴新監督は手応えを口にした。

 昨季、リーグ初代MVPに輝いたGK山下杏也加も、「ミスを恐れないでチャレンジを追求したいし、そこで結果がついてくればリーグもいいスタートが切れるのかなと思います」と、今はリーグ戦に向けた雌伏の時期であることを明かした。

【即戦力が続々台頭する東京NB】

 東京NBは今季、土光に加えて右サイドバックのDF清水梨紗が8月にウエストハムに移籍。DF松田紫野が負傷で長期離脱を余儀なくされるなど、厳しい台所事情が伺える。一方で、下部組織から即戦力がどんどん育ってくる強みは今季も健在だ。

 7月のチーム始動以降、U-20W杯やU-17W杯で主力が不在となり、新型コロナウイルスによる練習中止も重なったため、全員が揃って練習できたのは9月に入ってからだという。それでも、この試合は個々のスキルの高さを随所に見せた。

 前線では植木が2019年の直接対決以来のゴールでサポーターを沸かせた。8月のアメリカ遠征を経て、シュートへの意識は変化したようだ。

「アメリカで海外の選手と対戦して、遠くからシュートを打つ意識が足りないと感じました。遠くからシュートを狙うからこそ、ペナルティエリア内で崩すところが効いてくる。インパクトの強いシュートを打てれば、ベレーザらしいサッカーがより濃くなると思います」

代表でもゴール数を伸ばしている植木理子
代表でもゴール数を伸ばしている植木理子写真:長田洋平/アフロスポーツ

 新戦力の西川は、ボランチやサイドバックなど、さまざまなポジションで新境地を切り開いている。また、サイドでは昨季後半戦から出場試合数を増やしてきた藤野が、持ち前のスピードとドリブルでチャンスを創出した。

 初の世界大会で刺激を受け、成長に飢えた18歳は「まだまだゴールに迫るアイデアの引き出しが少ない。次の試合はもっとゴールを意識したいです」と、今週末の相模原戦に向けて言葉に力を込めた。

 カップ戦はここまで、グループBは東京NBとINAC、グループAは浦和と長野と埼玉が3試合無敗と、接戦だ。

 今週末の結果によって、決勝進出チームの行方はある程度見えてくるだろう。また、19日の試合では、埼玉(田邊友恵新監督)と長野(田代久美子新監督)による、WEリーグ初の女性監督対決も実現する。

 多くのゴールが見られることを期待しつつ、夏の余韻が残るスタジアムでの観戦を楽しみたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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